エンタープライズ:ニュース 2003/05/06 23:16:00 更新


マイクロソフトのプラットフォームで自社システムを構築していいのか?

5月15日から開催されるMicrosoft Conference + expo 2003は、同社の企業向けプラットフォームを採用する上で重要な情報収集の機会となる。Windows Server 2003を中心とした同社のプラットフォームについて考える。

 近年、Code RedやNimda、Windowsサーバ+IIS環境のセキュリティホールを突いたウイルスが登場するなど、セキュリティ問題を筆頭に、マイクロソフトのソフトウェアを企業のプラットフォームとして採用することに躊躇する声もある。一方で、マイクロソフトは、「Trust Worthy Computing」を掲げ、ソフトウェアの信頼性の向上を第1目標と位置付け、ユーザーの声に応えようとしている。

 果たして今、マイクロソフトプラットフォームは「買い」なのか? それとも、UNIXやLinuxをベースにした企業システムを導入する方が無難であるのか。不況下でシステム投資をする上では慎重に検討したいところだ。

仕上がりを慎重に待ったWindows Server 2003

 同社が現在最もフォーカスしている製品は、米国で4月24日にリリースされたWindows Server 2003だ。

 ユーザー認証やIPv6への対応、セキュリティを大幅に強化したIIS 6.0、Active Directoryの機能向上など、マイクロソフトが21世紀も成長を維持するために、「虎の子」のように大切に開発を進めてきた製品だ。これは、幾度となくリリース時期を遅らせた慎重さからも見て取れる。

 企業がWindows Server 2003を導入する場合に期待する効果の1つは、コストパフォーマンスの高さと言える。

 例えば、データセンター向けのサーバプラットフォームは、ハードウェアとソフトウェアをメインフレームやUNIXベースのシステムで構築した場合、莫大な投資コストを伴うことはよく知られている。逆に、ベンダーの論理で言えば、利幅の高い「旨味のある事業分野」と言える。ここに少しずつ、Windowsベースのデータセンター向けサーバが採用されつつある。この分野のベンダーは多かれ少なかれ、「マイクロソフトへの脅威」を感じているようだ。

 ハイエンドのミッションクリティカルなサーバプラットフォームに、Windows系のOSを採用する企業はまだ少数派ではあるが、2000年2月にリリースされたWindows 2000 Serverが安定性を評価されたことにより、年々その数を増やしてきた。

性能とコストのかけひき

 ハイエンドサーバ市場で、性能比較をする場合に用いられるTPC-Cベンチマークを見てみる。これまで、企業の実際のシステム構成に近い「ノンクラスタード」(データベースを分割しないシステム)部門では、UNIXとRISCプロセッサを組み合わせたシステムが上位をほぼ独占してきた。

 しかし、4月24日から米国のシアトルで開催されたWindows Server 2003のローンチイベントでは、Windows Server 2003とSQL Server 2000、インテルの64ビットプロセッサであるItanium 2(Madison)を組み合わせたNECのシステムが、性能でついに首位に立った。さらにその直後、そのNECの記録をヒューレット・パッカード(HP)のSuperdomeベースのシステムがすぐに塗り替えて首位を奪取したという発表もあり、勢力図に変化が見え始めている。

 一方、tpmC(このベンチマークテストで用いられる性能を示す数値)あたりのコストでは、首位となったHPのWindowsシステムが9.80USドル。一方で、以前まで性能でトップ、現在は3位となっている富士通のPRIMEPOWER 2000+UNIX系OSのシステムは、28.58ドルとなっており、Windowsによるシステム構成のコストパフォーマンスの高さを示す数字となった。

日々の仕事を効率的に

 マイクロソフトは、このWindows Server 2003の性能とコストの優位性をベースにしながら、複数サーバを効率的に管理するApplication Center 2000や、Exchange Server 2003によるメッセージング環境の構築など、システム基盤環境を強化するためのソフトウェアにも力を入れている。

 そして、システム基盤環境を整備した上で、同社は、企業ユーザーが日常の業務をより効率的に進めることを支援する考えだ。例えば、企業システムが蓄積したさまざまなデータを統合し、最大限に活用する活動を「インフォメーションワーク」と位置付け、いわゆるビジネス・インテリジェンスの分野に乗り出す。

 これは、営業担当者ならば、日々の業務として、顧客についての地域別の特性や製品ごとの売上高、売れ筋製品の特徴などをツールを使って分析し、営業活動の効率化を図る活動だ。「大量の商品を販売するだけが利益獲得手段ではない」を基本的な考え方とすれば、データを分析することで、売れ筋を伸ばし、死に筋を切ることにより、単なるデータが利益の源泉へと生まれ変わるというわけだ。

 中心的なツールはOffice 2003および、ポータルを構築するSharePoint Portal Serverとなる。Excelなど既に使い慣れたインタフェースを利用できることと、製品としての完成度が高まっていることは、企業が利用する上ではプラスに評価される要因となる。

MSCE 2003で判断してみるのも一手

 同社は5月15日から、the Microsoft Conference + expo 2003(MSCE 2003)を開催する。

 ケーススタディのトラックでは、Windows Server 2003を早期導入したニッセン大塚商会の事例が紹介される。

 さらに、マイクロソフトのプラットフォームを使ったシステムを導入して、業務効率を向上させたカブドットコム証券札幌市役所東京三菱銀行伊藤忠食品カネボウ吉田製作所東洋ゴム工業の事例の解説も行われる予定。

 この中で、例えば早期導入企業の大塚商会は、本社ビルの竣工を機に一新したメッセージングを主体とした情報系システムがメイン。既存システムの問題点としてサーバの分散化、他システムとの連携、情報インフラの有効活用などが挙げられており、それに Windows Server 2003 と Exchange 2000 Server、他ツールを絡ませる方法での対応を検討した。そして、技術者の生産性向上に向けて、音声/電子メール/FAXデータをWebブラウザ上に統合するユニファイドメッセージングシステムの導入も決めた。事前に投資効果を確認するため「Microsoft REJ」により定量分析を実施し、ROIは246%、13カ月で投資を回収できるという結果を得たとしている。

 また、通信販売事業の展開で知られるニッセンは、ECサイト、メッセージングシステムを稼動する上で安定性や信頼性、堅牢性の改善と分社化への対応を計るために、NT4.0ドメインから Windows Server 2003 Active Directory への移行を実施している。

 各社は、システムを導入する過程における問題点、業務改善効果など、同社のプラットフォームを直に体験した企業として、ノウハウや、長所および短所を説明する。

 さらに、ケーススタディのトラックでは、マイクロソフト自身が自社システム向けに構築したセキュリティシステムデータセンターの運用管理Exchange Serverを使ったコラボレーションシステムの構築事例も紹介する。

 マイクロソフトがデスクトップ向けWindows中心から、エンタープライズシステムへの注力を表明してから既にしばらくの時間が過ぎ、過去のソリューションと比較して磨きがかかっていることは確かと言える。既に導入を検討している企業ユーザーだけでなく、マイクロソフトのプラットフォームをまだ信じきれないというユーザーにとっても、まとめて情報を収集するいい機会になる。

[怒賀新也,ITmedia]