資本主義のうねりに飲み込まれる日本,新時代で成功するカギは?

【国内記事】 2001.09.11

 9月11日,JUAS(日本情報システム・ユーザー会)が主催する「ITガバナンス21」フォーラムのビジネストラックに松井証券の松井道夫社長が登場。資本主義の原点は「クール」「シビア」「暴力的」,日本はこれからその大きな波にさらされるだろう……と予言した。

 8月1日に東証1部への上場を達成した松井証券。中堅証券会社に過ぎなかった同社をここまで成長させたのは,前社長の娘婿である松井氏だ。講演の冒頭で同氏は,株式を上場する前の1カ月間,海外で多くの機関投資家と会い,1対1で同社のビジネスモデルを売り込んだという。

「結局いくら儲かるかということを突っ込まれた。英語の会社概要を読めば,松井証券の隅々まで分かる。ただ,松井道夫という社長がバカかどうかは分からない。いわば首実検」(松井氏)

 同氏によれば,その際に必ず聞かれることがあった。――「小泉純一郎首相についてどう思うか?」――松井氏は,「彼が構造改革を成し遂げることを,われわれ日本人は信じている」と答えたという。すると,彼らは一様に「われわれは9月から活動を開始する。それまでに結果が出なければ一旦日本売りをかける」と応じたそうだ。

 そのせいか分からないが,株価は1万円割れ目前だ。

マーケットを知ること

 この株価下落を支える存在は,残念ながらなさそうだ。松井氏は,「政も官も財もマーケットと別の世界で生きてきた奴らだ。一朝一夕に変われるわけがない」とこき下ろす。塩川正十郎財務大臣についても,「なかなかセンスのある人だと思っていたが,最近カラ売り規制に傾いているようだ。マーケットは売りを引っ込めたら買いも引っ込む。一旦売り浴びせられても,底を拾う人がいる。それがマーケット。彼はマーケットを知らなさすぎる」と一蹴した。

 なお塩川氏のWebサイトを見ると,「(4月)27日ワシントンで,“日本は二番底を打った,ここから這いあがる方向性は見えてきました”と発表しました」とあった。いったいどんな方向性が見えたのだろう……。

 それはさておき,松井氏は内閣のトップである小泉首相についても辛らつだ。

「小泉首相は,株価に一喜一憂する必要はないと言っているが,マーケットを知らないバカだ。彼の行動力を先読みして株に値段がついていることを分かっていない。ダメなら首相を降りるとかいう小さいことじゃない。日本経済そのものが世界から見限られているのだ」(同氏)

 松井氏によれば,日本のマーケットにおける取引額の約半分は,外国人のものという。これは,流動性についてで,現在一日に約4000億円に減ってしまった取り引きのうち,約2000億円が外国人が取り引きによる。

 このように資本主義の大波に翻弄される日本は,今後どうなっていくのだろうか。松井氏は,一旦ガラガラポンが起きざるを得ないだろう,と予測する。大企業でも何でも,いちから見直して再構築するしかなくなる未来がやってくるのだ。

「革命とは,天地がひっくり返ること」(同氏)

野村を超える「この指止まれ」戦略

 松井氏は,これまでのビジネスが顧客の囲い込み,つまり「天動説」型だったのに対し,今後企業がサービスをアピールし,そのサービスを欲しがる顧客が自然に集ってくる「地動説」型のビジネスが求められるという持論を披露した。

「規制産業の社長は,必ず顧客第一主義という。じゃあ第2に来るのはカルテル先企業? そして第3は行政? この考えは誤りだ。本来なら,顧客“中心”主義と言うべし」(松井氏)

 アクの強い経営者は,必ず自らの知人を持ち上げ,交友関係を誇るものだが,松井氏もその例にもれず,「私の知人は,5年前に“これから顧客の言うことを聞くな”と言ったものだ」と懐かしむ。その知人の名前は明かさなかったが,同氏によると,彼は業界では知る人ぞ知る有名人という。

「その通り,顧客が欲しい業者を選ぶ時代が来た。いっぱい立っている指から,どの指に止まるか選択するようになったのだ。野村,日興,大和のどこでもいいが,情報で勝負するらしい。勝手にやったらいい。顧客は,彼らのWebサイトを開いて情報を見ながら松井証券で取り引きするはずだ」(同氏)

新時代の経営者は負けた奴

 松井証券は,1931年の設立。創業者は,相場で大儲けした人物で,松井氏の義理の祖父にあたる。戦争で全財産を失ってまたいちから会社をスタートさせた彼が,前社長に伝えた相場で勝つ方法――それは,「勝つまでやる」「勝ったらやめる」だけだったという。

 松井氏は,この教訓を「新時代に求められる経営者」に転用すると,「負けた人材を社長にする」と読みかえられるという。なぜなら,負けた人材は「勝つまでやる」からだ。

「資本主義の世界で,会社は株主のもの。株主は,稼いでくれたら辞めろという意識を持つべきだ。その代わり,辞める人には膨大な“お駄賃”を上げる。勝ったらすぐ辞める。中途退社という仕組み,早く辞めれば特をする仕組みが必要」(松井氏)

 さらに松井氏は,「従業員」「社員」といった言葉が死語になると大胆予測する。21世紀は,個人の能力が問われる時代になるため,彼らは,一時的に一緒に働くパートナーと見なされるようになるというのだ。

答えは大企業にある

 このような大変革の起こる21世紀,企業が成功するためには何を参考にすればいいのだろうか。松井氏は,大企業にその答えが隠されているという。

 松井氏の考え方は,天地がひっくり返るというものだ。現在,大企業で最も儲かっている部門が,規制撤廃で最も損失をこうむる部門に成り下がる。それは,「最も儲かっている=消費者が損をしている」という同氏の理論に照らし合わせれば当然で,敢えて儲けている企業の逆の道を選択し,消費者の支持を得たらいいということになる。

「大企業は,旧時代のビジネスモデルを採用し,大成功したから大きくなった。彼らが次の時代にも成功するビジネスモデルを考えられるかどうか……」(同氏)

 松井氏は,会社は3年で全く新しい組織として生まれ変わっていなければ時代についていけないとも話し,大企業が大企業のままありつづけることに疑問を呈している。

 なお同氏は,ITに関して詳しいわけではなく,単にビジネスモデルを構築したときに,インターネットがそこにあっただけという。今回の講演で同氏は,インターネットについて,「営業を否定するツールと捉えた。営業マンは,本当に懸命にやっている。しかし彼らの給料は,結局顧客の手数料から支払われているのだ。顧客は,その金を払いたくないと言っている」とさらりと触れた。

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▼松井証券

[井津元由比古 ,ITmedia]