多言語ドメイン名,年内を目標に標準化進む

【国内記事】 2001.07.13

 インターネットでDNSサーバが稼働を始めた当時,ドメイン名に2バイト文字を利用することなど想像もつかなかったに違いない。しかしそれから15年以上を経た今,日本語や韓国語,中国語をはじめ,フランス語やドイツ語,タイ語,アラビア語など,英語以外にも350種類以上の言語がドメイン名に利用されようとしている。

 もっとも,今この瞬間に,手元のWebブラウザや電子メールでこれらの言語が利用できるわけではない。インターネットの標準化団体であるIETFは,Internationalized Domain Name Working Group(IDN WG)を構成し,DNSで多言語ドメイン名を処理する仕組み作りを進めている。この標準化作業が順調に完了すれば,自国語の文字を利用してURLやメールアドレスを表記できる世界が実現されるかもしれない。それにはもう少し時間がかかる可能性が高そうだが。

 その一方で,米ベリサインはIDNの標準化を待たず,2000年10月から多言語ドメインの登録作業を開始した。これはテストベッドという位置づけながら,すでに100万近くの登録申請が寄せられているという。また,日本レジストリサービス(JPRS)も日本語ドメイン名の登録受付を開始しており,すでに優先登録・同時登録などを合わせ9万件近くの日本語ドメインが申請されたという。

 こうした動きを背景にして,7月13日,IDNを利用した日本語ドメイン名協会が設立された。日本語ドメイン名に関する包括的な推進を推進することを目的として設立されたもので,多言語ドメインに関する情報交換を行うほか,日本語ドメイン名に関する標準化活動などを予定している。

 また,先に日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が,BINDに多言語ドメイン名処理機能を組み込むためのソフトウェア「mDNkit」を開発しているが,これを軸に,日本語ドメイン名ツールキットの開発を進めていく方針だ。

IDN標準化作業の完了までは3カ月〜6カ月

 日本語ドメイン名協会の設立に合わせ,IDN WGのチェアを務めるジェームズ・セン氏と,米ベリサインのジョン・セオ氏が,それぞれ多言語ドメイン名をめぐる状況について記念講演を行った。

 先に講演を行ったセン氏は,IETFにおける標準化の進捗状況を報告した。現在,文字の組み合わせをどう解釈するかを定義する「IDN Matcihng」,文字のエンコーディングを規定する「IDN Encoding」,そしてプロトコルを定める「IDN Protocol」という3つの分野を軸に,草案の提出とコンセンサスの形成が進められている。すでにドラフト草案の提出が締め切られ,これからIESGおよびIETFに提出するドラフト案の作成作業に移行するということだ。

 ここでポイントとなるのが,文字のエンコーディングとマッチングである。米ベリサインやJPRSが受け付けている多言語/日本語ドメイン名では,エンコーディングに「RACE」方式が利用されている。しかしセン氏によれば,IDN WGではこれとは異なる「DUDE」方式が採用される見通しが強い。同氏はその理由を「純粋に技術的に優れているから」と説明している。

 一方,続いて登場したセオ氏は,同社の多言語ドメイン登録サービスについて次のように語った。

「なぜベリサインは,標準化の前にテストベッドを開始したか。よく尋ねられることなのだが,1つにはIDNの機能をエンドツーエンドで実証することが目的だ。また,IETFに提案されている草案に則ってオペレーションの経験を積むこと,それによってIDN実装の際のリスクを軽減することも理由である」(セオ氏)

 またエンコーディング方式については,標準化が完了すればその規約に沿った形へ移行する方針を明らかにした。併せて,RACEからDUDEへの変換に必要なツールも提供する予定だ。ただし,移行作業にまつわる混乱を最小限にとどめるため,いくつかのステップを踏んで移行する予定だと言う。したがって,実際にIETF標準に沿った形でサービスが提供されるまでには,標準の完成からさらに約4カ月程度の期間が必要となる見込みだ。

 そもそも,当初の予定では,今ごろIDNの標準化は完了間近となっているはずだった。しかし作業の進展を見ると,標準化完了までは,あとしばらく時間がかかりそうだ。ドラフト案がIESG,IETFによって承認されたとしても,次にIAB,ICANNによるレビューを行う必要がある。

 何より,たびたび指摘されていることだが,Webブラウザやメーラーなど,各種アプリケーションに多言語ドメイン対応機能が実装されないことにははじまらない。こう考えると,ユーザーが意識せずに多言語ドメイン名を利用できる日はまだ先のことになる。「まだまだわれわれの行く先は長い」(セン氏)

 しかしながら,IDN WGの作業に鋭意取り組むことで,3カ月から6カ月の間にはIDN標準化作業を完了させるのが目標だとセン氏は述べている。「技術的な問題はほとんどない。あとは合意を形成し,IETFの承認プロセスを経るだけだ」(セン氏)。

関連リンク

▼JPNIC

▼日本レジストリサービス

▼米ベリサイン

▼IETF IDN WG

[高橋睦美,ITmedia]