Gartner Column:第31回 メインフレーム上のLinuxは結構使えるかもしれない

【国内記事】 2002.01.21

 今からおよそ2年ほど前,IBMのトップマネジメントから「Linuxをメインフレーム上でネイティブサポートする。」と聞いた時は,思わず笑ってしまった。何かのジョークかと思ったからだ。しかしメインフレームは,今やインテルの次に重要なLinuxプラットフォームになったと言えるかもしれない。

 最近のガートナーの調査では,米国のIBMメインフレームユーザーのおよそ10%がメインフレーム上でLinuxを稼働させている。これは,当初の予測と比べてかなりの普及率だ。メインフレーム上のLinux稼働にどのような価値があるのだろうか?

1.メインフレームの信頼性

 メインフレームでLinuxを稼働させることで,メインフレームのハードウェア(より正確に言えばマイクロコードレベル)の信頼性を享受できるのは確かだ。しかし,現実問題としてインテルサーバ上でLinuxを稼働させているユーザーでサーバハードウェアの信頼性が問題となっているユーザーは多くないだろう。これだけで,インテルサーバと比較したメインフレームの高価格を正当化することは難しいだろう。

2.多数のLinux OSを同時並行的に稼働可能

 メインフレームでは,古くからVM(バーチャルマシン)と呼ばれるOS(正確に言えば,ハイパーバイザー)がサポートされている。VMの使用により,1台のマシンを仮想的に分割し,多くのOSを同時並行的に稼働させることができる(UNIXの世界ではソフトウェアパーティショニングと呼ばれることの方が多いかもしれない)。

 Linux専用VMであるVIFL(Virtual Image Facility for Linux)とメインフレームの世界では標準的なハードウェアパーティショニングを併用することで,1台のメインフレーム上で他のOSを稼働させながら,理論上は数千,現実的にも数百のLinux OSイメージを同時に稼働させられるようになる。

 前々回にも述べたように,サーバ集約はTCO削減の特効薬だ。メインフレーム上のLinuxの初期ユーザーのほとんどが,社内に増殖しすぎたLinuxサーバの管理に手こずり,このVIFLを利用してメインフレーム上へのサーバ集約を行ったユーザーである。

 しかし,日本では,社内に多数のLinuxサーバが存在し,かつ,メインフレームに空き容量があるユーザーはさほど多くはないだろう。

3.既存メインフレームに安価なWebサーバ機能を追加

 前回述べたように,メインフレーム上のレガシーアプリケーションのWeb化はローリスク/ミディアムリターンの投資であり,経済環境が厳しい今,多くのユーザーが注目している案件だ。

 Web化のためには,インテルサーバやUNIXサーバをフロントエンドに置く方法もあるが,サーバ集約が重要となっている現在,サーバ台数を増やしてシステムの複雑性を増すことに躊躇するユーザーも多いだろう。かと言って,WebsphereなどのWebアプリケーションサーバをメインフレーム上で直接稼働させる方法では,コスト的に厳しいケースも多い。

 メインフレームのソフトウェア製品は,原則的に稼動させるハードウェアの規模に応じたライセンス料金設定となっている。つまり,ハードを増強すれば,その増強分をソフトウェアが利用するか否かを問わず,ソフトウェア料金は自動的に上昇してしまうのだ(例外もあるが,ちょっとややこしい話なので今回は省略する)。

 UNIXの世界でも,例えば,オラクルDBMSのプロセッサベース料金なども同様の考えなのだが,メインフレームの世界ではソフトウェア料金が占める割合が高く,ハードウェアと同額レベルになることも通常なため,ハードウェアのアップグレードが思わぬコスト増を招く場合が多いのだ。

 IBMは,Linux普及を目指したプロモーションとして,Linux稼働のみを前提としたライセンス条件の追加プロセッサを通常のプロセッサの10分の1程度の価格で提供している。このLinux向け追加プロセッサを使うことで,上記のように既存のソフトウェアの料金が跳ね上がることはない。

 もちろん,ApacheなどオープンソースのWebサーバを使えば新規ソフト料金も最小限だ。さらに,VIFLを使用して,Webサーバファームと既存アプリケーションを1台のメインフレーム内で完結することもできるようになる。これを魅力的に感じるユーザーは多いだろう。

 今までの議論は,IBMのメインフレームについてだが,日立のメインフレーム製品でも,ほぼ同様のことが成り立つ。

 このようにメインフレームLinuxは多くのユーザーに活用されているわけだが,その一方でLinux稼動のために新規メインフレームを購買するユーザーは少数派だろう。インテルサーバと比較したコスト,そして,サードパーティーソフトウェアの品ぞろえは,メインフレームLinuxの大きな課題だからだ。

 つまり,Linuxはメインフレームの利用を促進するかもしれないが,購買を促進するかというと疑問が残るわけだ。もちろん,既存メインフレームがLinuxを稼動できることで,他社のUNIXサーバにリプレースされなかったとするならば,IBMにとっては遺失機会を減らすことができたわけなので,ビジネス上の意義は大きいのだが。

 IBMは,インテルサーバやメインフレームだけではなく,あらゆるサーバ製品,つまり,AS/400(iSeries)やRS/6000(pSeries)上でもLinuxをサポートしている。しかし,これらのサーバ製品上でLinuxを稼動する必然性は,大きいとは言えないだろう。

 意外に思われるかもしれないが,Linux向けサーバプラットフォームと言えば,1にインテル,2にメインフレームという状況になってしまったのである。

[栗原 潔ガートナージャパン]