エンタープライズ:ニュース 2003/05/15 22:27:00 更新

基調講演
阿多社長、新たなプロダクトで「人々の持っている“力”を引き出したい」

2003年、Windows Server 2003、Office 2003、そしてVisual Studio .NET 2003といった主力製品を次々と送り出すマイクロソフト。同社はこれらの製品でITによるビジネスワークを変えようとしている。その展望を阿多社長が語った。

 5月15日、あいにくの雨模様の中、東京国際フォーラムにおいてthe Microsoft Conference+expo 2003が開幕した。マイクロソフトの製品や新技術、コンセプトなどを幅広いユーザーに向けて発信するこのイベントは、東京を皮切りに札幌、広島、福岡、仙台、名古屋、大阪と全国の主要都市で開催される。東京のコンファレンス会場の第一日目は、午前中に12のユーザー事例セッション、そして午後からマイクロソフト代表取締役社長 阿多親市氏による基調講演という変則的な構成で始まった。

 阿多社長による基調講演は、およそ3時間という前代未聞の長さで展開された。これは、その中でWindows Server 2003、Office 2003、そしてVisual Studio .NET 2003といった同社の主力候補製品の紹介がちりばめられたためで、聴衆そしてスピーカである阿多氏ともに体力の要求される長大な内容になった。

 そんな基調講演の中で阿多氏が発信したメッセージは、4つの重要項目の実現に向けて尽力するというもの。4つの重要項目とは、企業システムにおける「生産性」「信頼性」「接続性」「経済性」だ。

阿多親市氏

これからの10年に向けたマイクロソフトのビジョンを説明した阿多社長


 生産性は、かつての個人の生産性が重視された時代ににはじまって、現在はコラボレーションを基本としたグループ単位の生産性がビジネスに求められている要素だ。マイクロソフトは、PCを使っていても効率が上がらないといった問題を改善する新たなワークスタイル、インフォメーション ワークという概念を提案。これは、人と情報とシステムがいつもシームレスにつながり、情報共有やコミュニケーションの効率化を目指すという仕事のスタイルということで、会場ではコラボレーションツールのWindows SharePoint ServicesとOffice 2003によるデモンストレーションが行われた。

 ITインフラにとって欠かせない条件の1つが信頼性だ。ここではWindows Server 2003の連続稼働時間にスポットが当てられ、NT 4.0や2000 Serverとの比較が行われた。年間ダウンタイムで比較すると、NT4.0では14時間だったものが、Windows Server 2003 RC1でわずか1.8時間と、その連続稼働率は約8倍に上昇していると同社はいう。

連続稼働時間の比較

グラフはWindows Server 2003 RC1のものだが、製品版ではさらなる向上が図られるという


 また阿多氏は、昨年のビル・ゲイツ氏のメールによってマイクロソフト製品の開発をストップした話題に触れて、「セキュリティについても最重要項目として製品開発を行っていく」と述べた。その意思表示として掲げたのが、Windows Server 2003の開発時に根幹となったSD3+Communicationsというコンセプトである。

SD3+Communications

Windows Server 2003は3つの“セキュア”を軸に開発が行われた


 Webアプリケーションに代表される接続性の確保では、単に「つながる」だけではなく、アプリケーションプラットフォームとしての条件、つまり性能や安定性が求められる。安定性については、新しいIIS 6.0が備えるメモリリークしたプログラムのプロセスリサイクリングがデモンストレーションされ、堅牢性をアピールした。さらには、マルチクライアントによる接続も次世代のプラットフォームには不可欠な条件だ。Webサービスとさまざまなクライアントを結びつけて利用する。そんな場合に大きな武器となるといって紹介されたのが、同社の開発スイートであるVisual Studio .NET 2003だ。マルチクライアント環境でも開発時間は短縮したい、もちろん既存の開発スキルは有効活用したい、それでいて運用性能の高いアプリを開発したいといった要望に応えるのがこのツールであるという。

 そして4つめの経済性は上記3つのすべての要素に付随すべき条件であるとして、このコンセプトをマイクロソフトは「Do more with less(より少ない投資でより大きな利益を、より少ない人数でより大きな仕事を、などの意味)」と表現している。これは、米国Windows Server 2003の発売時にも使われた言葉だ。企業は管理・運用コストの削減と各種システムの効率的な連携を進めていき、競争力のある戦略的なシステムを実現する。そのためのプロダクトが、Windows Server 2003をはじめとする今年のマイクロソフトの製品群であるというのが阿多氏のメッセージということになる。

 この考え方を推し進めたロードマップとして、マイクロソフトが3月に打ち出したDSI(Dynamic System Initiative)構想がある。昨今のビジネススピードに追随できる企業システム基盤の整備やIT運用管理を簡素化、自動する目的で、ソフトウェアによる自立的なコンピューティング環境を実現するというもので、同様のコンセプトはIBMといった他企業も注目している。今後のエンタープライズ分野では、このDSIは重要なキーワードになっていくと考えられる。

Dynamic System Initiative

Windows Server 2003が備えるADS(Automated Deployment Services)の発展形がこのDynamic System Initiativeになるという


 非常に多くのデモや機能説明が行われ、いささか話題が広がりすぎたかに思えた講演だったが、最後に阿多氏はSARSの流行などに見る不安定な世界状況に触れて、「常に完璧な状況というものはない。会社や個人一人一人が自己の大きな可能性を信じて、その潜在能力を引き出す努力をしたい。そのために、マイクロソフトの技術が利用されればと願っている」と包括するように締めくくった。

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[柿沼雄一郎,ITmedia]