エンタープライズ:コラム 2002/07/01 22:43:00 更新


Gartner Column:第53回 Webサービスをもっと現実的に見てみよう

最近になり、IT系だけではなく、ビジネス系のメディアでもWebサービスが扱われることが多くなってきた。しかし、そこでは遠い未来の話が、あたかもすぐに実現可能なように語られてしまうことが多い。Webサービスの適用はもっと現実的な領域から考えてみるべきだろう。

 最近になり、IT系だけではなく、ビジネス系のメディアでもWebサービスが扱われることが多くなってきた。しかし、そこでは遠い未来の話が、あたかもすぐに実現可能なように語られてしまうことが多い。Webサービスの適用はもっと現実的な領域から考えてみるべきだろう。

 インターネットを介して、多くの企業のアプリケーションとユーザーが自由に連携できる世界。これが、Webサービスが最終的にもたらしてくれる理想だ。本コラムの第3回では、このようなコンピューティング形態を「グローバル・クラス・コンピューティング」として紹介した。そこでも書いたことだが、このような世界が一朝一夕で実現されるわけではないのは言うまでもないことだ。

 Webサービスは、IT業界、特にデベロッパー・コミュニティでは、ハイプ曲線(第9回参照)の底に来ていると判断しているが、(日本国内の)メディアではまだ流行期のピークにあるのかもしれない。いずれにせよ、ITに携わる者としては、Webサービスの適用範囲についてもっと現実的に見ることが必要だろう。

 Webサービスというテクノロジーのポイントは、既存のWebアプリケーションのインフラやアプリケーション設計を大きく変更することなく、アプリケーション間の統合が実現できるという敷居の低さにある。その意味で、Webサービスの応用はインターネットをまたがった企業間連携ではなく、社内のアプリケーション連携から始まっていくであろうというのが、ガートナーの予測であり、多くのベンダーの読みである。

 ガートナーは、企業の多くが社内でWebサービスを使用することでノウハウを獲得し、また、セキュリティ、トランザクション、データのコンテンツ(セマンティクス)などの重要機能の標準化がある程度確定する2004年ごろから、インターネット上でのWebサービスの本格的展開が始まっていくと見ている。もちろん、それまでにWebサービスのインターネット上での展開が行われないということはないが、それらはどちらかと言えば実験的な色彩が強いものとなっていくだろう。

 Webサービスによる簡便なアプリケーション間連携は、一時もてはやされたメインフレーム−PCリンクの世界におけるターミナルスクレーパ機能に例えることができるだろう。ターミナルスクレーパとはPC上のプログラムでダム端末の画面を直接読み書きすることで、ホスト上のアプリケーションとPC上のアプリケーション間の連携を行う手法である。3270APIとかHLLAPI(ハラッピー)と言った方がなじみのある人が多いかもしれない。

 ターミナルスクレーパによる連携の良いところは、ホスト側のアプリケーションやインフラを変更する必要がほとんど無い点で、いわば、非破壊的なアプリケーション連携が可能である点と言える。手法としては決してエレガントではないが、ユーザーが求める機能を迅速に提供できる点で効果的であることが多い。例えば、ホストアプリケーションの表示データをPC上のスプレッドシートに自動的に埋め込む場合などだ。

 もちろん、ターミナルスクレーパという方式には制限が多い。パフォーマンスも限定的だし、例えば、ホスト画面のレイアウトが変更されてしまうと、PC上のプログラムは誤ったデータを読んでしまうことになる(しかも、そのことをプログラムから判断することは難しい)。これは、ターミナルスクレーパが確固たるアーキテクチャに基づいているわけではなく、あくまでも後付けで開発された間に合わせの手法であることから無理もないことである。

 Webサービスは、ターミナルスクレーパによる簡便な連携を、XMLに基づくしっかりとしたアーキテクチャに基づいて実現できる手法であると言えるだろう(もちろん、その分、既存のアプリケーションを全く変更しなくて済むというわけにはいかないが)。

 TPモニターや分散データベースによるニ相コミットやインテグレーション・ブローカによる連携が密結合型の連携であるとするならば、Webサービスによる連携は疎結合型の連携であると言える。企業内のアプリケーション連携の要件の中には、疎結合型の連携で十分である場合、また、疎結合型の方が望ましい場合も多く存在するはずだ。

 例えば、複数のWebアプリケーションのウインドウ間で切り貼りを行うことで、人手で連携を行うような業務が日常的に行われているのであれば、それは、Webサービスによるアプリケーション連携を活用できる良い対象になるかもしれない。

[栗原 潔,ガートナージャパン]