エンタープライズ:ニュース 2003/06/02 22:43:00 更新


リスクマネジメントとしての電源対策――電力供給不足に備えて

今年夏、早ければ6月下旬にも、関東地域で電力供給が不足する事態が起きると予測されている。企業を支えるITインフラにはどういった影響があるだろうか?

 東京電力の原子力発電所の停止により、今年夏、早ければ6月下旬にも、関東地域で電力供給が不足する事態が起きると予測されている。これを前に無停電電源装置(UPS)を提供するエーピーシー・ジャパン(APC Japan)は、「電力不足とITシステムに関するQ&A集」をWebサイトで公開し、電源対策の必要性を呼びかけている。

「ITインフラを稼動させるのに必要なのが、電源を含む物理的インフラだ。これがなければいくらRAIDだ、ミラーリングだといっても、システムは動かない」と、同社マーケティング本部、PRコーディネータの山下泉氏は指摘する。ITは企業活動に不可欠なインフラだ、と表現されることは多いが、そのIT自身を支える根本が電源というわけだ。

 最近では、ビジネス継続という観点からリスクを洗い出し、SANやリモートバックアップといったストレージ関連の対策を取る企業が現れている。電源を含む物理的インフラについても、同様にリスクおよびコストを測定し、必要な対策を取るべきだというのが同社の見方だ。

 セキュリティという観点からも、ITシステムや情報、人のセキュリティのみならず、ファシリティを含んだ対策が必要だという。「たとえどれほどきちんとウイルス対策などを行ったとしても、電源が“単一の障害点”になり、システムが停止してしまうこともある。しかし、こうした観点は意外と認識されていないようだ」(山下氏)。

 ここまで電源管理の重要性を強調するのも、対象が精密なIT機器だからだ。山下氏によると、サーバをはじめとするIT機器は、一般的な家電とは異なり、サージやブラウンアウトといった電圧の寡少や瞬間的な停電(瞬停)によっても影響を受ける。一定圧の電源が安定的に供給されないために、OSのフリーズやロックが起きることも珍しくはない。

 そして、「今年の夏は、全般的に電力が“薄い”状態となり、ブラウンアウトなどが頻繁に起きる可能性もある」(山下氏)。これが何を意味するかはお分かりだろう。たとえ大規模な停電までは起こらなくとも、電圧低下などによってサーバの停止やフリーズが起きかねないというわけだ。

意外なところに潜むリスク

 そこでAPC Japanでは、対策の1つとしてUPSの導入を提唱している。

 といっても、「ミッションクリティカルなサーバであれば、ほぼ100%の割合でUPSが導入されている」(山下氏)。また、サーバが大量に運用されているデータセンターなどでも、もともとジェネレータ(発電機)とUPSがセットで組み込まれていることが多い。そもそもジェネレータともなれば、導入までに半年単位の期間を要するため、いまさらあせって検討しても間に合わないのだ。

 山下氏によると、問題はそれ以外の部分にある。

 1つは、社内基幹ネットワークを担うルータやスイッチといった機器だ。VoIP(IP電話)を導入している場合は、特に注意が必要だという。従来型のPBXは電源を内蔵している場合が多かったのに対し、IP-PBXやVoIPはそうでないケースが多い。停電のような非常の際にこそ、電話というインフラが威力を発揮するのだが、VoIPでは停電や瞬停にともない電話が使えなくなってしまう可能性がある。そうしたケースを想定するならば、ネットワーク機器やIPテレフォニー関連機器の電源対策にも気を配るべきという。

 もう1つは、中堅・中小規模企業やSOHOで運用されているサーバである。中規模以下の企業の場合、とにかくサーバ本体は導入したものの、UPSを含む周辺機器まで気が回らないケースが非常に多いということだ。ここでも、停止した時の影響を考えに入れて、UPSの導入を検討してほしいと山下氏はいう。

 また、既にUPSを導入済みという場合でも注意が必要だ。こうした機器は、いったん導入された後はあまり注意が払われないものだ。このため、実際にはバッテリーが消耗し、役に立たない状態になっているUPSが存在する可能性もある。山下氏はそうしたケースに備え、ソフトウェア管理ツールの併用が望ましいとしている。リモートでUPSの状態を監視することで、せっかくのUPSに対する投資を無駄にすることなく、効果的に運用できるというわけだ。

事前のシミュレーションと対処のまとめを

 とはいえ、UPSの導入だけで電力供給不足に対応できるわけではない。ITシステムはともかく、空調や照明ともなれば、入居しているビルの管理者とともに対策を検討しておく必要がある。

 また、ここまでさんざん危機感を煽り立てておきながら言うのもおかしいが、サーバの停止やフリーズといった事態が起きるのは、あくまで「可能性」に過ぎない。その可能性を重く受け止めて対策を取るか、他の手段で回避するか、あるいは無視するかは、自社の考え方や業務におけるITインフラの役割しだいだ。

 いずれにせよまず取り組むべきは、どのサーバ、どのサービスを保護すべきかという優先順位付けとリスクアセスメントだろう。それを踏まえたうえで、さまざまなケースを想定し、シミュレーションを行い、対処策を事前にまとめておくべきだ。場合によっては少々のダウンタイムは大目に見て、バックアップ/リストアでカバーするという運用も考えられる。また、データセンターやホスティング事業者などに機器をアウトソースしている場合は、事業者側での対策が期待できるが、停電、瞬停などが起きた際の連絡体制や対処について事前に確認しておくほうが望ましい。

 もちろん、これを機に無駄なサーバや隠れサーバを洗い出し、省電力と省エネルギーに励むのも1つの手だ。

 また蛇足になるが、東京電力には、現在どの程度電力が供給できているのか、直近の見通しはどうかといった情報を、極力速やかに提供する体制作りを期待したい。適切な情報の入手なしにリスクは管理できないからだ。

関連リンク
▼エーピーシー・ジャパン

[高橋睦美,ITmedia]