e-Day:アナログにも仕事をさせろ(後編)

【国内記事】 2001.06.29

 デジタルカメラは,どこまで改良が進んでも銀塩フィルムを使ったフツウのカメラを超えられないと考えている人は多いだろう。私もニューコアテクノロジーの話を聞くまでは単純にそう考えていた(アナログにも仕事をさせろ 前編)。

 しかし,CCDから取り出すアナログ信号を高いビットレートで演算処理していけば,銀塩写真の精度に迫る,あるいは超えるデジタルカメラは開発できる。これは必ずしも画素数の問題というわけではない。

 聞けば,一般的なデジタルカメラに採用されているチップは,10ビットの演算処理を行うものだという。これに対して,銀塩写真は14ビットから16ビットの精度に相当するらしい。つまり,そこまで演算処理のビットレートを引き上げたチップセットを使えばいいということになる。

 だが,実際にはこれが難しい。10ビットから12ビットに引き上げるだけで4倍の演算処理となり,それだけチップのパワーが要求される。電力消費もグンと上がる。

 ニューコアテクノロジーの共同創業者でCTO兼社長を務める渡辺誠一郎氏は,「何でもデジタル化し,プロセッサのパワーでぶん回すのはスマートじゃありません」と話す。

 日立メディコやインテルで,画像処理とマルチメディア関連LSIの開発に携わっていた渡辺氏には,デジタル一辺倒という考えはない。

 ニューコアは当初,ロボットのような機械に映像認識という「視覚」を持たせるべく,新しい技術を開発しようと考えていた。人間が直感的な判断をするときのことを考えれば分かるが,これはもうノイマン型のアーキテクチャで幾ら高速化したところで追いつくものではない。

 例えば,1枚の画像の中にぶどうが何粒あるのかを判断させようとしたとする。デジタルでそれをやろうとすれば,すべてのピクセルをスキャンし,それを知識ベースと照合させることになり,大きな負担がかかる。

 じゃあ,人間はどうしているのかというと,全体を並列的に一度で認識している。網目の大まかな認識で粗く判断しながら,領域を絞って細かい認識も同時並行的に行い,ぶどうの粒を数える。意識する間もなく,こうしたことを行っているわけだ。

 しかし,デジタル万能の考え方,デジタルなら何でも解決できるという考え方が,過度にデジタル化に依存した電子機器を生み出している。

「デジタルカメラに限らず,デジタルもひとつの手法というという少し引いた考え方をできる技術者が少ない」と渡辺氏。

 おまけに渡辺氏によると,日本の大学ではアナログを教える教授がもういなくなってしまい,技術者は枯渇してしまっているという。

「今の日本でアナログ技術に対して原体験を持っているのは50才以上の技術者に限られてしまいます(笑)」(渡辺氏)

 ニューコアが,シリコンバレーのサンタクララにチップデザインと製造管理の拠点を置いているのはそういう訳があった。

 デジタル処理プロセッサの前にアナログのフロントエンドプロセッサを置き,アナログのうちにピクセル単位で処理してやるという,いわば「適材適所」の考え方は,デジタルカメラの映像を見違えるほど美しいものに変えてくれる。

 この年末商戦では,複数のメーカーからニューコアのLSIを搭載した第一世代のデジタルカメラが登場し,来春には銀塩フィルムのダイナミックレンジに迫る新しい高級機の分野が切り開かれるという。

 また,今のデジタルビデオカメラは,DSPベースがほとんどだが,1秒間に30フレームを処理しなければならないため,画素数は30万から60万画素に抑えられている。これでは満足な静止画を得ることはできない。しかし,アナログとデジタルを融合したニューコアのチップセットであれば,余裕を持ってこれを100万画素以上に引き上げられるという。

「昔のカメラは,静止画しか撮れなかったんですか? という時代がやってくるかもしれないですよ」(渡辺氏)

[浅井英二 ,ITmedia]