エンタープライズ:コラム 2003/01/06 17:44:00 更新


Gartner Column:新春特集 2003年こそガングロやルーズソックスからの脱却を

職業柄、私は毎年のように、今年の、あるいは、来年のIT投資動向はどうなるのかという質問を受ける。競合他社が、どれくらい投資するかを知りたいのだろうか。この際、「横並び意識」はそろそろ卒業することを強くお勧めしたい。これは、ユーザーのみならずベンダーにも当てはまる。

 2003年の幕開けである。年明けに際して、いつもとは少し趣向を違えたコラムにしてほしいという編集者の要望にこたえることにしたい。当コラムの執筆に際しては、日ごろから分かりやすく、かつ親しみやすい文章を心掛けているが、今回は正月ということもあるし、かなり砕けた話をしてみたい。とは言っても、IT投資動向について触れないわけにはいかない。

 各企業のミクロ的視点から見れば、ITはそのままITの投資戦略として置き換えることができる。つまり、各企業のIT投資動向を把握すれば、全国的なITを展望することも可能である。

 また逆に、IT投資も経済情勢の変化をまともに受けることは否めない。その度合いが極限まで高まれば、経済情勢だけでも、かなりITの投資動向は占うことができる。だれに聞くまでもなく、現在の経済は芳しくない。極論すると、このような状況下におけるIT投資の予測は、ほぼ期待どおり(?)のものばかりが並ぶ。

 しかし、これでは話が短く終わってしまうので、敢えて反論しておこう。これは私の持論だが、IT投資にはベクトルが大きく分けて2つ存在する。1つは、売上拡大を志向するもので、他方はコスト削減を志向するものである。言うまでもなく経営環境が厳しいときには、コスト削減に企業は偏る傾向がある。

 コスト削減のプレッシャーが強いのならば、当然IT投資も抑制される、と思われがちだが、実はそうでもない。結果としてコスト削減に繋がるIT投資ならば短期的に増加しても是とする場合が存在する。ITを前提とした全社プロセス改革などが中・長期的なコスト削減に繋がることが、その好例と言えよう。つまり、場合によっては、経済情勢が悪い方が伸びるIT投資もあるということである。従って、2003年のIT投資動向は、決して下降の一途ではない。

 もちろん、瀕死の事態に至っては、IT投資どころではなくなってしまう。そうなる前に手を打つべく企業経営者もコスト削減に余念がないということである。この意味において、経営破たんまで行かない手前の情勢が継続すればするほど、IT投資全体は伸びる可能性がある。

 というのも、日本国内の企業はもともと売り上げ拡大を志向した投資に積極的ではない。経済情勢が悪いと、売り上げを新規に獲得するためのIT投資は抑制されるが、そもそも、そのような投資案件が少ないのだから、こちらは減額率が相対的に小さいということである。

 さて、本題のやや砕けた話をしてみよう。もちろん、ITがらみの話であることは言うまでもないが、ITのアナリストという職業柄、私は毎年のように、今年の、あるいは、来年のIT投資動向はどうなるのかという質問を受ける。

 果たして、企業は、そのような予測を聞いて、どのようなメリットがあるのだろうか。ベンダーサイドとしては、自らが参入する市場の売り上げ予測の一助にしたいと考えているのかもしれない。では、ユーザーはどうだろう。競合他社が、どれくらい投資するかを知りたいのだろうか。

 実際のところ、競合他社の投資動向を知りたいとする企業は圧倒的に多い。ウチは少なめだから増やそうとか、あるいは、逆に多すぎるので減らそうというのだろうか。他社もアウトソーシング始めたから、わが社もそろそろ……というのだろうか。

 正直言って、これはかなり短絡的な発想であり、お勧めできない。この際、「横並び意識」はそろそろ卒業することを強くお勧めしたい。これは、ユーザーのみならずベンダーにも当てはまる。

 横並び意識の極端な例としては、ひところ女子高生の間で流行した顔黒(がんぐろ)、あるいは、ルーズソックスが挙げられる。彼女らは、親との世代比較の中で、個性の主張を試みてはいるが、横の関係では逆の構図が見えてくる。彼女たちの多くは、実は一人きりで行動するよりも、仲間と群れたがる。そして、気づいてみれば、自分の仲間はみんな同じような格好をしているのである。

 日本人は、髪の色が黒で、肌の色も黄色で、みんな似ている。それを没個性的だと嫌う彼女らが、髪を染め、肌の色も変えてみたものの、実は最も影響を与え合う仲間の中では、横並びの同じ格好をしているのである。

 本当に個性を追求したいならば、仲間と群れて同じことをしてみても始まらないのである。もちろん、ファッションは個人の好みの問題だ。しかし、企業戦略を展望する場合、経営者の責任は重い。個人的な好みでは済まないからだ。

 21世紀になって、丸2年が過ぎた。今、日本企業の経営者たちに問いたい。「がんぐろ」を見て「最近の若者は何を考えているのか」と否定的に見る前に、先ず自分たちの企業活動に同じことが言えないかどうか再考してもらいたい。

 ERP、CRM、SCM、アウトソーシング……、どれをとっても企業の戦略は横並びの中からは生まれない。横並びは仮に相手に追いつくことができても、勝つことは難しい。

 自社のIT戦略を決定する上で、他社のIT投資動向を気にする前に、まず、自社が何を狙って何をするのか十分考慮した上で、売り上げ拡大とコスト削減のバランスを最適化したIT投資ポートフォリオを策定することをお勧めしたい。

[黒須 豊,ガートナージャパン]