エンタープライズ:ニュース 2002/12/13 17:47:00 更新


NTTデータのPCグリッド、「参加者にお小遣いをアゲタイ」

NTTデータは一般的なパソコンを多数つなぐことで、眠るコンピュータリソースを活用していくPCグリッドを推進しており、これを「cell computing」プロジェクトとして、一般企業に展開していく。

 NTTデータは12月13日、都内で記者発表会を行い、グリッドコンピューティングへの取り組みについての現状を紹介した。同社は、一般的なパソコンを多数つなぐことで、眠るコンピュータリソースを活用していくPCグリッドを推進しており、これを「cell computing」プロジェクトとして、ライフサイエンス分野などよりも市場規模が大きい一般企業に展開していく。

 同社技術開発部バイオインフォマティクスグループcell computingの鑓水訟氏(やりみずしょうじ)プロジェクトリーダーは、NTTデータ研究所の推定データを参照し、PCグリッドは「2002年に13億円の市場規模が、2006年には310億円にまで成長する」と話す。

 グリッドコンピューティングに関しては、IBMが「e-ビジネスオンデマンド」、サン・マイクロシステムズは「N1」、ヒューレット・パッカードは「Utility Data Center」などにより、本格展開への準備を進めている。標準化の動きでは、Global Grid Forum(GGF)が共通アーキテクチャであるGlobusを提案している。

 cell computingは、スーパーコンピュータやハイエンドサーバをつなぐハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)グリッドではなく、一般のパソコンをつないで単純並列処理を行うものだ。HPCグリッドのように、専用のハードウェアやOS、設置環境は必要ない。また、余剰CPUを利用するため、仮想スーパーコンピュータとしての機能を低コストで手に入れられることがメリットになる。

 PCグリッドで有名なのは、米カリフォルニアバークレー校宇宙科学研究所が行っている宇宙人探しプロジェクト「SETI@home」(The Serach for extraterrestrial Intelligence at HOME)。これは、電波望遠鏡で受信したデータから、宇宙人の営みを感じさせる有意信号を検出しようというもの。12月12日現在で、参加しているPCは413万7569台、処理能力は52.54TFlopsに上るという。

 同社は、cell computingプラットフォームを、米ユナイテッドデバイスと協力して行う。ユナイテッドデバイスは、インテルや米国立癌研究財団、全米癌学会、オックスフォード大学とともに癌治療プロジェクト「Cancer Research Program」を推進する、PCグリッド分野でのリーダー企業だ。ちなみにCancer Research Programを運用しているのは12月12日現在で194万7213台、処理能力は65TFlops(100万台時)となっている。癌の原因となるたんぱく質に対して、活動を止める作用のある分子をマッチングさせることで、新しい抗がん剤や白血病治療法を発見することを目的とするプロジェクトだ。

 NTTデータのcell computingプロジェクトは、「イントラネット型」と「インターネット型」の2つに分かれるという。インターネット型は、外部のPCとの連携が前提となり、非常に大規模でダイナミックなシステムを構築できるため、注目度は高いという。しかし、当然自社のコンピューティング処理を外に出すことになり、研究データの漏洩など、セキュリティの問題などがボトルネックになるとしている。

 そのため、当初展開されるのは、企業内などのイントラネットにつながるPCのリソースを有効利用するイントラネット型が先になるという。

 有効なのは、並列(スカラー)型処理を行う遺伝子解析計算やゲノム装薬、オーダーメイド製薬物質探査計算、CGレンダリングなどとなっているため、一般企業としては、製薬会社やゲーム業界がターゲットになるという。

 特に、ゲーム業界に関しては、インターネット型のPCグリッドを展開して、CGレンダリングの処理の様子をPCパワーを提供する参加メンバーに見せることで、ゲーム会社としては何らかのマーケティング的訴求ができるのではないかと鑓水氏は話している。

 しかし、こうした分散環境でERPなどのアプリケーションを処理するには、LANなどの通信環境ではパワーが不足しているために難しいという。今後、10ギガビットイーサネットなどが普及すれば、こうした基幹系システムも技術的にはスムーズに稼働させることができるとしている。

 インターネット型cell computingにおいて、参加メンバーは専用ソフトウェアを自分のパソコンにインストールすることで、余剰CPUパワーを提供することになる。処理対象データはcell computingサーバから送られ、その処理を行うと参加メンバーのPCは結果を自動的にcell computingサーバに返信する。その処理量に応じて、参加者は何らかのポイントを取得し、ポイント数に応じてプレゼントを受け取れるといった運用を同社は想定しているようだ。

 鑓水氏は、「使っていないお父さんのパソコンをPCグリッドで活用して、月々本が1冊買えるくらいのおこづかいを渡せるようになるのが夢」と話している。

関連リンク
▼NTTデータ
▼SETI@home(宇宙人探しプロジェクト)
▼Cancer Research Program
▼ユナイテッドデバイス

[怒賀新也,ITmedia]