ブロードバンドで家族はポケットの中へ

【国内記事】 2001.09.21

 慶応義塾大学藤沢湘南キャンパス(SFC)は9月21日,ITをはじめとした先端的な研究成果を発表するための年次イベント「SFC OPEN RESEARCH FORUM 2001」(ORF)を同日から2日間の予定で開催した。目玉となる電気自動車の研究成果やブロードバンドの影響力,W3C(World Wide Web Consortium),バイオとITを融合したバイオインフォマティクス,ジオインフォマティクスなどの最先端の研究成果が展示やデモンストレーションによって紹介されている。

電気自動車「KAZ」。自動運転の様子も紹介されている

 会場では8輪電気自動車「KAZ」の試乗会が行われた。リチウムイオン電池を基盤に,振動や排ガスのない静かな走行にも感心したが,それよりも興味を引くのが,自動運転機能だ。同時に流されていたビデオを見る限り,発進,走行,停車,駐車まで的確にこなした。車庫入れもうまい。高精度GPSと,車両運動センサーによって得られる高密度な車両位置情報,目標地点への経路情報などを利用して,ハンドルやアクセル,ブレーキを制御するという。一言で「自動運転もするカーナビ」ということになる。

ブロードバンドの進展はコンテンツがカギ

 この日,「ブロードバンドは21世紀の生活を変えるのか」をテーマに,SFCの教授を中心としたパネリストによるパネルディスカッションが行われた。

 ディスカッションでは,環境情報学部長の熊坂賢次氏は,「ブロードバンドの進展で家族はポケットの中に入る」と,突拍子もない発言が飛びだし会場を沸かせた。

 ユビキタスコンピューティングの発達も条件に加えなくてはいけないが,つまり,ポケットの中の携帯端末を使えば,必要なときにいつでも,相手の顔を見ながら話をすることができるというわけだ。

「いつでもつながる,という安心感が定着することで,ユーザーは次第に家族がポケットの中にいるような感覚を持ち始めるのではないか」と熊坂氏。

 一方,同じく環境情報学部の大岩元教授は,ブロードバンドの進展はエンターテイメントから始まるとする。そしてポイントは,「楽しい作品があるか,手軽に使えるか,安く使えるか」の3つだという。

 しかし,同氏は,「大学でITを学んだ人間が技術者の中にほとんどいない」という現状を問題点として指摘した。要するに,ITを学問的な体系で学んでいないという意味で「素人」ばかりが技術者になっているのだという。そのために,アプリケーションのユーザーインタフェースが使いづらいものになり,女性や高齢者が「私にパソコンは無理」と思ってしまうのだとしている。

「現状ほとんどの技術者がいい加減な者ばかり」と過激な発言も飛び出した。

「ワイパーで天気予報」が売れました!

 同イベントの推進団体であるSFC研究所の村井純所長は,6月に千葉・幕張で行われたNetworld + Interop 2001 Tokyoで基調講演を務めている。

 その際同氏は,ブロードバンドおよびIPv6の将来の話として,車のワイパーにIPアドレスを持たせ,天気予報などに生かしていきたいという話をした。

 つまり,IPv6で実質無限になるIPアドレスをワイパーに取り付け,ワイパーが動きだしたら「この地域で雨が降り出した」という情報をインターネット経由でリアルタイムに知らせてくれるようになるというものだ。

 同氏が行ったプレスカンファレンスの終了後,ワイパーにIPアドレスを持たせることで,具体的にどんなビジネスが生まれるかについて村井氏に聞くと,「売れたんですよ! あの技術が」と同氏から大きな声が返ってきた。同氏によると,ある天気予報の情報提供業者が,その技術が実現するなら是非買いたいと持ちかけてきたという。未来のビジネスの一端を見た気がした。

関連リンク

▼SFC OPEN RESEARCH FORUM 2001サイト

▼慶応義塾大学

▼WIDEプロジェクト

[怒賀新也 ,ITmedia]