エンタープライズ:ニュース 2003/08/20 21:44:00 更新


ウイルス感染者に対して下される“社会的制裁”

本当に怖いのは、ウイルスそれ自体ではなく、ウイルス感染者に向けられる“世間の目”かもしれない――。M氏は最近、こう考えるようになった。

 本当に怖いのは、ウイルスそれ自体ではなく、ウイルス感染者に向けられる“世間の目”かもしれない――。

 IT関連企業に勤めるM氏(27才)は最近、こんな感慨を抱くようになった。彼にこの考えを抱かせたのは、ほかでもない、現在感染が取りざたされているワーム、「Blaster」(WORM_MSBLAST)だ。

 M氏がBlasterに感染したことが発覚したのは、8月19日のことだった。同氏はその前の週、夏季休暇をとっていたが、自宅で利用するプロバイダは135番ポートを閉じるなどの処置をとっていた。このため、同氏の仕事用ノートPCは、感染を免れていた。

 だが、いく人かのBlaster犠牲者がそうであるように、M氏が感染したのは休み明け、企業内ネットワークに接続したのとほぼ同時だった(記事参照)。「MS03-026」のセキュリティホールを残したままの同氏のPCは、いうまでもなく、容易にBlasterに感染した。

 もっとも、当初はM氏のノートPCに、一見して問題はないようだった。既報のとおり、Blasterに感染したPCはRPC(Remote Procedure Call)サービスが異常終了するため、Windowsの再起動を求められる。だが、クライアントPCによってはこうした症状が顕在化せず、ワームの存在に気付かずにいるケースもあるようだ。

 だが、当然ながら“感染発覚”のときは、やってきた。

 その瞬間を、彼はこう回想する。

 「周り中の視線が、僕の席にふりそそがれていた。みんなは僕のPCを、まるで放射能を撒き散らす核物質のような目で見ていた」。

 それからというもの、周囲のM氏に対する反応は目に見えて変わってきた。まず、M氏が同僚の席に近づくと「うわ、寄るな、ウイルスがうつる!」という、こうした場合の常套手段ともいえるセリフが飛んできた。

 無論、こうしたからかいは本気になって対応すべきものではなかったし、また、自らのセキュリティ管理の甘さを思えば、そのような反応も受けいれるべきだと思った。

 しかし、そうはいっても職場の上司(40代)が、自らのPCをにらみながら「……僕のPCの調子が悪いのも、君のウイルスのせいじゃないかね!」と疑いの目を差し向けるのには、正直いって閉口した。その上司のPCは旧式の低スペックマシンで、ウイルスに感染せずともレスポンスが悪いような代物だった。

 M氏は、なかばあきらめにも似た心境で、上司の猜疑心と恐怖のいりまじった顔を見つめながら、「上司、それは、『想像感染』というやつですよ……!」と、のどまででかかったセリフを、ぐっとのみこんだ。

 またM氏はこの件で、新しい発見をした。それは、ひょっとするとウイルスの感染速度より、人の噂の伝達速度の方がいくらか早いかもしれない……と、いうことだ。

 Blasterに関していえば、ウイルスの感染は“過去最速で”広まった。ほかの有名ウイルスの時と比べると、たとえば「NIMDA」の時でさえ初日の被害報告数は約100件だったし、「Badtrans.b」や「CODERED」の時でも、それよりずっと少ない数字だった。しかし、Blasterは初日の被害数が、200件に上った(数字はいずれも、トレンドマイクロの報告より引用)。

 だが、M氏の周りで噂が感染した速度は、これを上回る勢いを見せた。実際のところ、夏期休暇明けで初めて会った違う部署の先輩が、開口一番「だめだよ、感染なんかしちゃ!」といったときには、寒気すらおぼえたものだ。

 もっとも、こうした全ての出来事に、M氏は依然として耐えることができた。――職場の同僚で、たまにIMで会話を交わす女性が、“あのセリフ”を口にするまでは。

 M氏はこの話になると、記者の視線を手でさえぎるようにしながら、心を整理するように話した。「彼女は、ゆっくりと、抑揚のない声でこう言ったんです。『……これからは、私にIMで話しかけるのをやめてくれる? もしも、IM経由でウイルスに感染したら、いけないから』」。


 M氏に限らず、ウイルス感染はPCの大事なデータ・機能だけでなく、所有者の築き上げた“周囲からの信頼”をも失墜させる。

 さらにいえば、1人の感染者が出たことで、所属する企業の信頼をも失墜させることもありうるだろう。たとえば、ワーム型ウイルス「Slammer」にMicrosoft自らが感染してしまった時、世間の風当たりは強いものがあった。

 現状、トレンドマイクロの元に寄せられた感染報告件数は、1351件。被害は収束に向かっているが、新たな亜種(記事参照)の被害も122件確認されるなど、依然として注意を要する状態は続いている。ちなみにM氏はこの件依頼、以前は面倒に思っていたWindows Updateでの更新を異常なまでに行うよう心がけるようになった――と、いうことだ。

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[新崎幸夫,ITmedia]



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