ロータスがIBMの技術で目指す新しいメッセージング技術

【海外記事】 2002.01.30

 米オーランドで開催中の「Lotusphere 2002」初日の基調講演でロータスのアル・ゾラー氏は,IBM技術のロータス製品への取り込みについて明らかにし,ケンブリッジにあるIBMワトソン研究所が開発中の新しいメッセージングクライアント技術を紹介した。

 今回発表された新しい技術は,「Collaborative User Experience」(CUE)と呼ばれるプロジェクトで開発されている複数の技術を組み合わせたもので,個人の生産性とより優れた情報共有,そして適切に「人」同士を結びつけるためのノウハウが詰め込まれている。ゾラー氏によると,これらの技術はNotes/Domino 6に反映されるものではないが,将来のNotes/Dominoにさまざまな形で反映される見込みだ。

 CUEで提案されている新しいメールボックスでは,現在の多様な電子メールの使い方を反映し,そこにある情報を最大限に生かすためのノウハウと技術が投入されるという。これまで電子メールは20年の歴史において,単なるメモの交換から会話やイベント通知,電子商取引,グループスケジュールなどに応用範囲を広げてきた。また,電子メールを利用できる機器の種類も,その裾野が大幅に拡大している。

 ワトソン研究所の担当者は「20年の歴史があるにも関わらず,電子メールクライアントはたいした進化を遂げていない。単にメッセージをリストで表示するだけで,その中に含まれている情報をエンドユーザーは生かすことができていない」と言う。

「これほど重要なアプリケーションがこれまで放置されていた例はほかにない」

 ワトソン研究所で開発中の「Reinvent Email」では,電子メールの中に押さえ込まれ,これまで判らなかった情報を引き出すための,ちょっとした工夫がされている。まず電子メールのスレッドが,メールリストの中でハッキリとわかるように色分けと枠の描画で見せている。

スレッドの色分けや時間軸ベースの地図を持つメールボックス

 また,点と線で描かれた「メッセージの地図」が表示されているのも特徴だ。この地図は,スレッドに存在しているメッセージの位置関係を示している。どのスレッドの話題がどのように分岐しているのかを示すとともに,横軸に時間を反映させることで各メッセージがどのような順番,タイミングで発信されたものなのかを視覚的に知ることができる。地図上の点にマウスカーソルを合わせると,そこにメッセージの概要を表示する機能もある。

会議参加メンバーのナレッジギャップを分析し,その不足を補うメンバーの候補を自動的に挙げる

 この地図をドラッグ&ドロップで会議招集などのメッセージに添付したり,Sametimeチャットの中でほかのメンバーにスレッドごと送信するといった操作も可能だ。その際,地図はそのままのビジュアルを保ったまま送信され,受け手は地図の点を調べながら話の道筋た重要な情報を得ることができる。

候補との関係をビジュアル表示することも可能

 ゾラー氏が紹介した次世代クライアントのビジュアルには,メールボックス以外にもさまざまな要素が詰め込まれている。例えば,左端には自分のスケジュールとグループスケジュールが縦方向に時間軸を取って表示されているほか,特定の情報や話題の周りにどのような人がいるかを表示する機能もある。

特定の情報とユーザーの位置関係をビジュアル表示し,その場でSametineによるディスカッションを行う例

 また,社内の特定情報を中心に見たとき,その情報に近い人物(最近,その情報を参照した,何度も参照しているなど,コラボレーションの履歴から生成したデータを元にしている)をビジュアルで表示し,それらの人物とSametimeでコンタクトを取ったり,その場でリアルタイムのディスカッションを行うこともできる。

 会議の招集を行う際は,簡単に会議の場所を地図でポイントしたり,会議に招集している人物のプロファイルを表示するほか,ナレッジに関する警告を発する機能がある。招集したメンバーの知識や経験を過去の発言履歴を分析したデータベースから参照し,さまざまな能力の評価値を比較。不足している要素がある場合,どの程度不足しているのかを表示すると共に,その要素を補うためのメンバー候補をリストアップしてくれる。

 リストには候補のスキルなど情報が示されるだけでなく,社内で自分と候補との間がどのような関係にあるのかを組織図で表示できる。必要ならばSametimeでコンタクトし,即座に会議メンバーに加えるといったことも可能だ。

 今回,紹介された画面は,すべてビジュアルモックアップということだが,個別の機能は独立して試作され動作している。例えば,メールボックスの改善機能はDomino上でDynamic HTMLを駆使し,メッセージスレッドの関係を色分けや地図で示すアプリケーションが作られている。

 実際にNotes/Dominoに反映する際には,デモ画面とは異なるデザインになるだろうが,重要なのは情報や人の関係をどのように扱うかというノウハウや考え方だ。同じ業務で同じ情報をやりとりし,同じ情報を収集するだけならば,どんな道具を使っても結果は同じだ。

 しかし,蓄積された情報や情報のやりとりに関する履歴などから,ビジネスに必要な情報を抜き出し整理して活用するには,それに適した道具を経験を生かしながら作り込まなければならない。IBMの技術とロータスの持つナレッジに関する経験と知識が,どのように融合していくのかに注目したい。

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▼ロータスソフトウェア

[本田雅一,ITmedia]