リビング+:特集 2003/02/21 15:00:00 更新

著作権保護とP2P技術のはざまに
P2Pに負けないコンテンツを創る 〜SME、佐藤氏

P2P技術を、音楽配信側はどうとらえているのか?ソニー・ミュージックに聞くと、根本から解決しようと意気込む声が返ってきた

 日本MMOの裁判の原告には、著作隣接権者である19のレコード会社が名を連ねている。レコード会社の多くは、自らもネットでの音楽配信事業に取り組んでいるがネット技術の進化を複雑な思いでとらえているのではないだろうか。

 中間判決では満足いく結果が出たが、今後P2P技術が脅威となる可能性は否定できない。そんな中、レコード会社はネット配信をどのように展開しようとしているのだろうか? 不正コピーに対しては、どのような策を講じていくのだろうか? ソニー・ミュージックエンタテインメントのコーポレイト・スタッフ・グループ 経営戦略・カンパニーサポートチームシニアマネージャーの佐藤亘宏氏に話を聞いた。

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 ソニー・ミュージックエンタテインメントの佐藤氏

「オフィシャルな」ルートとしてネット配信に参入

 ソニー・ミュージックエンタテインメントがネットでの音楽配信事業を開始したのは、1999年の12月。早くからネット配信に対して積極的に取り組んできた。しかしながら、当初から事業として具体的な展望を持っていたわけではないという。

 「1999年は音楽配信に関して、第一陣的な流れが出てきた時期。米Napsterの話題もあり、不正コピー流通の可能性も取りざたされる中、『音楽をオフィシャルに入手するのはレコード会社から』という流れを先に作っておきたかった」(佐藤氏)。

 当時、ネットそのものを不正コピーと関連付けて、否定的にとらえる事業者もあった。しかしソニー・ミュージックは、このインターネットの波を止めるのではなく、その土俵に飛び込み、ユーザーに対し「オフィシャル」な選択肢を提供するという方法を選択したのだ。

「ネット配信でCDが食われるわけではない」

 では飛び込んだネットの土俵で、同社はどんな展開を続けているのだろうか? 佐藤氏は「メディアの種類によってコンテンツは変わるもの。ノンパッケージメディアが生きる道はある」と話す。

 たとえば、未発売のアルバム収録曲を「ネットシングル」として先行配信するなど、リアルCDと連動させたプロモーション企画を実施。また、メインターゲットである20代後半−30代に訴求する楽曲の増加を目指しているという。

 昨年末には、80年代に活躍した邦楽アーティストの名曲を600曲配信。洋楽配信にも力を入れているようで、今年に入って、リクエストの多かった洋楽タイトルを500曲追加配信したほか、2月28日からは「ALL TIME HITS」と題して70年代・90年代の洋楽名曲を300曲以上配信し、3月以降は毎月100曲以上追加していくという。

 しかしながら、レコード会社のネット配信には、CDとのバッティングという懸念材料がつきまとう。この点について佐藤氏は、「日本ではすでにCDレンタルの文化が根づいているが、その中でもCDを買う人は確実に存在する」と説明。

 ユーザーは既に“買う”“借りる”といった使い分けに慣れており、ここに“ネットで購入する”という選択肢を追加できれば、極端な混乱はないものとの見方を示した。

「P2Pに負けないくらい充実したコンテンツを」

 現在、ソニー・ミュージックから提供されているコンテンツにはエンクリプションがかけられており、専用プレイヤー「MAGIQLIP」(記事参照)でしか再生できないようになっている。その点でセキュリティ対策は問題ないが、既存のCDをコピーして配布することまでは防げない。当然、P2P配信の広がりなどは気になるところだろう。この点について、佐藤氏はこう答える。

 「当然、我々は違法コピーを撲滅する立場にあり、1つひとつ潰していくという姿勢ではある。が、PCのカルチャーとつき合っている限り、一部の(違法コピーを行う)マニアの動きまで止められるものではない。それよりも、やらなければならないのは、P2Pに負けないくらい充実したコンテンツを届けるということ。『有料コンテンツでロクなものが買えないから、WinMXで検索する』というのは、ユーザーの立場から見れば、正論の部分もある」。

 佐藤氏が一貫して主張しているのは、「違法行為を止めるのではなく、エンクリプトされたコンテンツをしっかりと広める」という点である。そうすることにより、悪意のないユーザーが犯罪に加担してしまうのを防げるというわけだ。もちろん、P2P技術そのものについては否定していない。

 「情報の伝達技術として、P2Pにはいい部分もあるだろう。セキュアなP2Pという考え方については、その技術がしっかりとしてさえすれば問題はない。……ただ、著作権は守られるべきもの。『このような動きがネットの本質だから、甘くしてほしい』という理屈についてはどうかと思う」。

 佐藤氏、もしくはソニー・ミュージックの意見が、必ずしもレコード業界を代表する意見とは限らないが、極めて現実的な見方をしているといっていいだろう。同社のネット上での楽曲ダウンロード件数は、昨年末で月間7万件。洋楽曲追加配信などにより、今後さらに増加が期待できるという。

 佐藤氏は「個人的な意見」と前置きした上で、「業界全体で月間100万ダウンロードになれば、嬉しい」と話した。

特集を振り返って

 今回の特集は、「P2P技術と著作権者の正しい関係を探る」ことをテーマに取材を行った。さまざまな立場の方にご登場を願い、その言葉を聞いて、改めて問題の難しさ認識した。しかしその中で、ひとつだけ確実に分かったことがあった。

 それは、どの立場の人間も“P2P技術”そのものをいたずらに敵視し、つぶそうとしているわけではない――ということ。日本MMOのサービスをめぐる裁判など、IT業界にとって不幸ともいえる出来事もあったが、これが今後の技術の進歩を妨げるものではない。

 今後、P2P技術保有者と著作権者がさらに相互理解を深めていくことを願い、また、われわれメディアの提供する記事が、その一助となればと思う。

文:杉浦正武

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[姉歯康,ITmedia]



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