エンタープライズ:トピックス 2002年5月28日更新

Gartner Column:第48回 サンの新戦略はマイクロソフト流?

 最近のソフトウェア分野におけるサンの動きからは目が離せない。特に注目すべきは,「サンのソフトウェア戦略がマイクロソフト的になっているのでは?」という点だ。

 一時のひとり勝ち状態とはうって変わり,厳しい業績にあるサンは,ハードウェアに全面依存したビジネスモデルからの脱却を余儀なくされている。ここで,重要になってくるのがソフトウェア戦略だ。

 ソフトウェアの世界でのサンの成果について言えば,ご存知のようにJavaが開発者コミュニティとしてきわめて成功し,マイクロソフトの大きな対抗勢力となっている。この意味では,サンのJava戦略はほぼ目的を達成しているだろう。しかし,ソフトウェアビジネスの収益という観点から言えば,「サンがまいて,IBM(およびBEA)が刈り取る」という構造になっていることは否めない。

 サンは,Javaの成功をソフトウェアビジネスの成功へと結びつけるための重要な戦略として,SunONEを立ち上げた。今では,iPlanet,Forteなどの認知度はあるものの,ユーザーに混乱を与えてきたソフトウェア製品のブランド群を整理し,すべてSunONEブランドで統一することになった。これは,サンのソフトウェアベンダーとしての決意表明だ。

 サンは,今後も「コミュニティとしてのJave」と「ビジネス戦略としてのSunONE」をうまく使い分けていくだろう。これは,最近のスコット・マクニーリ氏の発言からも明らかだ。「現在のIT業界で有力な開発コミュニティと言えば2つ。ひとつは,マイクロソフトの.NETであり……」という話のつかみはマクニーリ氏の講演でよく出てくるのだが,この後に続くせりふは,JavaOneでは「もうひとつはJavaだ」であり,サンの記者会見では「もうひとつはSunONEだ」であった。

 このようなサンの姿勢を首尾一貫していないと批判するつもりはない。あらゆるベンダーがコーペティション(協業+競合)の関係にある今日のIT業界では,このような多面性は,どのようなベンダーもが対峙しなければならないものだ。

 SunONEに関する最近の重要な動きとしては,米国で5月22日に発表されたSolaris 9において,SunOneのJ2EE準拠アプリケーションサーバとディレクトリサーバがバンドルされることが発表された点がある。

 TCO(総合保有コスト)という観点から見れば,アプリケーションサーバソフトウェアの購買コストはさほど大きな割合ではないのだが,無料で付いて来るという心理的効果がユーザーに与える影響は大きい。もちろん,「システムとして緊密に統合されている」という話と「ライセンス方式としてバンドルされている」という話は明確に区別する必要はあるが。

 ご存知のようにOSに上位ソフトウェアをバンドルしていく戦略はサンが初めてというわけではない。マイクロソフトのサーバOSでは,既にWebアプリケーションサーバに相当する機能がバンドルされているし,ちょっとタイプは違うがIBMのAS/400も同様のコンセプトのシステムである。

 実は,サンの米国本社の某マネジメントに「なぜ,マイクロソフトのバンドル戦略に強く反対するのに,サンは同じような戦略を取るのでしょうか?」と質問したことがある。その答えは「それは,サンがUNIX市場で寡占状態にあるわけではないからだ」というものであった。

 何か,手前勝手な感じがしたが,よくよく考えれば理にはかなっている。一般に独禁法訴訟において論点になるのは,公正な競争を妨げるために独占力を悪用しているか否かであって,製品の販売方式そのものにあるわけではないからだ。

 このサンの新ソフトウェア戦略がマイクロソフトやIBMに与える影響は小さくないだろうが,とりわけ,BEAに与える影響は大きいだろう。BEAはミドルウェア専業ベンダーなので,OSへのバンドル戦略に直接的に対抗することは困難だ。下手をすると,クライアントPCの世界におけるネットスケープのような状況に置かれるリスクすらある。

 もちろん,BEAはこのリスクを十分認識しており,Webアプリケーションサーバだけに依存するのではなく,ポータルサーバやe-コマースサーバなどの上位ソフトウェアへのシフトを加速している。また,機能や実績という面では,依然としてBEAのWebLogicがJ2EEベースのWebアプリケーションサーバ市場におけるリーダーであると,ガートナーは見ている。

 ここで注目したいのが,前回に述べたように,Netaction戦略をトーンダウンしたHPである。明らかに今,BEAとHPは強いWin-Win関係を築ける状態にあり,両社の距離が今まで以上に縮まっていくことも十分予測できるだろう。

[栗原 潔ガートナージャパン]