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地下神殿で見つかった古代のツボ、中には“謎のペースト” 正体は2500年前の「ハチミツ」だったInnovative Tech

» 2025年08月04日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

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 英オックスフォード大学などに所属する研究者らが発表した論文「A Symbol of Immortality: Evidence of Honey in Bronze Jars Found in a Paestum Shrine Dating to 530-510 BCE」は、再分析により古代のツボに入っていた物質が2500年前の蜂蜜だと証明した研究報告だ。

研究の概要
ツボに入っていた残留物

 紀元前6世紀のイタリア南部パエストゥムで見つかった地下神殿から、青銅製のツボに入った謎の残留物が1954年に発掘された。発掘当時、6つのヒュドリア(水差し)と2つのアンフォラ(両手付きツボ)が、空の鉄製寝台を囲むように配置されていた。ツボの中には強いろうの香りを放つペースト状の物質が入っており、コルク栓で密封されていた痕跡から、元は液体または粘性のある液体だったと考えられた。

 それから約40年後の2019年、この謎の物質がオックスフォードの博物館に展示されることになった。これを機に、最新の科学技術を使って再調査が行われた。研究者たちは、物質の中心部から慎重にサンプルを採取し、これまでとは全く異なる方法で分析を始めた。

(A)パエストゥムの地下神殿、(B)博物館で展示されていたヒュドリア、(C)神殿内の青銅製のツボの配置の図解、(D)残留物の中心部から採取したサンプル

 考古学者たちは当初、この物質を「不死の象徴」である蜂蜜と推定したが、その後70年(1950年代〜1980年代)にわたる3回の科学分析では、いずれも蜂蜜の存在は否定されてきた。蜂蜜ではなく、ただのろうか脂肪、樹脂の混合物だと結論づけていた。

 分析の結果、残留物からヘキソース糖(ブドウ糖や果糖)が検出され、その含有量は現代の蜜ろうの10倍に達していた。さらに重要な発見は、西洋ミツバチ由来の主要ローヤルゼリータンパク質(MRJP-1、MRJP-2、MRJP-3)の同定である。

 これらのタンパク質は働き蜂の咽頭腺で生産され、蜂蜜の主要タンパク質として知られている。複数のペプチドが回収され、高い統計的有意性を持って同定されたことは、この残留物に蜂製品が含まれていたことの決定的な証拠となった。

 興味深いのは、残留物の黒く変色した部分から、糖が加熱されたときにできる特殊な化合物が見つかったことだ。これは、銅イオンの殺菌作用によって、その部分だけが微生物の分解から守られ、古代の化学的痕跡が保存されていたことを示している。

 古代ギリシャ・ローマ文化において、蜂と蜂蜜は宗教的・象徴的に重要な意味を持っていた。神話によれば、ゼウス自身も幼少期に蜂蜜で育てられたとされ、蜂蜜は知恵を育むと信じられていた。この地下神殿の空の寝台と近づきがたい構造は、神がそこに存在することを示しており、青銅製のツボに入れられた蜂蜜は「不死の象徴」として神にささげられた供物だったと考えられる。

Source and Image Credits: Luciana da Costa Carvalho, Elisabete Pires, Kelly Domoney, Gabriel Zuchtriegel, James S. O. McCullagh. A Symbol of Immortality: Evidence of Honey in Bronze Jars Found in a Paestum Shrine Dating to 530-510 BCE



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