エンタープライズ:トピックス 2002年6月11日更新

Gartner Column:第50回 UnitedLinuxが示すエンタープライズLinuxの可能性と課題

 UnitedLinuxの方向性は正しく、Linuxの企業への普及に貢献するだろう。しかし、同時にUnitedLinuxは、現状のLinuxがエンタープライズ市場で抱えている課題も表していると言えるだろう。

 5月30日に発表されたカルデラ・インターナショナル、コネクティバ、SuSE、ターボリナックスというディストリビューター4社が共通のLinuxをサポートしていくというUnitedLinuxは方向性としては正しい。

 Linuxがエンタープライズコンピューティングの世界で成功するための最大の阻害要因は、エンタープライズ系ISV(独立系ソフトウェアベンダー)のサポート意欲にあるからだ。スケーラビリティや可用性などのテクノロジー的な課題は、Linux開発コミュニティが総力を結集すればいずれは解決可能であろうが、ISVサポートという課題はディストリビュータ間の協調なしには解決が困難である。

 ガートナーのエンタープライズプラットフォームに関するプレゼンテーションを聞いたことがある方なら「プラットフォーム(要するに、OSとハードウェア)の将来性は、技術的な優位性よりも、ISVのサポートの強弱により決定される」という主張をしつこいくらい聞いたことがあるだろう。

 実際、テクノロジーとして見れば優れているプラットフォーム製品がISVのサポートを得られなかったために市場で成功できなかった事例はITの歴史の中にあふれている。

 Linuxにとって強いISVサポートを得るための大きな障壁のひとつは選択肢が多すぎることである。アカデミアや個人向け市場では選択肢の多さはメリットかもしれないが、エンタープライズ市場では選択肢が多すぎることは問題だ。各企業が標準バージョンを選択して使用すればよいではないかという意見もあるかもしれないが、ISVにとっては自社製品をあらゆるLinuxのバリエーション上でテストし、動作保証するのは負荷が高い。

 結果的に、多くのISVがRed Hatをメインターゲットとした移植作業を行っており、「エンタープライズLinux = Red Hat」というイメージが構築されつつあった。しかし、これは、Red Hat以外のディストリビュータにとっても、そして、Linux業界全体にとっても決して望ましい形ではなかっただろう。

 UnitedLinuxにとっての最大の課題はRed Hatとの健全な競合を行いつつ、協調姿勢を強めていくことだ。

 Red HatがUnitedLinuxに参画するシナリオは今のところ考えにくいし、UnitedLinuxとRed Hatのディストリビューションを全く同じにすることは困難でああろうが、システム管理やソフトウェア導入などの基本的なツールを共通化することでISVのテスト負荷を軽減することができるだろう。

 このような協調姿勢がなければ、過去にあったUI(Unix International)とOSF(Open Software Foundation)間の「無益な」(と現時点では言い切ってしまってよいだろう)戦いが繰り返されることになるだろう。

 UnitedLinuxのもうひとつの課題はアプリケーション系のISVのサポートをさらに強めていくことだ。UnitedLinuxに対して、IBM、SAP、HP、AMD、ボーランドなどの主流ITベンダーが賛意を表明している。しかし、SAPを除き、インフラ系のベンダーが中心であり、シーベル、オラクル(E-Biz Suite)、ピープルソフトなどの名はそこにはない。このようなアプリケーション・ベンダーがLinuxに真剣にコミットしてくれない限り、Linuxがエンタープライズプラットフォームとして主流の地位を得ることはないであろう。

 もはや、大企業のサーバ展開のほとんどにおいて何らかのエンタープライズアプリケーションパッケージの稼動が前提となっているからである。

 ここで誤解していただきたくないのは、ガートナーがLinuxの将来に悲観的というわけではまったくない点だ。

 実際、ガートナーは調査会社の中でも、Linuxの将来についてかなり強気の見通しを立てている。2006年にはLinuxを搭載したサーバの新規売り上げが約100億ドルのレベルに達すると予測しているのである。

 これは、Solaris、hp-ux、AIXというほかの主流UNIXサーバと同等の市場規模である。この市場はほとんどがWebサーバなどのインターネットのインフラOSとしての用途になるとガートナーは見ている。

 この用途では、エンタープライズアプリケーションの不足はさほど大きな問題にはならず、Linuxの有効性を十分に生かすことができるからである。エンタープライズアプリケーション市場での課題はあるが、Linuxのエンタープライズでの普及は進むであろうということだ。

 カルデラのCEOであるランサム・ラブ氏の言葉を借りれば、Linuxは「インターネットによる、インターネットのためのインターネットのOS」なのである。

 まったくの余談であるが、ラブ氏とのインタビューで「本名ですよね?」と聞いてしまったことがある。「Ransom Love」は、直訳すれば「愛の贖罪」という映画のタイトルのような名前だからだ。「よく聞かれるけど、本名だよ」と笑われてしまったのであった。

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[栗原 潔ガートナージャパン]