エンタープライズ:ニュース 2002/10/29 19:53:00 更新


現場から見たIAサーバ:エンド・ツー・エンドに考える最適なITインフラの選択

ゲートシティ大崎の駅直結のビル群にいると「シャリーン」という音が続けざまに聞こえてくる。プリペイド型電子マネー「Edy」の音だ。ここでは、ビル全体が電子マネーのテストマーケティングスポットなのである。そして、リアル店舗でEdyを全店展開している大手コンビニエンスストアとして、戦略的なIT投資を行っているam/pmジャパンがある。

 2002年12月1日よりりんかい線、埼京線、湘南新宿ラインが開通する町「大崎」に、ゲートシティ大崎という駅直結のビル群がある。ビル内のスターバックスでくつろいでいると、どこからか「シャリーン」という音が続けざまに聞こえてくる。これはプリペイド型電子マネー「Edy」を使って支払いをするときの音だ。このビル群のテナントでは、すべてEdyが利用できる。ビル全体が電子マネーのテストマーケティングスポットなのである。

普及期に入った電子マネー

 この電子マネーは、JR東日本が採用しているSUICAと同様の非接触型方式を利用しており、現状は電波法の制限上、2センチメートルまでの距離内で金額情報を読み書きできる。あらかじめ専用のチャージ・マシンからプリペイド方式で金額を追加しておき、支払い時にカードを専用の読み取り装置にかざす。たったこれだけなのだ。

 カード自身はデポジット方式で、返却時はデポジットが返金されるが、チャージされているお金は戻ってこない。一度使い始めると残高がゼロにならない限り、使い続けざるを得ないわけだ。

 電子マネーカード自身にはICチップが埋め込まれているだけで、驚くほどのハイテクではない。焦点は、どれだけのエリアや店舗で利用できるのか、あるいはどう便利なのかである。

 利用者側のメリットは、小銭が減り、つり銭計算が簡便になることや、ホテルやコンビニで使え、ETC利用者のようにちょっとだけスマートな気分になれること、トイザらス・ドットネットやGAZOO.comなどのネット決済に使え、限度額が低いことからクレジットカードよりも支払リスクが低いことなどが挙げられる。

 一方で、提供者側のメリットは、顧客の囲い込みができることや、それぞれの顧客情報を分析したり収集して「待ち伏せ」するような品揃えができる、店舗が取り扱う現金が減ることで防犯性が高まることなどが考えられる。

 電子マネー専用の読み取り装置が付属しているPCも出回ってきた。ネット決済も増えてきているのだから当然かもしれない。

経営戦略と直結したIT活用

 限られたビル内でのテストマーケティングではなく、リアル店舗でEdyを全店展開している大手コンビニエンスストアとして、am/pmジャパンがある。

 競合するコンビニエンスストアが、専用情報端末やチケット予約、専用顧客カードに走る中、am/pmはいち早く特定の銀行と提携してATMを設置し、また、サイバーデリス便という在宅デリバリーサービスも始めた。さらに、Edyを一挙に全店に設置するなど、経営戦略と直結したIT投資を展開している。

 コンビニエンスストアは、一般に価格戦略をとらない業態であるため、例えば米ウォールマートのように巨大なサプライチェーン・システム(SCM)を構築するよりも、顧客に分かりやすいサービス部分をIT化していく方が、メリットが高いと見たのかもしれない。

 実際、他のコンビニエンスストアのIT戦略は貧弱だ。ネット会員になればそれなりの情報がメールでくるが、オリジナル商品やタレントチケットなどの広告宣伝ツールにしかすぎない。「癒し系タレント」や本部のマーケティングキャンペーン頼みの状態になっているのが現状だ。

 ITを戦略的に活かしていくためには、PC・携帯・PDA・デジカメなどのITツールとの接続によるビジネスチャンスの拡大、電子マネーなどITツールの提供による利便性の共有化、顧客の購入動機分析による欠品率の低下と在庫コストの圧縮などが考えられる。

 多忙な現代人にとって、最も身近に癒される場所の1つがコンビニエンスストアであろう。とにかく徹底した売り上げ分析がカギを握っている。従来から導入されているPOSシステムでも、商品・天候・曜日・時間帯などの外的要因から、性別・年齢までの簡単なプロファイル分析には対応していた。

 しかし、他店舗との相関関係や個人の行動履歴があると、「どうしてココまで来たのに立ち読みしかしないで帰ってゆくのか」、などの詳細プロファイルに絡めた原因分析が可能となるのである。

熟年社会を見据えたIT戦略

 戦略的IT活用事例として、am/pmでは宅配サービスとの融合も推進している。「サイバーデリス便」というサービスだ。

 従来の電話による宅配サービスでは、消費者が在庫を確認できない、商品入替が激しく、カタログ配布にはコストがかかりすぎる、電話番号検索に時間がかかる、注文ミスやナンバーディスプレイ非通知対応で顧客満足が下がるケースがあるといった欠点があった。

 一方ネット上から商品と在庫を確認しながら宅配ができるサイバーデリス便では、お年寄りや幼児を抱える家庭など、家庭を離れるリスクの高い主婦や熟年層にとって、高い利便性を提供できる。ADSLなどのブロードバンドブームも相まって、一般の家庭内にも情報集約による利便性が今後さらに高まってくるのであろう。

エンド・ツー・エンドのシステムからみたITインフラとは?

 コンビニのような24時間営業の小売業が、電子マネーやデリバリーシステムなどのエンド・ツー・エンドのシステムを構築する場合、スピード+無停止運転+各種端末との接続性が求められる。POS端末はWindowsが一般化しており、携帯も今後Windows化されてゆくことから、e-コマースやCRM、データベース、データウェアハウス(DWH)は、さらなるWindows化・大規模化が進んでゆくのではないかと私は考える。

 理由としては、以下の3点が挙げられる。

  • 接続ユーザの増加と売り上げ分析の高度化、在庫のリアルタイム化により、増大するデータボリュームへの対応と、高速トランザクション処理のニーズは、さらに求められている。
  • 64ビットのIPF(Itanium Processor Family)サーバの展開が、2003年より本格的に始まり、高速サーバの普及が促進されてゆく。
  • IEやExcel、SQL Serverといったデスクトップインフラとデータベースの組合せは、ホストやUNIX、Linuxに比べ、ユーザビリティとコストパフォーマンス、開発性に優れている。また64ビット版OSであるWindows.NET Server 2003のリリース以降、.NET Enterprise Server製品群のリニューアルも予定されており、さらなる拡張性、将来性が期待できる。

 導入実績としても、am/pmやJTB、ファーストリテーリング、カブドットコム証券など、多くの有名企業において、データベースサーバに大規模Windowsサーバを採用している。

 ビジネスとしてもこのような企業はますます元気である。JTBでは、e-コマースサイトの「INFO CREW」における売り上げが、売り上げトップのリアル店舗をついに追い越した。

 株価低迷や手数料引下競争の中、カブドットコム証券では、10万口座を突破し、創業以来初の黒字中間決算となる予定である。ITガバナンスの方針が明確な企業は、リスクマネジメントを意識しながら、経営戦略とIT戦略を融合してゆき、着実に成長しているのである。

[日本ユニシスESビジネス推進部 澤井 俊一,ITmedia]