エンタープライズ:コラム 2002/10/21 18:13:00 更新


Gartner Column:第66回 ユーザー調査に見るマイクロソフトの企業イメージ

今月からGartner Columnは、4人のアナリストによる持ち回りとなった。今週は、ガートナーのITデマンド調査室で主席アナリストを務める片山博之氏にお願いをした。8月に行ったベンダー・イメージ調査の結果から、マイクロソフトというIT企業が日本の企業ユーザーからどのように見られているのをレポートしている。

 マイクロソフトは10月17日、2003年度第1四半期(7−9月)の業績を発表した。それによると売り上げは前年同期比で26%アップ、営業利益では40%アップと、この景気低迷期の中でかなりの好業績を示す数字だ。

 しかし、一方ではマイクロソフトのやり方を批判する声も多く上がっている。今回は、ガートナーが2002年8月に行ったベンダー・イメージ調査の結果から、マイクロソフトというIT企業が日本の企業ユーザーからどのように見られているのか、その調査結果の概要を報告する。

 ガートナージャパンでは、大規模なユーザー調査を年に2回定期的に実施している。その中で、ITベンダーの特徴が最も強く出るのが、ベンダーのイメージ調査だ。

 この調査は、各ベンダーのマーケティング戦略(重大な技術の発表、PRやキャンペーン活動など)が企業ユーザーにどのようなイメージを植え付けたかという、ベンダーによるマーケティング戦略の最終結果といってもいいだろう。ベンダーの長年の活動による結果もあれば、その年の大きなイベントによる結果もこの調査結果に如実に表れる。

 例えば、1997年は、サン・マイクロシステムズがJavaの普及活動を強化した年だった。このときは、技術面の優劣によるイメージ調査結果では、サンがIBMを抜きトップ評価に踊り出た。しかし、市場でのJavaの影響力が当初の期待ほどではなくなってくると、それ以降の技術面でのトップは再びIBMとなっている。

 さて、下の図は、今年8月に行った最新の企業イメージの調査結果である。ここでは、「公正・誠実なビジネスを展開していると思うベンダーを3つまで選択してください」と「長く付き合いたいと思うベンダーを3つまで選択してください」という2つの質問に対する答えが、どのような相関関係にあるのかを表している。

 対象ベンダーは日本で活動する主要なITベンダー19社であり、それぞれの選択率で各ベンダーのポジションを示している。横軸の「公正・誠実なベンダー」の選択率については、各ベンダーのポジションが明確になるように対数表示している。

map.gif

 図を見て分るように、ほとんどのベンダーは直線上(横軸に対数をとったため曲線になっているが)、あるいはその周辺に位置している。これは「公正・誠実なビジネスを展開しているベンダー」と思われれば、「長く付き合いたいと思われるベンダー」であるということと同義である。その相関関係は、左上に示したRスクエア値(1.0に近いほど相関関係は強くなる)を見れば一目瞭然だ。

 では、MSはどこに位置付けられているのか。唯一、この直線から大きく離れたところに位置している。この意味するところは、「マイクロソフトは公正・誠実なビジネスを展開しているベンダーとは思われていないけれども、長く付き合いたいと思われている、あるいは長く付き合わざるを得ないと思われているベンダーである」ということである。

 公正・誠実と思われていないとはどういうことか。マイクロソフトが特に法を犯して不正を働いたというニュースは聞かない。しかし、マイクロソフトが現在行っているすべてのビジネス戦略で共通しているのは、既存のOS市場での優位性を最大限利用しているということである。

 ブラウザのInternet Explorer、データベースのSQL Server、メッセージングクライアントのOutlookなど、これらは既存のOS市場の優位性を利用して市場シェアを高めた製品である。特にブラウザに関しては米国の独禁法絡みの事件で知らない人はいないだろう。さらに、冒頭に挙げた、この景気低迷下でのマイクロソフトの好業績は、既存のOS市場でのデファクトスタンダードというポジションを利用した戦略(新しいライセンスプラン)が大きく影響している。これらが、マイクロソフトを「公正・誠実なビジネスを展開しているベンダー」と思われなくしている最も大きな理由だろう。

 すなわち、ほかの競合他社と同じ土俵で、製品の機能やマーケティング戦略で競争するのでなく、既存のOS市場での地位を利用してすべてのソフトウェア製品市場を独占しようとしているとみられているのだろう。マスメディアもそうしたイメージを加速している。

 しかし、このマイクロソフトの戦略が本当にフェアではないと言えるだろうか。もちろん、競合他社から見れば、マイクロソフトは最も邪魔な存在だろう。

 ユーザーから見ても、Windowsしか選択肢がないというのでは面白くないと思う人もいるだろう。しかし、OS市場での優位性はマイクロソフトのコアコンピタンスであると考えれば、それを利用する営利企業の戦略は特に間違っているものではないだろう。独占というのは、基本的にどんな市場においても存続が難しいものだ。100%独占になれば、その企業は怠けて競争力を失う。

 ちなみにOS市場でも、100%マイクロソフトが独占しているわけではない。メインフレームもあれば、UNIXもある。そしてここ数年、彼らはLinuxに対して相当な対抗意識を燃やしているはずだ。完全な独占ではないからこそ、競争力を維持できている。逆に、Linuxは脅威どころか、マイクロソフトを元気にする製品とも言えるのではないだろうか。

[片山博之,ガートナージャパン]