Gartner Column:第3回 Webサービスが実現するグローバル・クラス・コンピューティング

【国内記事】 2001.06.18

 今回は,Webサービスにより実現される新しいインターネット・コンピューティング――ガートナーが言うところのグローバル・クラス・コンピューティングについて紹介しよう。グローバル・クラス・コンピューティングは,一言で言うと,「インターネット上において複数企業の動的な連携が可能になる」ことが特徴だ。

 分かりやすい例として,米国出張のために飛行機,レンタカー,ホテルを予約する場合を考えてみよう。現在でも,エクスペディアなどのオンライン旅行ポータルを活用することで,各会社の料金を比較し,最適な航空便,レンタカー,ホテルを選択し,Webから予約することができる。通常は,これで何の問題もなく,既存の旅行代理店などは不要になったように思える。しかし,もし出張の日程が変更され,全行程が1週間後ろにずれたとしたらどうだろうか? 既存の旅行代理店であれば,「同じ行程で全てを1週間後ろにずらして」とお願いすれば済むであろう。しかし旅行ポータルの場合には,飛行機,レンタカー,ホテルのそれぞれに,いちいちキャンセルと再予約の処理を行わなければならないだろう。

 また,希望する航空便が満席であったため,別の空港からレンタカーで目的地に向かわなければならなくなったとしよう。最適な行程を探し出すためには,どの空港から迂回し,どのレンタカー会社を使うかの膨大な組み合わせを自分でくまなくチェックしなければならない。現時点の旅行ポータルは,旅行関連のビジネス・サービスを統合できているかのように見えるが,実際には窓口を一本化しているだけであり,航空会社,ホテル会社,レンタカー会社間の有機的連携を行っているわけではない。企業間の連携は利用者の手作業に委ねられているのである。これが,従来型インターネット・コンピューティングの限界のひとつである。

 グローバル・クラス・コンピューティングの世界では,旅行ポータルはWebサービスを有効活用して,航空会社,ホテル会社,レンタカー会社などとリアルタイムに連携し,膨大な組み合わせの中から利用者が望む条件に合致した最適な行程を自動的に探し出してくれるようになるだろう。日程が変更になった場合には,新しい日程を入力するだけで,自動的に必要なキャンセルと再予約を行ない,全行程を更新してくれるようになるだろう。

 いわば,「do it youself」モデルから「do it for me」モデルへの変革が実現するのである。

 このように複数企業が連携して,利用者に最善のサービスを提供するための方式をB2B2Cと呼ぶこともある。B2B2Cは,Webサービスにより可能になるグローバル・クラス・コンピューティングの重要な局面のひとつである。

 グローバル・クラス・コンピューティングは,B2Bの企業間取引も変革する。企業は特定の取引先に限定されることなく,その時点で最善の条件を提供できる相手企業をリアルタイムで探し出して,取引を行うことができるようになる。取引先が動的に決定されるという点は,e-マーケットプレイスを思い起こさせるかもしれない。しかし,従来型のe-マーケットプレイスは,あらかじめ登録した特定企業だけが参加できるクローズドな場であるのに対して,Webサービスは全世界のだれもが参加可能である点が異なる。

 ここで,いくらインターネット上で取引できるからと言って,見ず知らずの企業と取引を行なうことは,あまりにもリスキーと思われるかもしれない。このような問題を解決するために,財務状況や市場の評価に基づいた他企業の格付け情報をWebサービスで提供する企業が登場してくるであろう。さらに,決算機能やエスクロー機能を提供するWebサービスも登場するであろう。これらのWebサービスは,企業間の取引に介在することで付加価値を提供する,いわば商社的存在である。インターネットの中抜き効果により,商社などは不要になるという議論が聞かれることがあるが,実はインターネット・ビジネスが進化すればするほど商社的サービスの必要性は増してくるのである。

 もちろん,このようなグローバル・クラス・コンピューティングの理想が,一朝一夕に実現されるわけではない。セキュリティや課金などは今後の重要課題である。特に大きな課題は,以前にも述べたが,Webサービスにより交換されるデータの中身の標準化である。このような標準化作業は,技術的な課題というよりも,複数企業のしがらみによる政治的課題であり,一般に時間がかかるプロセスである。また,Webサービスが普及したからと言って,あらゆる企業間取引がWebサービスで行なわれようになることはないだろう。子会社などの密接な関係を持つ企業との効率性重視の取引では従来型のEDIが使用され続けるであろうし,クローズドなe-マーケットプレイスも使用されていくであろう。ポイントは,効率性や柔軟性などの要件に応じて,最適な企業間取引の方式を選択できるところにある。

 次回からは数回に分けて,主要ベンダーのWebサービス戦略について分析していこうと思う。まず最初はマイクロソフトの.NETだ。

[栗原潔日本ガートナーグループ]