エンタープライズ:コラム 2002/12/05 19:03:00 更新


Opinion:Itanium 2の性能を引き出すNECのハイエンドサーバ

NECの「Express 5800/1000」。舌がもつれそうなネーミングに首をかしげるのはいいとして、この製品には強力なパワーが込められいる。Itanium 2/1GHz搭載の同サーバが同クラス以上の製品よりも高いパフォーマンスを出している秘密は、NECが独自に設計したチップセットにある。チップセットへの「不当な」過小評価は改めたほうがいい。

 もしあなたがItaniumシステムを待ち続けてきたのだが、1ウェイや2ウェイサーバでは不十分だというのであれば、本格的なマルチプロセッサ製品シリーズをいち早く投入したNECに注目すべきであろう。

 しかし製品の名前には少し首をかしげざるを得ない。「Express 5800/1000」というのは舌がもつれそうだ。この名前からは、Itaniumプロセッサが搭載されていることも分からない。また、この高可用性サーバシリーズの個々の機種名が分からなければ、どのような構成なのか見当がつかないのだ。

 例えば、NECの「1080Rc」は、1000シリーズの8ウェイサーバである。「1160Xc」は16ウェイ、「1320」は32ウェイである。お分かりいただけただろうか? 最初に挙げた機種はラックマウント型であり、あとの2機種はスタンドアロンのキャビネットタイプである。

 命名方式はさておき、これらのサーバには強力なパワーが込められている。NECから提供された資料によると、1GHzの「Itanium 2」プロセッサを搭載したExpress 5800/1320は、「LINKPACK HPC」ベンチマークで101.77GFLOPSというパフォーマンスを達成したとされている。これに対し、1.3GHzの「Power 4」プロセッサを搭載した32ウェイマシン「IBM p690」の性能は95.26GFLOPSである。

 1GHzのシステムが1.3GHzマシンよりも速いのはなぜかって? NECの成功の秘密は、Itaniumプロセッサそのものにあるのではない。インテルから提供されている現行のItanium用チップセットを採用するのではなく、NECは自社でデザインしたチップセットをItanium用に使っているのだ。

 チップセットは不当に低く評価されているコンポーネントである。読者もCPUやメモリ、ディスクのパフォーマンスに関する話には熱心に耳を傾けることだろう。それはそれで構わない。しかし、これらのコンポーネントが互いに連携するように(できれば最も効率よく動作するように)指示するのは、黒子的な存在であるチップセットなのである。

 NECが注力したのもまさにこの部分だという。NECは自社のハイエンドのスーパーコンピュータ用に開発した技術を借用し、Express 5800/1000シリーズの設計目標を達成できるように同社独自のチップセットを開発したのである。

誤解を避けるために付け加えておくと、現時点でItanium 2は、最大の統合キャッシュおよび最も多くのレジスタと実行ユニットを備え、1サイクル当たりの命令数はどんなRISCプロセッサよりも多い。こういった特徴も同プロセッサの性能に寄与している。これらのデータは、インテルのIPFデザインアーキテクチャにも評価すべき点があることを示している。

 このパフォーマンスをどこで活用すればいいのだろうか? 1秒当たりのトランザクション数ではなく、GFLOPSで表されたベンチマーク結果が1つのヒントを与えてくれそうだ。読者は、Express 5800/1000サーバを電子メール/プリント/Webサーバなどに使おうとは思わないだろう。それどころか、恐らくクライアント/サーバシステムで利用したいとも思わないだろう(もちろん、同システムはこの用途にも十分対応できるが)。

 NECの最適化された並列アーキテクチャは、数値処理に秀でている。新薬開発においてモデリング能力の強化を必要としている製薬企業には、このサーバがまさにうってつけだ。構造解析、流体力学、機械設計といった本格的な数値演算処理を必要とする分野も、同サーバの得意分野だ。

 もちろん、次世代のItaniumが登場したら、このシステムはお払い箱にしなければならない――というのは冗談だ。そんなもったいないことをしてはいけない。NECは、平均的なコンシューマー向けデスクトップPCと同等の拡張性をExpress 5800/1000サーバに組み込んだ。次期Itaniumが登場すれば(実際、次の2つの新Itaniumバージョンがいつ現れようとも)、現在装着されているCPUを抜き取り、新しいCPUを差し込むだけでいい。これは、ボードレベルではなくプロセッサレベルの交換手順である。しかも同サーバは、高可用性およびNo Single Point of Failure(システム障害につながる単一障害点が存在しないこと)を実現するようデザインされている。

 では、どのバージョンを購入すればいいのだろうか? それは、あなたがどの程度の数値演算能力を必要としているのか、そしてどのくらいの高速処理を求めているのかによる。

 8ウェイの1080Rcのメモリ帯域幅は「わずか」25.6Gバイト/秒であるのに対し、32ウェイの1320Xcでは102.4Gバイト/秒に達する。I/O帯域幅は、それぞれ12.8Gバイト/秒および51.2Gバイト/秒となっている。最上位モデルは、48基のPCI-X-133スロットおよび64基のPCI-X-66スロットを搭載する。

 では、どんなOSで動作するのだろうか? 当初は、NECが同シリーズ用に最適化したLinuxが搭載される。「Windows .NET Server」もサポートされる予定だが、これについては「利用可能になった時点で」という但し書きが添えられている。これは、2003年内に同OSが登場した後、状況が一段落するまでさらに数カ月ほど待たなければならないことを意味する。

 あなたはすべての点から判断して、NECは模範的な低TCO(総合保有コスト)・高ROI(投資利益)モデルを作ったと考えているかもしれない。その考えは正しいかもしれない。

 マルチプロセッサ型Itaniumサーバの選択肢として、あなたのレーダーはNECをとらえていただろうか?

ビル・オブライエン氏はフリーランスライターで,CNETおよびZDNetへの寄稿も多い。Tech Updateのウイークリーハードウェアコラムも担当する。

[Bill O'Brien,ITmedia]