エンタープライズ:コラム 2003/05/20 01:04:00 更新


Gartner Column:第93回 LinuxはWindowsより満足度が上?

日本のサーバ市場全体から見るとまだまだニッチな市場のLinuxだが、最近実施した満足度調査によると、「総合評価」で最も高い評価を得たのは驚くなかれ、Linuxであった。これほど「満足度」の高いLinuxが、普及率としてはいまだに5%を下回っているのはなぜだろうか。

 私は、第84回のコラム(Linux需要の実態は?スキル不足の懸念からユーザーは慎重)に、Linuxが実際の利用者や開発者のスキル不足が主な原因で、ベンダーが意図するほどには普及していないと書いた。

 実際、自治体における全稼動サーバのうち、Linuxサーバの占める台数比率は5%未満であり(2002年10月調査:有効回答数約1200件)、さらに民間企業においてもいまだに5%を突破していないことが分った(2003年3月調査:有効回答数約1000件)。さまざまなメディアでLinuxサーバの導入事例や、ベンダーによる事例報告も目立つようにはなっているが、日本のサーバ市場全体から見るとまだまだニッチな市場のままである。

 第84回のコラムでは、ユーザーがLinux導入を懸念する理由に関するデータを紹介したが、今回は、LinuxのOS製品としての満足度のデータをお見せしよう。

server.jpg

 この図は、サーバOS製品のうち、Linux、Solaris、Windows 2000、そしてWindows NTという4種類について、実際に利用するユーザーからの満足度を聞いた結果である。図の下にある各項目について5段階で評価してもらい、平均値を取ったものだ。

「総合評価」は、サーバOSの選定基準項目(満足度評価の項目と同じ)としての選択率を係数として、加重平均して求めたポイントである。図の中では、サーバOS選定基準として選択率の高い順に、左から項目を並べている。

 結果、対象サーバOSの中で、「総合評価」で最も高い評価を得たのは驚くなかれ、Linuxであった。2番目がSolarisで、次にWindows 2000が続く。評価項目を個別に見ると、「価格」「性能」「要求される(ハードウェア)リソース」、さらに「可用性/安定性」の4つでは最も高いかそれに近い評価を得るという結果になった。

 しかしながら、サーバOS選定基準として重要視される複数の項目で高い評価を取り、総合評価でも最高の評価を取ったLinuxが、普及率としてはいまだに5%を下回っているのはなぜだろうか。

 Linuxにおいては、高い評価を受ける項目がある一方で、「他システムとの接続性」や「パッケージアプリケーション(の種類)」「アプリケーション開発ツール(の豊富さ)」、または「操作性」や「運用管理」など、実際の業務で運用するのに極めて重要だと考えられる項目では最低の評価(あるいはそれに近い評価)となってしまった。一方で、これらの5つの項目で最も高い評価を得たのはWindows 2000だ。

 実際のシェアの差はこの5つの評価項目が最も強く影響しているといってもいいだろう。2003年3月の調査では、全稼動サーバの中で、Windows(2000とNT)サーバが占める比率は75%を超えた。

 さらにもう1つ、ここで考えなければいけないのは、このようなアンケート調査で得られる「満足度」というのはどのような意味を持つかということである。満足度というのは、利用者による、(利用する前の)期待値、ブランドイメージ、用途、経験値など、複合的な項目から構成される。従って、必ずしも実際の性能や耐故障率などの数値そのものを表現するものではないということだ。

 Linuxの用途というのは、8割以上がWebサーバやメールサーバなど簡易な用途であり、業務系アプリケーションで利用されるのは数パーセントしかない(2002年8月調査)。規模も比較的小規模だ。このような用途を考えると、Linuxが「可用性/安定性」や「性能」で高い評価を得るのも当然だろう。

 さらに、期待値が満足度評価に影響するというのは、2001年8月に行った同様の調査からも明らかである。ここでは、Windows 2000が、ほとんどの評価項目でWindows NTよりも劣っているという結果となった。これは、マイクロソフトの過剰な広告により、2000がNTより遥かに「可用性/安定性」や「性能」で上回るという期待感があったからにほかならない。Linuxにおいては、Windowsと逆で、安価な、あるいは無償のOSに対する比較的低かった期待値が、今回の満足度ポイントを押し上げていると推定している。

 このように、ただ満足度評価が高いということが、その製品そのものの評価と同義ではなく、ましてや需要にそのまま影響するものではない。従って、Linuxについても、この満足度評価が、そのまま普及に結びつくわけでないことに注意する必要があるだろう。

 ただ、満足度で高い評価を得ることに意味がないということではなく、少なくともWebサーバやメールサーバ用途では、Linuxは期待値以上の高い評価を得ていることは証明された。

 実際に、2003年3月時点で、利用中の全サーバのうち、台数ベースで50%以上がLinuxサーバで占めている企業は2%弱で、さらに10%以上がLinuxサーバである企業は16%あることも分っている。すなわち、Linuxサーバへの置き換えが、かなり進んでいる企業も存在しているということだ。

 Linuxの需要については、まだまだ紆余曲折があるだろうが、利用者側のスキルの問題と、製品としての業務における運用上の課題を解決することで、普及率がしだいに高まる可能性は十分あると言っていいだろう。

関連記事
▼Gartner Column:第84回 Linux需要の実体は? スキル不足への懸念からユーザーは慎重

[片山博之,ガートナージャパン]