エンタープライズ:コラム 2002/07/23 22:25:00 更新


Gartner Column:第56回 メインフレーム・リホスティングという選択肢

メインフレーム・リホスティングとは、メインフレーム上で稼動している既存アプリケーションを、ほとんど変更なしに他のプラットフォーム(多くの場合、UNIXサーバ)へ移行することである。幾つかの条件が満足されれば、このような単純移行が有意義なこともある。

 メインフレーム・リホスティングとは、メインフレーム上で稼動している既存アプリケーションを、ほとんど変更なしに他のプラットフォーム(多くの場合、UNIXサーバ)へ移行することである。幾つかの条件が満足されれば、このような単純移行が有意義なこともある。

 1990年代初頭、クライアント/サーバがブームとなった時にも、メインフレームからクライアント/サーバへの単純移行が頻繁に行われたことがある。しかし、このような「移行のための移行」は予算オーバーや納期オーバーにより失敗するケースも多く、仮に移行作業自体は無事完了したとしても、事後的にコスト分析をしてみると、安定性の低下や運用の複雑性増加などにより、かえってコストが増加してしまうことも多かった。

 メインフレームからの移行に限らず、一般に、アプリケーション的な見直しなしに基盤技術だけを変更する「移行のための移行」はお勧めできない。例えば、プログラミング言語だけを変更するような場合などだ。

 メインフレーム市場の置き換えをねらうUNIXサーバベンダーも、既存アプリケーションのリプレースよりも、新規アプリケーション構築の機会(典型的には、ERPなど)にフォーカスすることが多くなっている。

 しかし、2001年9月、サン・マイクロシステムズは、クリティカル・パスのメインフレームリホスティング事業を買収し、再度、リホスティングにフォーカスし始めた。日本においても、2002年5月にサービス開始の発表が行われた。

 サンが提供するリホスティングは、Solaris上にメインフレームのCICSとバッチの互換環境を提供し、既存メインフレームのソースコードをSolaris上でコンパイルすることで、最小限の負荷で移行を行おうというものだ(メインフレームのバイナリをSolaris上でエミュレーション実行すると勘違いしている人もいるようなので、念のため)。

 サンは、このリホスティング・ソリューションを汎用のメインフレーム・アプリケーション移行ソリューションと考えているわけではなく、特定の条件が満足された場合にのみ適用するニッチ的なソリューションと考えているようだ。これは懸命な判断と言えるだろう。

 そもそも、テクノロジーとして見れば、(特にハイエンドの)メインフレームは決して「過去の遺物」ではない。確かに使いやすさという観点から見れば、とっつきは悪いかもしれないが、冷静に機能的な分析を行ってみた結果、ガートナーはメインフレームの機能を高く評価している。

 UNIX系やWindows系しか経験のないエンジニアの方は、是非機会を見つけてメインフレームの勉強をしてみてほしい。その先進性に驚かれるだろう。実際、UNIXやWindowsの世界における「先進的機能」(例えば、パーティション機能など)がメインフレームの世界でははるか昔から使用されている場合も多い。

 しかし、世の中には、本来メインフレームを使用するほどのハイエンド業務ではないのに、過去からの惰性でメインフレームを使用し続けているアプリケーションもかなり存在する。本来であれば、業務的な見直しと共に、新たなアーキテクチャで再構築したいところではあるが、それもかなわず、いわゆる塩漬け状態になっているシステム……。

 特に、社外のデータセンター・サービスを利用している場合など、結構なコストがかかっている場合もある。現在のような経済環境では、このようなアプリケーション環境のコストも無視することはできないだろう。

 サンのリホスティング・ソリューションを検討する場合には少なくとも以下の条件が満足されていることが必要だろう。

  1. IBMメインフレーム上でのCICSないしバッチ処理環境であること。これは、クリティカル・パス製品がこの環境しかサポートしていないためだ。日本国内の場合、CICSよりもポピュラーなIMSはどうかという要望はあるだろうが、IMSは米国ではややマイナーで、相当に癖があるTPモニターなので、対応は難しいかもしれない。国産メインフレーム環境はどうかという話も当然にあるだろう。テクニカルに言えば、富士通と日立という「IBM系」メインフレームのバッチ環境であれば対応できる可能性もある。リクエストをサンに上げれば対応の可能性も高まるだろう。(サンに直接リクエストを送ることがはばかられるのであれば、是非、ガートナーにメールを送っていただきたい。企業名を匿名にしてガートナーからサンにリクエストすることもできる。ユーザーの生の声を吸い上げてベンダーに伝えるのも、ガートナーの企業使命のひとつだからである。)
  2. ハイエンドの環境ではないこと。どこからがハイエンドかという議論はあるが、OLTPの場合には同時並行ユーザー数にして500ユーザー以下程度であれば、十分、リホスティングの対象になり得るだろう。
  3. ソースコードが完備していること。これは、サンのリホスティングの仕組みを考えれば当然のことである。古くから稼動しているアプリケーションでは、往々にして、ソースコードが紛失していたり、実際に稼動しているバージョンと同期が取れていないこともあるので注意が必要だ。また、メインフレーム上でCICS以外のパッケージ製品に依存している場合には、同等製品がSolaris上でもサポートされていない限り、単純移行は不可能である。

 他にも、運用や他システムとのインターフェースなどの点で考慮すべき点は多い。「単純移行」とは言っても、実際の移行プロジェクトは単純ではないのである(クリティカル・パスの実績では規模により2カ月から9カ月を要するようだ)。それでも、可能な限りのコスト削減が求められる今、リホスティングを検討すべきケースは少なくないだろう。

[栗原 潔,ガートナージャパン]