エンタープライズ:コラム 2002/12/10 00:56:00 更新


Gartner Column:第72回 Utility Datacenterのデモにはちょっとびっくりさせられた

日本HPがUtility Data Centerを発表した。いったん物理的な導入作業を行っておけば、再配線作業を行うことなく、管理コンソールから自由に構成を変更できるというものだ。利用可能なソリューションを他社に先駆けて提供できた点は高く評価してよいだろう。

 12月4日の日本ヒューレット・パッカードのUtility Data Center(UDC)の製品発表会見に出席してきた。比較的地味な発表(失礼)だったのでご存じない方も多いかと思うが、この発表は長期的トレンドに根ざした重要なものであったと言えるだろう。

UDCとは?

 UDCは、大規模サービスプロバイダー向けのWebサービングプラットフォーム製品であり、サーバ、ストレージ、ネットワークそして(Utility Controllerと呼ばれる)管理ソフトウェアを組み合わせた総合ソリューションである。いったん物理的な導入作業を行っておけば、再配線作業を行うことなく、管理コンソールから自由に構成を変更できる。これは、HPの言葉を借りて「プログラマブルデータセンター」と言えば分かりやすいだろう。

 UDCは2001年11月に米国で発表済みの製品なので、その機能については紙上のスペックとしては既に知っていたのであるが、実際のデモはなかなかインパクトのあるものであった。

 あたかもビジュアル開発ツールのように、サーバ、ネットワーク、ストレージをマウス操作により画面上で結び付けていくだけで、データセンターの構成作業が完了してしまうのである。各構成要素の属性の変更をマウスの右クリックで行うところも開発ツール的だ。もちろん、課金や承認などの事務処理のための時間は必要だろうが、まさにオンデマンドでデータセンターの構成作業が終了してしまうわけである。

 このような環境は、VLAN(仮想LAN)、SANとストレージ仮想化テクノロジー、そして、リモートオペレーションという既存の技術を、Utility Controllerというひとつの管理ツールの下で統合することで実現されている。特に革新的な製品やテクノロジーが存在するわけではない。しかし、UDCの思想そのものは、ガートナーが「PBCS」(Policy Based Computing Service)と呼ぶ長期的なメガトレンドに沿うものであり、単なるアイデア商品的な製品と考えるべきではないだろう。

PBCSというメガトレンド

 多様なコンピューティング資源を仮想化し、迅速な割り当て(プロビジョニング)を可能として、同時に自己修復機能や自己最適化機能を提供するという新しい自律型コンピューティングインフラの概念が大きな潮流となっている。

 このような自律型コンピューティングをガートナーはPBCSと総称している。PBCSは今後10年間にわたり段階的に進行していくトレンドであり、これを無視するユーザー企業やサービスプロバイダーは競合上大きな不利益を被ることになるとガートナーはみている。

 既に、HP以外にも、IBMのオートノミック・コンピューティング、サンのN1(第35回参照)、NECのVALUMOなど、主流ベンダーがPBCSの方向性に従ったビジョンを発表している。

 ちょっと勘違いしやすいのだが、UDCはビジョンではなく、現実に購入可能な製品の名称である。HPのPBCSビジョンの名称は(旧コンパックから引き継いだ)アダプティブ・インフラストラクチャである。さらに言うとアダプティブ・インフラストラクチャによって実現される未来のコンピューティング形態を、HPはサービス・セントリック・コンピューティングと呼んでいる。IBMが言うe-ビジネス・オンデマンドがこれに相当し、IBMのオートノミック・コンピューティングはHPのアダプティブ・インフラストラクチャに相当すると考えればいいだろう。

 UDCは、ガートナーが考えるPBCSの構成要素の中のプロビジョニング機能を提供できている段階であり、自己修復機能や自己最適化機能についてはごく一部を実現的できているに過ぎない。

 それでも、現実のビジネスで利用可能なソリューションを他社に先駆けて提供できた点は高く評価してよいだろう。実際、英国のサービスプロバイダーであるMSXインターナショナルをはじめとする幾つかのUDCの顧客事例が現時点で存在するし、今後も事例発表が続くようだ。

 PBCS市場は、オートノミック・コンピューティングに多大な投資を行っていくことを宣言したIBM、そして、「Network is the Computer」の旗頭を再度掲げたサンが中心として進行しているイメージがあり、HPは少し地味な印象があったかもしれない。しかし、具体的な製品の出荷という点で、HPは底力を示したと言えるだろう。

 NECをはじめとする国産ベンダーも含め、今後もPBCSのビジョンに沿った製品発表が各社から続き、これらの製品はサービス提供の迅速化やコスト削減の点で大きなメリットを提供していくだろう。ユーザー企業やサービスプロバイダーは、従来型の固定的なコンピューティングインフラからの飛躍がいずれ必要となることを予期しておくべきだ。

[栗原 潔,ガートナージャパン]