エンタープライズ:コラム 2002/10/09 19:24:00 更新


Gartner Column:第64回 リアルタイム化するデータウェアハウス

9月末から10月初めにかけて、米NCRのユーザーカンファレンス「PARTNERS」に出席した。彼らの戦略の柱は、「ペタバイト」と「アクティブ・データウェアハウス」だ。より多くの情報をリアルタイムで競争力に変えていくという概念は、今や現実のものとなりつつある。

 ITのリアルタイム化は改めて説明するまでもない明白なトレンドだ。しかし、数百テラバイトのデータウェアハウスが準リアルタイムで運用されているという事例を聞くと、データベーステクノロジーの進化に感銘せざるを得ない。

 9月末から10月初めにかけて、米NCRのユーザーカンファレンス「PARTNERS」に出席していた。ハイエンドのデータウェアハウス市場では、同社のDBMSである「Teradata」は圧倒的なシェアを誇っており、それゆえ、このカンファレンスは米国の先進データウェアハウスユーザーの事例発表会とも言え、IT業界アナリストとしては貴重な情報収集の場なのだ。

 個別の事例やインタビューについては、浅井編集長の取材記事を参照いただくとして、このコラムでは、より全体的なトレンドについて述べたい。ラーズ・ナイバーグNCR会長の基調講演において今後のNCRの戦略の中心が2つ紹介された。それは、「ペタバイト」と「アクティブ・データウェアハウス」である。

 1984年にTeradataが市場に登場したときには、テラバイトというのは極めて膨大なデータ量として考えられていたことだろう。しかし、今や数十テラバイト級のデータウェアハウスは珍しくなくなっているし、数百テラバイトのデータウェアハウスを実現している企業も存在する。ビジネスをうまくサポートできたデータウェアハウスのデータ量は年間約2倍のペースで増加していくという経験則を考えると、ペタバイト(=1000テラバイト)級のデータウェアハウスが登場するのも間もないことだろう(実は、公表されていないだけで、既にペタバイト級データウェアハウスは存在しているのかもしれないが)。以前、NCR幹部と、Petadataという商品名にしておけばよかったのにと話したことを思い出した。

 もう1つの重要なトレンドであるアクティブ・データウェアハウスとは簡単に言えばデータウェアハウスをよりリアルタイム化していくことだ。

 ITのリアルタイム化は極めて当たり前なトレンドであり、わざわざ強調するほどのことでもないように思われるかもしれない。例えば、多くの企業において夜間バッチ業務が縮小しているし、ERPやSCMなどの本質の1つもすべてのデータ更新をリアルタイム化する点にある。

 しかし、今までのところ、このようなリアルタイム化の動きは業務系(トランザクション処理系)を中心に行われており、データウェアハウスのような大規模な意思決定支援系におけるリアルタイム化はさほど進んでいるとは言えなかった。実際、多くのデータウェアハウスが日次の夜間バックアップにより更新されるほぼリードオンリーのデータベースとなっている。

 アクティブ・データウェアハウスとは、従来型データウェアハウスのリアルタイム性を高め、戦略的な意思決定支援だけではなく、戦術的な意思決定や業務系処理の支援のためにも適用範囲を拡大していこうという試みである。

 意思決定支援においてもこのようなリアルタイム性が求められている理由は明らかだろう。意思決定のスピードが企業の競争力の向上に大きく貢献するからだ。意思決定の速い企業が市場のリーダーになり、規模は大きいが意思決定が遅い官僚型組織の企業が苦慮している状況は、ITに限らず、多くの産業分野で見られる現象である。

 リアルタイム性の要求をさらに高めている要因はCRMである。少しでも待たせれば顧客は去ってしまう。顧客とのやり取りは本質的にリアルタイム性を要求されるものである。コールセンターやWebサイトで、リアルタイムで顧客情報を分析し、最適なサービスや商品を推奨することなどがあたり前になっている。

 このようなリアルタイムの分析はデータの専用サブセットを元に行われることが多い。このようなデータベースを「オペレーショナル・データ・ストア」(ODS)と呼ぶ。ODSはリアルタイム性が高い代わりに履歴データは最小限である。

 一方、データウェアハウスは通常1年以上の大量の履歴データを持つ代わりに、前述のようにリアルタイム性は限定的である。つまり、ODSとデータウェアハウスは相互補完的な存在なのである。

 しかし、両者を分けているのは、ある意味、データベーステクノロジー上の都合に過ぎない。もし、大量の履歴データを維持したまま、リアルタイムの分析を行うことができれば、ODSとデータウェアハウスを別立てで持つ必要はないわけだ。

 大雑把に言えばODSを取り込んだデータウェアハウスこそがアクティブ・データウェアハウスである。アクティブ・データウェアハウスは、ODSとデータウェアハウスの良いとこ取りをした存在であり、履歴データを生かした高度な分析をリアルタイムで行うことを可能にする。

 PARTNERSカンファレンスでは、既に、数百テラバイトの規模でアクティブ・データウェアハウスを実現しているケースが10社以上存在することが発表された。推測だが、リアルタイム化は特定のデータだけに適用されているようであり、数百テラバイトのデータが完全にリアルタイムで更新、分析されているわけではないようだ。しかし、この領域のテクノロジーは、業界アナリストが予測していたペース以上で進んでいるとみてよさそうだ。

 ガートナーも「リアルタイム・エンタープライズ」(RTE)という概念を今後の重要なリサーチ対象としている。RTEとはビジネスプロセスと意思決定の遅延を最小化することで競争優位を得る戦略であり、過去にZLE(無遅延型企業)と呼んでいた概念を拡張したものである。

 経営のリアルタイム化自体は10年以上前から提唱されてきたアイデアであり、目新しさは感じられないかもしれない。しかし、アクティブ・ウェアハウスのように、テクノロジーの進化により、今までは概念でしかなかったリアルタイム性が現実のものとなるケースが今後も増加してくるだろう。その意味で、リアルタイム経営という領域には今まで以上に注目しなければならなくなってくるはずだ。

 さて、1年以上にわたり私が週1回のペースで連載を続けてきたわけですが、次回より体制を少し変えて、ガートナージャパンの同僚3人を加え、持ち回りで本コラムを執筆していくことになりました。今まで以上に幅広い内容をお届けできるのではと考えています。今後ともご愛読よろしくお願いいたします。

[栗原 潔,ガートナージャパン]