Gartner Column:第23回 サン・マイクロシステムズは勝ち組でいられるか?

【国内記事】 2001.11.19

 IT市場の勝ち組になることは難しい。しかし,勝ち組であり続けることは,もっと難しい。現時点のエンタープライズUNIXサーバ分野における明らかな勝ち組であるサンの場合はどうだろうか?

 今年初頭,サンが歴史的な好業績を残した直後のアナリストブリーフィングでのことである。居並ぶサン経営陣の前で,米国ガートナーの某アナリストはこう切り出した。

「貴社ビジネスの成功おめでとうございます。しかし,ここで申し上げておきたいのは,今のサンが5年前のHPに似ているということです。さらに言えば,10年前のDECに似ていると言ってもよいかもしれない」

 この強烈なあいさつを私はひやひやしながら聞いていたのだが,サンのトップ・マネージメント達は怒るでもなく真剣に耳を傾けている。聞きたくないことに耳をふさぐような姿勢ではIT業界の競合に勝ち抜くことはとてもできないこと,そして,実際にIT市場でリーダーの地位を維持して行くのが如何に困難であるかということを認識していたからだろう。

 IT業界の歴史は,全くの敵なしのように思えた勝ち組ベンダーが,何かの拍子に転落してしまうケースに満ちている。2位以下のベンダーは,あたかも,レースにおけるスリップストリーム走法のようにトップベンダーの後を追随し,隙を見て抜き去ることができる。トップを走るベンダーは今まで以上にスピードを出し続けなければならないわけだ。

 ここ数年のサンのエンタープライズUNIXサーバ市場における成功は,市場,製品,そして,マーケティングがすべてベストの状況にあったことで実現した。サンの前世代のハイエンド機である「Enterprise 10000」(通称:Starfire)は,1997年の発表当時としてはオーバースペックとも思えたクロスバーインターコネクトテクノロジーである「GigaPlane-XB」を備えることで,きわめて高いI/O性能を発揮することができた。Starfireの登場により,UNIXサーバはI/O回りがメインフレームに比べて非力なので,大規模業務アプリケーションでの性能が出しにくいという状況が一変したわけだ。

 GigaPlane-XBのテクノロジーは,1996年にSGIからの買収プロセスにあったクレイ・リサーチのビジネス部門からサンが買収したものだった。サンのある技術者は,このテクノロジー買収を20世紀で2番目に成功したテクノロジー買収と述べている。ちなみに,1番目は,マイクロソフトが1980年に10万ドル以下でシアトル・コンピュータ・プロダクツから買収したDOS(もちろん,後のMS-DOSである)だそうだ。GigaPlane-XBのテクノロジーを売却することなく,SGIが引き継いでいたならば,今のサーバ市場はは大きく変わっていたかもしれない。

 しかし,サンの絶好調状態は今年後半になり一変する。前四半期には1億8千万ドルの赤字を出し,全社員の9%のレイオフが発表された。世界的な景気減速に加えて,ドットコム・バブルの崩壊はサンにとって特に大きなダメージであった(実は,サンはERPやデータウェアハウスなどの企業内コンピューティングにおいても十分強く,ドットコム企業に全面依存していたわけではないのだが,やはりイメージ的なダメージは大きい)。そして,9月11日の同時多発テロだ。

 米ガートナーシンポジウムにおける基調インタビューでのスコット・マクニーリの言葉を借りれば2001年はサンにとって「パーフェクト・ストーム」だった。

 もちろん,サン自身にも責任はある。最新プロセッサである「UltraSPARC III」を搭載した最上位サーバである「Sun Fire 15K」(通称:Starcat)の出荷開始が遅れてしまったことだ。

 次世代機の登場が近いことが周知なのに,出荷が遅れるのはユーザーの買い控えを招く最悪のパターンである。結局,Starcatの発表とほぼ同時に,IBMは対抗のp690(コード名:Regatta)を出荷開始できる状態になってしまった。RegattaとStarcatとのどちらが優れているかの議論は別の機会に譲るとして,サーバ世代交代の時期という観点では,サンはIBMにキャッチアップされてしまったわけだ。

 今後,サンが勝ち組に残る上で最大の課題は(HPでもなく,マイクロソフトでもなく)IBMの存在であろう。

 私は,Regattaにより,IBMは1986年の6100(RT-PC)発表以来初めてUNIXサーバに本当に本気で取り組み始めたのではないかと思っている。第1に,RegattaにはIBMメインフレーム譲りのテクノロジーが広く採用されている。第二に,基本的に同じハードウェアであるAS/400(iSeries)に先駆けて,Power4という新世代プロセッサを採用した。第三に,Power4をミッドレンジではなく,いきなりトップエンドのマシンで採用したという点からだ。

 もちろん,ここまでIBMを本気にさせたのはサンである。Regattaの記者発表会が,いきなりサン製品との比較から始まったことからも明らかだ。本来,IBMは他社との露骨な比較をあまり行わないポリシーを持っている。また,サンのサーバが,従来ではIBMメインフレームでしか対応できなかったようなハイエンド領域に進出している以上,IBMもUNIXサーバで勝負せざるを得なくなったということだろう。

 ガートナーは,少なくとも今後5年間,サンがUNIXサーバ市場における市場シェアのトップを維持できると見ている。しかし,今や,IBMはサンの後ろに(スリップストリーム走法のように)ぴったりと付けている。サンが少しでも油断をすれば,抜き去られてしまうかもしれない。

 ユーザーとしては,この状況をどう捉えるべきだろうか?

 このコラムを毎回お読みの方であれば,私が何を言いたいかおわかりだろう。サンとIBMの競合を最大限に活用して,最善の条件を得られるような商談を行うべきということだ。

[栗原 潔 ガートナージャパン]