エンタープライズ:ニュース 2003/05/22 03:45:00 更新


政府が捉えるLinuxへの取り組み、LinuxWorld Expoで経済産業省・久米氏が語る

LinuxWorld Expo/Tokyo 2003開催初日の21日には、経済産業省・久米氏が語るLinux、そしてオープンソースの捉え方についての特別基調講演が行われた。同氏からは、「プロセスとして継続されるのがオープンソースの特徴だ」、と印象的なコメントが聞かれた

 5月21〜23日の3日間、東京ビッグサイトで国内最大規模のLinuxカンファレンス「LinuxWorld Expo/Tokyo 2003」が開催されている。21日午前に開催された基調講演では、「オープンソースソフトウェアの課題と今後への期待」と題され、経済産業省、商務情報局情報処理振興課・課長補佐、久米 孝 氏の講演が行われた。

 講演内では、経済産業省を中心とした政府におけるLinuxへの取り組み、そして密接な関係の「オープンソース」とライセンス形態「GPL」に対しての見解が語られた。

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 冒頭、久米氏の一声は、「経済産業省、そして政府としてはオープンソースへ多大な期待を寄せている」とのコメント。オープンソースは、ライセンスをどのように考えるかが重要であり、プロセスそのものの理解だと強調する。現状でLinuxが採用される理由としては、「TCO削減という観点は少なく、CPUごとのライセンス問題がポイントとされている」と分析された。

不特定多数で管理されるソースコードの信頼性

 安全性・信頼性という観点からは、オープンソースだからといいセキュリティが保証されるわけではなく、Linuxでは経験と実証的で培われている。これには、安全性などを実証するシステマチックな手段が確立されていないからだとコメントされた。

 久米氏が周りから聞かれるオープンソースへの論点として多いのは、「他人が多数関与するソースコードであるため、万が一バックドアなどが仕掛けられている心配がある」といった見解だという。しかし、「ソースコードを、ある一社が握るのか、またはコミュニティにおける不特定多数が握るかの違いでしかない。コミュニティでは不特定多数が常に監視を行っていることから、前者よりもメリットが大きいのではないか」と強調する。

 オープンソースの持ち味としては「コピーフリー」や「ソースコード改変が可能」という観点もあるが、このような理由から導入する事例は少ないとも見解を重ねる。事実、この恩恵を受けられるのは一定の技術力を持つユーザーであり、一般ユーザーにとってはそれほど関係がない。

 ライセンスに関して顕著な影響があるのは、「組み込み」分野だと付け加えられた。情報家電を始めとする取り組みについては、「日本にとって、今後は重要視しなければならない領域だろう」と強調する。

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 情報家電におけるOSライセンスでは、製造業へも影響が大きく、常に安価で安定性などに優れたものが要求される。このようなことから、Linux(オープンソース)を採用することは理にかなっている展開という。

ソフトウェア産業への影響はメリットに比べると少ないはず

 オープンソースがソフトウェア産業に与える影響も考慮しなければならない。久米氏は、「オープンソースとGPLの関係を明確にし、企業における取り組みではライセンス違反に注意し、オープンソースを基盤とした完成度の高いサービスを提供したい」とコメントする。

 さらに、「マイクロソフトの見解では、GPLが健全なソフトウェア産業の発展を阻害するかもしれないというが、Windows CEが組み込みを意識しているのは事実であり、表明されたのは記憶に新しいところ」。同社も無視できないほど昨今のビジネスモデルは変化しつつあるわけだ。

 オープンソースと同列には語り尽くせないライセンス「GPL」は、一種特殊な形態であるため、このままで幅広く流通するようでは影響が懸念される。しかし、ユーザー層へと幅広く行き渡ることは想像しにくい。よりサービス形態を意識したものでなければ受け入れられないだろう、と久米氏は語る。

今後はビジネスモデルの変化に則した展開が要求される

 アプリケーション開発という観点からは、オープンソースを基盤として完成度の高いものを目指し、サービスを提供するというビジネスモデルが今後スタンダードとなるだろう、と強調する。

 また、「新規参入者への敷居が下がるのも大きなポイントだ」という。技術者予備軍に対してもメリットがあり、長い目で見ると産業発展に大きく貢献されると考えられるからだ。コンピュータ界の歴史を振り返ってみても、初期はハードウェア先行市場であったわけであり、当時はソフトウェア分野がわずか10%程度のシェアでしかなかった。このような背景からも、Linuxが時代を牽引していくにふさわしい存在とし、歴史的に正しい流れだと語られた。

日本発オープンソースの少なさが大きな問題点

 今後の問題点として考えたいなければならないのは、オープンソースの分野で日本発のソフトウェアが少ない点だという。政府が支援していく試みとしては、現在もIPAを通して行われている。しかし、これまでのものは1年間の完結型であったため、「オープンソースでポイントとされるプロセスとしてダイナミックに継続されていく」という点には則されていない。今年度は、10億円の予算で約80件の応募を受けているが、今後は、どのように行えば前述のように継続、そして将来の技術者養成に貢献できるかをポイントとしていきたいという。

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 さらに深刻なのは、OSと同じくオープンソース界においても海外に依存している点であり、日本で開発方針でリーダーシップを取れるケースが極めて少ないことだ。比較的国内からの働きかけの多いFreeBSDにおいても、わずか12%程度に止まっている。日本での方針が、即、直接のソースコードに加えられる決定権が持たれていない。

 久米氏による調べでは、日本発のオープンソースはわずか42件。これは非常に少ない件数だ。そもそもオープンソースプログラマの多くには理系学生が多いという背景もあり、国内においては授業にも取り入れられていない点も問題視された。それ以上に、マイクロソフトが長年行っているような、企業エンジニア育成のためのデベロッパー向けトレーニングセミナーが少ない点も影響しているはずだ。

 経済産業省では、今後の取り組みについてデスクトップ(クライアント)利用もクローズアップされている。今後約2年でクライアント1000台へ導入するプロジェクトが進行中であり、さまざまな問題点はすべて記録されていくという。さらに、予想されているものとして重要なのは、ユーザーの期待値を適当なレベルまで下げることだという。インターネット中心の利用方法であれば、使用するソフトは枯れたものが多いはずだ。今後、企業内導入での参考になるよう試みとして推進されている。

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政府内導入事例の少なさにも情報量が影響

 政府におけるLinux導入事例の少なさにも触れられた。現状は、強引に義務づけることはできず、民間でも優良だと判断されなければ破綻するだろうと考えられている。

 政府の見解としては、正攻法で進めるのが大切だと語られ、安価で良い物がこれに該当するという。取り組みの1つとしては、CIOによる会議が定期的に行われており、民間を代表するCIOからもノウハウが蓄積されている段階だという。そして、企業と同じく現在はまだ情報不足な点が最大の理由だと語られた。

 この点は、昨今ベンダーの多くがLinuxへのコミットを表明していることからも、中期的に解決していく問題だという。

関連リンク
▼経済産業省

[木田佳克,ITmedia]