エンタープライズ:コラム 2002/10/24 18:56:00 更新


Oscar Column:オープンソースをビジネスにした男 - レッドハット、ボブ・ヤング

真っ赤な帽子がトレードマークの米レッドハット創業者、ボブ・ヤング氏。Linuxビジネスのパイオニアである彼は、「われわれはマイクロソフトを倒す」と言い放った。そのコメントは、業界を沸かせた名文句のひとつだ。マスコミはこぞって彼の、このひと言を記事にした。それは世界を駆け巡り、ボブ・ヤング氏を一躍有名にしたのだ。

 その男は、ミーティングが長びいて少し退屈したのか、椅子に座る姿勢もくずれ、やや背中をもたれた姿勢で足を組み直した。

 その動きにつられ足先に視線を移した人たちは、一様に驚いた表情になる。靴下が真っ赤であり、やけに目立つからだ。しかも、グレーのスーツ姿に赤いのだからなおさらだ。どう考えてもそぐわない。

 すかさず追い討ちをかけるように「ピロピロリ〜ン、ピロピロリ〜ン、パロパロパロ〜」。なんの音だ? 携帯の受信音か? それにしても、気が抜ける着信メロディー。「イッツ、ボブ」、携帯電話に出たその人物は、ミーティングの雰囲気などおかまいなしに、大声で答えた。と、その瞬間ミーティング全体が、ドッと笑いの渦の中に飲み込まれた。

 携帯電話をとった声の主はボブ・ヤング氏。米レッドハットの創業者だ。Linuxビジネスの先駆者である。今や彼が赤い帽子をかぶるのは、トレードマークとして定着している。しかし、ダークグレーのスーツに赤い靴下とは……。

 ボブ・ヤング氏がスピーチで壇上にあがると、自然に人々の顔が期待感で膨らむ。

「何か楽しいことが起こるんではないか?」

 そして、彼が最初にひと言発した瞬間「ワーッ!」と会場が沸く。笑い声が混じった歓声でいっぱいになるのだ。特におかしなことを言ったわけでもない。膨らみ過ぎた期待感を少しでも元に戻したい。

 彼の最初のひと言でこらえていた笑いを我慢できなくなったのだ。だから笑ってしまう。全身から漂うユーモラスな雰囲気。これがボブ・ヤング氏が持つ才能の1つである。

 無意識に人々に安心感を与える、人の良さそうな風貌。それでいて主張する内容は鋭い。しかし、その主張もうまくユーモアに包み込んでいるので、過激な印象はない。

 ボブ・ヤング氏の最も刺激的だったひと言。

「われわれはマイクロソフトを倒す」

 米レッドハットは数年前、たった2人で設立した会社だ。ノースカロライナ州の地方都市に位置する小さな規模だった。ITでは遅咲き、そして40歳まで全く無名だった人物。しかしボブが言うと本気に聞こえたから不思議だ。当時、マスコミはこぞって彼の、このひと言を記事にした。それは世界を駆け巡り、ボブ・ヤング氏を一躍有名にしたのだ。

 彼の設立したレッドハットは、1999年にナスダックに上場を果たし、現在300万ドル(約360億円)の資産を持つ。最近、Red Hat Linux Advanced Serverと呼ぶ企業向けに特化した新しいバージョンを発売したことでも大きな注目を浴びた。そして、CNETNews.comの調査記事によれば(2002年6月7日)、「あなたにとって、今後5年間の間に最も関係が深くなる会社はどこか?」という質問に対し、レッドハットはマイクロソフトに次いで、世界第2位の会社としてランキングされた。ちなみにIBM、サン・マイクロシステムズ、デルコンピュータがそれぞれ3、4、5位、オラクルは8位、アップルが9位である。ボブ・ヤング氏の「予言」もあながち冗談ではなくなってきた。

チェン・シン(Chen Shin)氏は、米国在住のフリージャーナリスト。レッドハットやユーザー企業が中心となって設立したオープンソース推進団体、OSCAR(Open Source Consulting Advisory Relationship)アライアンスのコラムニストとしても活躍。

[チェン・シン,OSCARアライアンス]