エンタープライズ:コラム 2003/03/10 16:54:00 更新


Gartner Column:第82回 オラクルのOracle All-In-One施策は顧客リスクの引き受け

北米のエンタープライズアプリケーション市場では、ユーザー企業の多くがシステムへの新規投資に対して相当に慎重になっている。そんな中、オラクルが先ごろ打ち出したOracle All-In-One施策は、顧客のリスクを引き受けることによって、自らの競争力を高めようとするものだった。

 エンタープライズアプリケーションの領域で、トラブル知らずの導入プロジェクトはないだろうし、バグのないソフトウェアというのもまずあり得ないだろう。リスクを全くなくすことに膨大な投資を行うよりは、むしろリスクの存在を認め、それを適切に管理する方法を考えた方が現実的というものである。

 それならば、リスクをどのように捉え、それに対してどのようなポリシーを持って顧客に価値提案をしているのか、ということの方が、製品機能の多寡より、よほどクリティカルな判断ポイントなのではないだろうか? 私は1月下旬にサンディエゴで行われたOracle AppsWorldラリー・エリソンCEOの基調講演を聞きながら、そんなことを考えていた。

 OAWは既に報道もされているし、そこでの発表などは、既に旧聞に属することだと思う。ここで詳細を紹介することはしない。ただ、基調講演を含めた、さまざまな話からうかがえることを強調しておきたい。それは、北米のエンタープライズアプリケーション市場の厳しさであり、ユーザー企業の多くがシステムへの新規投資に対して相当に慎重になっているということだ。

 こうした事情を端的に表現しているのが各プレゼンテーションの中で必ず登場したといっていい「コスト削減」という言葉である。この言葉が底流に流れている以上、胸躍る新製品や新技術のアナウンスを期待する人には退屈な3日間となったに違いない。

 しかし、「コスト削減」という言葉が繰り返されてはいても、決して「安売り宣言」が行われたわけではない。むしろ、厳しい環境であるからこそエンタープライズアプリケーションの長期トレンドを睨んだ上での各種施策と顧客への価値提案が行われていたと思う。

 OAWでアナウンスされたサービス/製品体系の1つに「Oracle All-In-One」がある。詳しくはオラクルのサイトで内容を確認することを勧めるが、基本的には「Oracle Outsourcing Accelerators」「Oracle Business Flow Accelerators」「Oracle Upgrade Accelerators」の各サービスで構成されたもので、OAWでは「コスト削減」という言葉と一緒に説明されていた。

 しかし、実際に提供されているもの、あるいはしようとしているものは、コンフィグレータ(構築費用の見積もり機能)やビジネスシナリオのテンプレート群、そしてこれらをベースに予測可能な形で顧客にサービスを提供するための各種フレームワークだといっていい。

 これらは確かにユーザー企業にコスト削減をもたらすかもしれないが、それだけでオラクルが多額の投資を行うはずがないだろう。やはり、「所有から利用へ」というアプリケーション/コンピュータリソースのユーティリティ化シナリオや、ユーザー企業のリスクを引き受けることによる競争力の強化や囲い込み戦略などが背景にあると見た方が筆者には理解しやすい。

 一般的にリスクの管理は、リスクや不確実性の軽減、リスクの移転と分散、リスクの回避、リスクの予防・防止などの各種施策から構成される。エンタープライズアプリケーションの構築と運用、そしてビジネス上の利益の追求という脈絡で考えてみるならば、コンフィグレータやビジネスプロセスのテンプレート、そして固定費用化は、システム構築技術面、ビジネス面でのリターン、そして財務面でのリスクや不確実性の低減を図るものだ。また、アウトソーシングはリスクの移転と分散を、各種の開発内容はリスクの回避や予防・防止、損害の最小化を目指していると考えることができよう。オラクルの北米市場でのビジネス展開を考えるとかなり準備された戦略であると筆者は思っているが、深読みのし過ぎだろうか?

 われわれにとっての問題は、これまで指摘したような北米での動き、あるいは欧州での動きが日本のユーザー企業にとってどのような意味と影響をもっているのか? という点である。これについては、特定企業の問題に限定しない形で、別の機会に考えてみたい。

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[浅井龍男,ガートナージャパン]