エンタープライズ:トピックス 2002年5月21日更新

BorCon 2002 Keynote:Turbo Pascal/Delphiの生みの親,ヘイルスバーグが古巣の基調講演に登場

 懐かしい顔がボーランドソフトウェアのデベロッパーズカンファレンスに帰ってきた。同社の出発点である「Turbo Pascal」の生みの親であり,1996年までDelphi製品のチーフアーキテクトとして働いたアンダース・ヘイルスバーグ氏だ。

 ヘイルスバーグ氏は,ゲストスピーカーのトップとして米国時間5月20日,「BorCon 2002」の基調講演に登場した。冒頭,1983年に雑誌に掲載されたTurbo Pascalの広告をスクリーンに映し出し,古くからの友人たちに挨拶をした。

古い友人たちに囲まれてリラックスするTurbo Pascalの生みの親,ヘイルスバーグ

 広告に使われた「Hang on to your seat!」(コンパイル時も席で待ってなさい)というキャッチコピーは,そのスピードをよくアピールしている。しかも,価格は49.95ドルという破格の安さだった。

 不幸にも彼はボーランドを去り,その電撃的なマイクロソフト移籍は業界を驚かせた。引き抜きに怒ったボーランドは訴訟まで起こしている。

 ともあれヘイルスバーグ氏は,マイクロソフトに入るや開発ツール部門の重要な仕事を任され,Visual J++のアーキテクトやC#言語のチーフデザイナーとして働き,現在はデベロッパー部門の「ディスティングイッシュド・エンジニア」(Distinguished Engineer)の肩書きを持つ。.Net Frameworkの開発に深くかかわっているひとりだ。

 多くのカンファレンスと同じように,このアナハイムの「BorCon 2002」でも,スポンサー企業を代表する幹部が基調講演にズラリと顔をそろえる。マイクロソフトのヘイルスバーグ氏,サン・マイクロシステムズのフェロー,ジェームズ・ゴスリング氏,そしてインテルのチーフ・e-ストラテジスト,クリス・トーマス氏たちだ。

ホスト役のインターシモン副社長はこの日,.NetのTシャツで登場

 この顔ぶれ,特にヘイルスバーグ氏とJavaの生みの親であるゴスリング氏を並べたあたりは,ボーランドの考え方が反映されている。巷では「Java vs. .Net」の構図がしばしば話題になるが,「デベロッパーらが必要とするベストの製品と技術を提供していく」(デール・フラー社長兼CEO)のが同社のポリシーだ。

 ヘイルスバーグ氏は,コンピュータの変革は開発言語やツールによって後押しされてきたとする。MS-BASICやTurbo Pascalがパーソナルコンピュータ普及の原動力となり,Visual BasicやDelphiがGUIの時代を切り開いた。1990年代半ばから爆発的に普及したWebはもちろんHTMLや各種のスクリプトによってもたらされ,そして業界が長年追い求めてきた「分散“接続”型アプリケーション」は,Webサービス(マイクロソフトはXML Webサービスと呼ぶ)によって現実のものになろうとしている。

 ヘイルスバーグ氏は,そのWebサービスをネイティブサポートする.Net Frameworkの特徴として,「プログラミングモデルの統一」「自動化されたメモリ管理や例外処理」「複数言語のサポート」,そして「既存コードとのインターオペラビリティ」などを挙げた。

 中でも彼が特に強調したのが,既存コードを活用できる点だ。

「年を追うごとにコンピュータは進化しているが,コードはその都度書き換えを余儀なくされている。.Net Frameworkのインターオペラビリティは極めて重要だ」とヘイルスバーグ氏。

 .Net Frameworkで開発された新しいコードは,XMLとSOAPでほかのシステムと連携できるだけでなく,これまでのCOMアプリケーションやDLLもうまく生かすことができるという。それはWebサービスが,既存のWebというインフラやプログラミングモデルを生かしているのと考え方は同じだ。

 ヘイルスバーグ氏は,ステージ上で自らコーディングを行いながら,カレンダーから日付を選ぶと売り上げデータを表示するという簡単なアプリケーションをつくってみせた。.Net版のASP(Active Server Pages)である「ASP.NET」のコードにDelphiの既存コードを追加してサーバベースで走らせたり,Webサービスとして公開したり……。もちろん,既存のコード,特にDelphiコードが生かせるのをアピールするのが狙いだ。

 マイクロソフトでC#言語をつくったヘイルスバーグ氏だが,「.Net Frameworkでは,Delphiもファーストクラスの言語としてサポートする」と話した。

 Delphiは急ピッチで.Net対応が進められており,今年後半にリリース予定の次期バージョン(コードネーム:Aurora)では,MSILコンパイラが含まれるなど,.Netアプリケーションの開発に着手できるようになる。2003年にはコードネームで「Galileo」と呼ばれ,.Net FrameworkをフルサポートしたDelphiも登場する。

[浅井英二 ,ITmedia]