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2003/12/15 21:15:00 更新 |
短期集中連載:東大公開講座より〜
「ゲームが人を暴力的にする」は支持されつつある
ゲームは、人間をダメにするという議論がある。いわく、人を暴力的にする、ひきこもりにする、“ゲーム脳”にする――。こうした主張の一部は、メディアにも乗って人々の不安をあおっている。では、研究者たちはどのように考えているのか? 東大公開講義で探った。
ゲームは、人間をダメにするという議論がある。いわく、人を暴力的にする、ひきこもりにする、“ゲーム脳”にする――。こうした主張の一部は、メディアにも乗って人々の不安をあおっている。では、実際にこうした問題を研究する学者たちはどのように考えているのか?
こうした疑問を解消する格好の機会に、先日出会うことができた。東京大学ゲームプロジェクトは12月12日、東大構内で「テレビゲームと子供たち−社会心理学の立場から−」と題した公開講義を開催した(記事参照)。これは「東京大学ゲーム研究プロジェクト」の活動の一貫として行われたもの。同プロジェクトは、東京大学大学院情報学環歴史情報論研究室とIGDA東京(International Game Developers Association東京支部)が共同で運営している。
講義では、社会情報学/社会心理学を研究する、お茶の水女子大学大学院、人間文化研究科の坂元章助教授が登場し、ゲームに関する研究の動向を紹介した。この内容を、本日から複数回にわたって短期集中連載のかたちでお届けしよう。
お茶の水女子大学大学院の、坂元章助教授
「ゲームで暴力性増す」は認められつつある
まず坂元氏が取り上げたのは、「ゲームは人間の暴力性を増幅するか?」というテーマ。ゲームで登場する暴力シーンにより、子供が暴力を“学習”し、暴力的になり、ひいては犯罪者になるのでは、という議論だ。「これは、ゲームの影響として一番心配されているところ」(同氏)。
この話に入る前に、坂元氏は「テレビの暴力シーンは人を暴力的にするか」という議論を紹介する。この問題は、テレビというメディアが、ゲームよりも歴史が古いぶんだけ、研究が進んでいるという。
そして、こちらはほぼ結論が出ている。「テレビで暴力シーンが流れると、人の暴力傾向は強まる。これは研究者の間で、かなり合意されている」。
テレビではよく、“ヒーローが怪物(悪者)を倒す”という場面があるが、これにより視聴者は「暴力が優れた問題解決の手段である」と認識する。当初は「テレビ上で欲求不満を解消できる(そのため暴力性は高まらない)」という説もあったが、研究が進むにつれて支持されなくなったという。
話をもどして、ゲームではどうか。テレビでは第3者の暴力であったのに対し、ゲームでは自ら能動的に敵キャラクターを倒す。映像のリアルさという点でも、最近ではテレビと変わらなくなってきた。さらにゲーム内では、敵をたおすごとにポイントを獲得できるなど、暴力に対する“報酬”も用意されている。このため、「より強く暴力性を高める働きがある」という議論も考えられるところだ。
坂元氏は、「1997年ぐらいまでは、研究を見ても『あまり影響がないかな?』という印象だった」と話す。
しかし、その後どんどんとゲームの影響で暴力性が高まるという研究結果が発表され始めた。こうした研究を統合した研究結果も登場したほか、最近になるほど影響を強く認める論文が発表されているという。
「研究者の間では、ある程度(ゲームが人を暴力的にすることを)認める方に傾いていると思う」(同氏)。
なお、前述のように「能動的暴力のため、テレビより人を暴力的にする働きが強いか」については、よく分かっていないという。ゲームではまた、3人称の視点で戦うものと、1人称の視点で戦うゲーム(たとえば、1人称視点で人を銃撃するゲーム)とがある。後者の方がよりリアルで、暴力性も増幅させるのでは、との議論もあるが、これも現状でははっきりしていないようだ。
道徳心も向上する
それでは、“ゲームは悪である”という主張が正しいことになってしまうのか。ここで、坂元氏はゲームが人間の“向社会性”にもたらす影響にも言及する。
向社会性とは、社会の役に立とう、人助けをしようとする心の働きを指す心理学用語。道徳心といいかえてもよさそうだ。そして、人助けを賞賛するようなゲームであったなら、暴力の場合にそうであったように、子供は道徳心を学習するのだという。
「暴力と向社会性に対する効果は、同程度」(同氏)。こうなると、結局はユーザーが遊ぶコンテンツの内容しだいということになる。
ただ、現実にはやはり暴力的なゲームコンテンツが多い。「調査したところ、ゲームの90%には暴力的要素が含まれているが、向社会性となると30〜40%程度になる」(同氏)
このため、「どうしても、暴力の問題が目立ってくるのだろう」とした。
ゲームで「暴力性」と同じくらい議論されるのは、「ゲームに熱中するあまり、人は社会性をなくし、ひきこもりになってしまう」というもの。明日は、この点で坂元氏がどう話したか紹介する。
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[杉浦正武,ITmedia]