e-Day:2代目GENIOではソデにされたGEOS

【国内記事】 2001.07.16

 ノートブックPCの王者,東芝が,Pocket PCを採用したGENIO eシリーズを発表し,PDA市場に本格参入する。

 なぜ「本格」参入なのかというと,今から4年前に「ポケットコミュニケータ」と称する初代GENIOを発売しているからだ。それ以降,後継モデルの話を聞いたことがないので,イタリア語で「天才」という名を冠したPDAは,一部のマニアを除いて,評判が良くなかったに違いない。天才とは理解されにくいものだ。

初代GENIO PCV100はこんなだった

 私もこの初代のGENIO PCV100を手に入れ,しばらく面白がって使った。

 PHS電話を内蔵したうえ,メール端末やPIMとしても使えたが,横型のZAURUSのようなボディにPHSのアンテナが付いているごつい携帯電話は,さすがに1997年当時でもダサかった。あまりアプリケーションの開発が進まなかったせいもあって,PDAというよりは,むしろゴツい携帯電話といった方がよかった。

 ZAURUSのように手書き文字入力ができたのはよかったが,大量のメールが送られてくるとすぐにハングアップしてしまい,しばしば裏面のリセットスイッチのお世話になった。

 OSは,ジオワークスのGEOSを採用していた。今どきの人は,英会話のジオスと間違えるかもしれないが,このジオワークスの歴史は古く,パソコンがまだ8ビットだった時代まで遡る。

 当時大ヒットした「Commodore 64」という8ビット機でグラフィカルなユーザーインタフェース(GUI)を実現していたし,10年前にはマイクロソフトのWindows 3.0と将来の覇権を争った。まだマイクロソフトといっても今日のような巨大企業ではなく,GUIという新しい分野ではだれが勝者になるのか,やってみなければ分からないという空気があり,マイクロソフトもチャレンジャーだった。

 しかし,表計算ソフトのQuattro Proなどが対応してくれたものの,GEOSはWindows 3.0に敗れた。

 その後,同社はスマートフォンやPDAへとフィールドを変え,標準の座を目指した。元々,マイクロソフトとGUIの覇権を争ったときにも,Windowsより要求するリソースが少ないという評価を得ていたくらいだった。

 携帯電話のボディを開けるとキーボードと横長の液晶ディスプレイが現われるNokia 9000や同9110をご存じだろうか。ノキアのホームページには,Nokia 9000に向かってタッチタイプを試みるビジネスマンの写真が掲載されていて驚くが,ともあれGEOSは新しいフィールドで将来を有望視された。

キーボードを備えたNokia 9000

 しかし,2代目のGENIOは,GEOSを選ばなかった。

 GENIO eシリーズの発表会で,東芝モバイルコミュニケーション社の社長を務める溝口哲也専務は,「Widowsや.Netとの親和性を重視し,Pocket PCを採用した。今より将来を考えた。迷いは全くない」と話す。

 ノキアも最新のNokia 9200シリーズでは,シンビアンのEPOC OSに乗り換えている。

 残念だがその背景に,強引な知的所有権の主張とライセンス計画があったようだ。1999年,ジオワークスはWAP(Wireless Application Protocol)の一部が同社の知的所有権を侵害していると主張し,昨年初めにはWAPを採用するシステムやソフトウェアからライセンス料を徴収すると宣言した。

 WAPの推進で重要な役割を演じていたフォンドットコム(ソフトウェアドットコムと合併し現在はオープンウェーブシステムズ)は,これを拒否したが,東芝など支払いに応じた企業も多かったようだ。フォンドットコムは,スマートフォン向けのマイクロブラウザと通信事業者向けのサーバ製品を開発しており,新路線を打ち出したジオワークスは直接彼らと競合した。

 これではやはり特許侵害でバーンズ&ノーブルを訴えたアマゾン・ドット・コムが,「特許を乱用したイジメ」と非難されたのと同じだ。

[浅井英二 ,ITmedia]