e-Day:理想のパーソナルコンピュータ「ダイナブック」を目指して

【国内記事】 2001.09.19

 World PC Expoの開幕を告げるジョン・アントンの基調講演は,テロによる影響で来日を取りやめたクレイグ・バレットCEOの代役ながら,詰め掛けた2000人の来場者にとっては極めて力強いメッセージとなったに違いない。

 PCを取り巻く環境は依然として厳しい。2000年のクリスマスシーズンにPC売り上げが大きく落ち込んだのをきっかけに,個人消費に頼る米国経済は急ブレーキがかかって以来,上向く気配はない。需給バランスの崩壊はネットワークインフラへも広がり,1990年代に米国の繁栄を牽引したコンピュータとネットワークのベンダーたちは,まるで米国経済減速の戦犯扱いだ。

 しかし,デジタルワールドの一層の進展を確信するインテルのアントンは,「景気が後退する中でも,われわれはデジタルのない生活は一日たりとも考えられない」と,おびただしい数字を例示しながら,インターネットの力強さを印象付けた。

 今や毎日,5億人がインターネットを介して相互に接続され,AOLのインスタントメッセンジャーだけで6億5000万のメッセージが飛び交っているという。さらにYahoo!のベージビューは12億に上り,電子メールの数になると桁違いの1000億に跳ね上がる。

「われわれはインターネットの将来を確信している」とアントン氏。

 インテルは,バレットがCEOに就任した1998年から,大きくインターネットに舵を切った。ネットワークチップのレベルワンや光ファイバーネットワーク向け高速通信チップのギガなど,買収した企業も20社を超える。PCで成功したコアテクノロジーのビルディングブロック化と水平的な協業という仕掛けを,PDA,スマートフォン,およびネットワーク/通信へ拡大するのが狙いだった。

 そして同社は今年,製造施設の増強や新工場の建設への投資額を昨年の60億ドルから75億ドルへと増やしているし,研究開発にも43億ドルを投じる。エバレットCEOは,将来を見据えた投資は,再び業界が成長の軌跡に戻るためには不可欠だ,とアクセルを踏み続けた。

 今やクライアントPCにはPentium 4,PDAやスマートフォンにはStrongARMやXscale,ネットワーク/通信にはIXP,そしてサーバにはItaniumというスケーラブルなプロセッサ技術を提供し,エンドツーエンドの水平協業体制が形成されようとしている。

「20年に及ぶPCのノウハウをほかのデバイスに持ち込み,OEMメーカーの開発と製品投入のスピードを加速させたい」(アントン)

 しかし,日本の準備は整っているのか? とアントンは聴衆に問い掛ける。

 確かにiモードの親指文化では世界を驚かせた。ノートブックPCの開発では米国メーカーを寄せ付けない。デジタルカムコーダーに代表されるように日本のコンシューマーデジタル家電は世界を席巻している。

 しかしアントンは,「デジタルワールドを日本が牽引していくには,デジタルインフラの構築に一層投資をしなければならない」と話す。

 インターネットの普及率では10位に甘んじ,社員1人当たりのPC台数では15位に過ぎないからだ。GDP(国内総生産)に対するIT投資額となると,さらに18位まで後退する。

 だが,われわれにとっては明るい材料もある。Windows XPの登場とブロードバンドインフラの急ピッチな普及が,同時に日本にやってきたことだ。

 午後の基調講演に登場したマイクロソフトの阿多親市社長は,「米国市場では4800万台のPCが出荷されている。一方,日本市場は1300万台で足踏みしている。踊り場ともいわれているが,こんなものでとどまるはずがない」と威勢がいい。

 マイクロソフトはWindows XPをブロードバンド時代の新しいOSとして売り込んでいる。ADSLは,昨年8月末に2100人に過ぎなかった加入者がわずか1年で51万人を突破している。IDCの予測によれば,年内には260万人がブロードバンドで接続され,数年間は年率80%で伸び続け,2004年には1542万人に達するという。

 また,ワイヤレスLANの普及も目覚しく,都内の各所で実験が始まっている。2002年後半になるとそれを見越したかのようにWindows XPをベースとしたTablet PCが繰り出されてくる。ステージでは,ソフトウェア開発用に社内で使われているTablet PCのプロトタイプも披露された。

「14インチを超える大きな液晶ディスプレイを持ちながら,1センチを切る薄いTablet PCが登場するに違いない」と阿多氏。

 まさに30年以上も前にアラン・ケイが世に問うた理想のパーソナルコンピュータ「ダイナブック」だ。彼は「将来,コンピュータは老若男女,だれもが使えて双方向でコミュニケーションができるツールになる。オーディオも聴け,新聞も読める」としていた。こういうものなら日本のお家芸だろう。

[浅井英二 ,ITmedia]