エンタープライズ:ニュース 2002/10/03 20:44:00 更新


ITガバナンス時代のベスト・オブ・ブリードとは?

ITガバナンスが叫ばれるようになった。コスト優位性を維持しながら企業システム全体を有効に運用していくためには、特定のベンダーに任せるのではなく、それぞれの分野で最良のシステムを選択して組み合わせて利用するベスト・オブ・ブリードの考え方が強まっている。

 企業統合や連結決済によるグループ企業間のシステム統合、グローバルなコーポレートガバナンスなどにより、企業システムの全体最適化が急激に進んでいる。理由は2つ。コストカットと次の投資資源の捻出である。伸びてゆく企業は、バイオ、ナノテク、医療、安全、環境などの次世代ビジネスへの投資に移行する。オールドエコノミーはもちろん、ちょっと前まで持てはやされていたIT産業でも、新たなビジネスモデルを生み出せない企業は斜陽化してきている。企業システム全体を最適化するためのひとつの要素として、ITインフラの標準化とシステム統合の事例について考えてみたい。

 財務や販売管理、人事、経理など企業経営の根幹を支える統合基幹システムにおいて、日本で40%以上のシェアを誇るSAP R/3システム。SAPシステムユーザーの顧客満足度の約40%は、データベースやOSといったテクノロジー分野における最適化が占めるという。ところが、日本のコンサルティングファームは、業務とアプリケーションの指針、もしくは構築までリードすることはあっても、ITインフラの部分までは担当しない。システムインテグレータ(SI)と組むか、最初からSIがパッケージありきでコンサルティングをするか。逆に、インフラを知らないコンサルティングファームがインプリまで行うというケースもある。ERPシステムが完成したのに実際の運用に合わないといった問題が発生し、雑誌などを賑わしたりしているのはこのようなケースが多い。

 そのような「ITインフラ問題」の解決を目指す企業として、最近設立されたのがリアルテックジャパンだ。独リアルテックの子会社である。「1st Global Alliance Technology Partner for SAP」の称号を持ち、世界でも最高水準の技術をもつSAPのテクロノジー・コンサルティング・パートナーとして位置づけられているそうだ。

 リアルテックジャパンが実際に行うサービスの内容は「ベーシス・コンサルティング」と呼ばれるもの。SAPシステムの運用プロフェッショナルによる「サイジング」と呼ばれるサーバ選定を正確に行い、最良のコストパフォーマンスが得られることを保証していく。主要株主は、私の所属する日本ユニシスも含め、独リアルテック、マイクロソフトの3社となっている。

ベーシス・コンサルティングはなぜ必要か

 企業の基幹業務として運用するSAPシステムのインフラは、以前はUNIXシステムしか選択の余地がなかった。ところが最近のWindowsの技術的な進歩により、大規模なSAPシステムでも十分対応ができるようになってきている。選択肢が増えたことにより、コストパフォーマンスに優れたシステムを顧客のみで選択することが難しくなり、そこでエキスパートによるコンサルティングが必要な時代となってきた。2002年現在では、過半数を超えるデータベースが、SQL Serverで構成されるというデータもある。基幹システムも時代とともに変化してきているのだ。

 ベーシス・コンサルティングが必要になる2番目の理由として、SAPシステムは、パッケージソフトウエアであるがゆえに、定期的なバージョンアップが必須となることが挙げられる。パッケージソフトの所有権はあくまでもパッケージベンダーにあり、ユーザーは使用権しか持っていないという契約上の現実がそこにはあるのだ。そのため、バージョンアップ作業は、SAPからのサポートを受けるための必須条件となっている。古いバージョンを使用しているユーザーがバージョンアップを行うためには、顧客ごとの個別変更部分への対応や、処理性能の増強などの検討が必要となる。またさらに機能拡張部分を使用するための配慮も考えなければならない。それらの適用に対応するためには、やはり専門家のサポートが必要となるのである。

 リアルテックジャパンの提供するベーシス・コンサルティングでは、RAMS、つまり信頼性(Reliability)、可用性(Availability)、管理性(Managability)、拡張性(Scalability)の4点におけるベストインテグレーションを提供するという。これにより、21世紀型の基幹システム構築における必須条件、つまり、スピーディなシステム構築と短期間の対投資効果が得られる。

SAPシステムの再構築事例

 例えばあるメーカーでは、当初SAP R/3 3.0Fというバージョンを運用していた。これをR4.6Cというバージョンまでアップグレードを計画したが、この場合最低でも2倍の処理性能が必要となることがベンチマークにより証明されている。

 またSAPシステムでは、開発用・テスト用・本番用や追加サブシステム毎サーバ・リソースが必要とされてきた。これに伴いUNIX機10台の運用を余儀なくされていたのである。

 このような中で、Windows 2000 Datacenter ServerがWindows 2000 ServerのハイエンドOSとして2年前に発表され、このメーカーも検討を開始した。最大32CPU、64GバイトのIAサーバであれば、2〜3台の運用が可能なはずである。そして最終的には2台のIAサーバで運用が開始されたのである。

 導入費用は従来の1/2。従来3.5時間かけていたMRP計算が1時間で終了した。システム統合により運用性、管理性も向上し、Windowsの簡便な操作性で、高い顧客満足も得られている。またWindows Datacenterプログラムに則り、24時間365日稼動、99.9%以上のシステム稼動が保証され「止まらないシステム」が運用されている。

 リアルテックジャパンは、このようなSAPシステムの再構築事例に基づき、ベーシス・コンサルティングを今後さらにビジネス展開してゆく予定だという。

ベスト・オブ・ブリードとは

 SAPシステムを提供するSI企業やコンサルティングファームでは、1社でコンサルティングからハードウエア/ソフトウエア選定、運用先選定までのすべての導入プロセスを独占的に行うケースが増えてきている。コンサルティング・導入・運用などの各プロセス間でのノウハウ伝達と共有ができるというメリットはあるが、これではホストやUNIX中心の時代と何ら変化もなく、顧客のITガバナンスを尊重した自律運営と、最適なコスト・パフォーマンスが保証されるとは言い難い。

 確かに手厚いベンダーに対する感情移入や、運命共同体的なパートナーシップも、顧客にとって居心地は悪くはないだろう。しかし、システムトラブルが起きた場合の責任の擦り合いなどを想像すると、21世紀型のパートナーシップとは言えないのではないだろうか。

 顧客価値の創造を第一と考えると、SI企業やコンサルティングファームは、顧客の立場にたった上でベスト・オブ・ブリードとして、顧客の全体最適化を推進するためのサポートをリーズナブルな形で行うべきだろう。例えば、業務分析はA社、アプリケーション構築はB社、運用はアウトソーシングでC社、ITインフラのコンサルティングはD社といった具合にだ。

 このように、IT産業もビジネスプロセス統合に基づく改革を行うべき時が来ているのだ。

澤井 俊一氏は、日本ユニシスのESビジネス推進部で同社のハイエンドIAサーバによる企業システムの構築に関わっている。サーバを核にした企業ビジネスの方向性についても詳しい。

[澤井 俊一 日本ユニシス ESビジネス推進部,ITmedia]