エンタープライズ:インタビュー 2002/12/11 19:02:00 更新


Interview:パッケージはレッドハットとUnitedLinuxの2つが生き残るだろう

ヨーロッパ、北南米、日本のディストリビューター4社が協業して発表された「UnitedLinux」には注目が集まっている。UnitedLinuxの今後の展開について、UnitedLinux, LLC.のゼネラルマネージャであるポーラ・ハンター氏に聞いた

 コネクティバ、SCOグループ、SuSE Linux、ターボリナックスの協業による「UnitedLinux」結成が発表されたのが2002年の5月。それから約半年後の11月19日、COMDEX/Fall 2002において「UnitedLinux V.1.0」が発表された。これを受けて日本では12月20日に「Turbolinux Enterprise Server 8 powered by UnitedLinux」として、UnitedLinux準拠の製品がターボリナックスより発売されることになる。4社の協業により今後のLinux市場はどう変化していくのだろうか。来日中のUnitedLinux, LLC.のゼネラルマネージャであるポーラ・ハンター氏と、UnitedLinuxのBoard of Managerも兼務するターボリナックスの土居史子氏に話を聞いた。

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「4つの時間帯で仕事をするのは大変だ」と語るポーラ・ハンター氏

ZDNet UnitedLinuxはなぜ生まれたのでしょうか

ポーラ Linux事業に参画している企業はソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダーともに数多いうえに、それぞれが競い合っているため、マーケットはとても複雑になっていました。その中でこの4社(コネクティバ、SCOグループ、SuSE Linux、ターボリナックス)が協業して1つの製品を提供することで、よりよいソリューションの提供ができるし、市場からも注目されると考えたからです。

ZDNet なぜこの4社が集まったのでしょう

ポーラ 残念ながら私はその場にいませんでしたからよく分かりませんが、4社はともに有名ですし、これまでいろいろなところで、しのぎあってきたからでしょう。

土居 ターボリナックス内部では、2年前くらいからどこかと協業しないとならないという話は出ていました。ソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダーのほうからは、Linuxディストリビューターの数が多いので、検証作業があまりにも煩雑で対応しきれないという声があがっていたからです。レッドハットを含めて5社のディストリビューションをテストすることはできないが、2社程度ならば何とかなるという話もありました。その中で、現在の4社を見てみれば、たとえばターボリナックスならば日本と中国という2バイト圏での実績がありますし、SuSEならばヨーロッパ、コネクティバならば南米で有数のディストリビューターであるなど、それぞれの地域ごとで強みがあるわけで、集まれば全世界をカバーできるわけです。もちろん過程の中では2社でいいとか3社でいいとか言う話もありましたが、なんとか統一のパッケージを作ろう、というところでまとめてきたのが現状です。

ZDNet ところで、4社それぞれの役割は決まっているのでしょうか。β版を見るとSuSE LinuxがUnitedLinuxの基本になっているようですが。

ポーラ まず申し上げたいのは、β版でなく最終製品で判断してほしい、ということです。2つ目には、UnitedLinuxを発表するに当たって、どのようにすればいち早く製品をリリースできるか、ということを考えたときに、SuSEに開発のリードを取ってもらって、SuSEの環境をベースに開発した方が早いだろう、という判断があったからです。忘れてはいけないのは、金銭面でも技術者の内容でも、4社は同じ立場でUnitedLinuxに関わっていますし、対等に開発を行ってきた、ということです。

土居 フルスクラッチで製品を作っていくことも可能ですが、そうすると2年以上かかってしまいます。そこまで時間がかかってしまうと「そういえばUnitedLinuxってあったよね」(笑)、という結果にもなりかねません。どうしたらいち早く製品化できるのか、が重要だったわけです。それを考えたときに、SuSEの開発環境が適していた、というだけです。

ZDNet UnitedLinuxの競合他社はマイクロソフトですか、それともレッドハットですか。

ポーラ それは両方です。4社とも企業向けのLinux事業ということではそれぞれマーケットシェアがありますので、十分競合していけると思います。

ZDNet しかし、UnitedLinuxはRPMベースのLinuxであることは変わらないですよね。ということは、レッドハットの参画というものは考えられないのでしょうか。

ポーラ 我々はレッドハットと正式に話をしたわけではないので、どうなるかは分かりませんが、レッドハットが参画したいと言ってくればその可能性はあります。もちろん参画するに当たっては、4社で取り決めをした同じ条件に沿って、対等の立場で参画することになるでしょう。それはMandrakeであっても変わりません。

ZDNet UnitedLinuxは直接ユーザーには届かない製品と考えてよいのでしょうか。4社の間でUnitedLinuxの仕様が決まって、各社でそれぞれ、UnitedLinuxに基づいた製品を発表するということですか。

土居 その通りです。コアの部分は4社が話し合って決定しますが、実際の製品は各社からの提供になります。

ZDNet 4社が出されているパッケージの「個性」という部分と、UnitedLinuxの「統一パッケージ」といったバランスについてはどうお考えですか。

ポーラ 4社が合意をして、統一のパッケージを作成することが大事だと考えています。UnitedLinux自体は100%完成されたパッケージです。そこに各社で「アドオンCD」という形でして提供するパッケージもありますが、それはUnitedLinuxに影響を及ぼさないものということが前提になります。

ZDNet UnitedLinuxならではのメリットというのがあまり見えてこない気がするのですが、他社製品よりもどこが優れているのでしょうか。

ポーラ それは大容量のメモリをサポートしていることです。大容量のメモリが利用できると言うことは重要です。企業向けの大規模システムにとっては大きなメリットとなります。また、Linuxはオープンソースですので、数百を超えるパッケージがありますし、それを製品に取り入れていけば似たようなものができあがるのは当然でしょう。ただし、どのパッケージが必要なのか、どのパッケージまでをサポートするかという部分が重要です。私たちの製品は最適なパッケージを集めて提供しています。

 ソフトウェアベンダーやハードウェアベンダーの立場で考えれば、先ほどもあったように、あまりにもLinuxディストリビューションの数が多いので、すべての製品について検証するのは大変です。今後はレッドハットとUnitedLinuxの製品についてのみ動作保証を与える、という流れになっていくのは間違いないでしょう。その中でパッケージの淘汰が起こると考えています。小さいディストリビューターであれば、UnitedLinuxに参画していくというのもひとつの選択になっていくはずです。

ZDNet では、現在の段階で4社以外に参画する予定はあるのでしょうか

ポーラ これまでUnitedLinux V.1.0を発表することに注力していたので、4社以外の企業と話をしている時間がありませんでした。ただし、2003年の前半頃までには、他社の参画も模索していきたいと考えています。

ZDNet サン・マイクロシステムズのように、最近デスクトップでのLinux用途を広げようと模索しているメーカーも多くなってきました。SuSEもターボリナックスも、デスクトップ向けの製品をリリースしています。UnitedLinuxとしてはデスクトップ向けのバージョンは発表しないのでしょうか。

ポーラ デスクトップ向けLinuxの要望が多いことは承知していますが、技術的に検討している段階で、具体的に製品を出すという予定はいまのところありません。

ZDNet 基調講演でもUnitedLinux 2.0が2003年末にリリースすることが発表されましたが、1年ごとにリリースしていくことになるわけですね。

ポーラ 1年ごとのメジャーリリースと、四半期ごとのメンテナンスリリースを発表するということは決定しています。なるべく予想がつくようなスケジュールでリリースしてほしいという要望もありますので、それは変わらないでしょう。

ZDNet 4社をまとめるのは大変でしょうね。

ポーラ UnitedLinuxには400人の技術者やマーケティング担当者が仕事をしていますが、それぞれの会社に属しているので、UnitedLinux専任で仕事をしているのは私だけです。しかもヨーロッパ、アメリカ、南米、日本と4つの時間帯でやりとりをしなければいけません。いつ寝たらいいのか分からないくらいハードです(笑)。



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[聞き手:今藤弘一、木田佳克,ITmedia]