エンタープライズ:ニュース 2003/09/05 19:44:00 更新


OracleWorldでベールを脱ぐOracle 10g、真のクラスタから「グリッド」へ進化

いよいよ「Oracle 10g」がベールを脱ぐ──インフラ構築と運用にかかるコストを劇的に引き下げたいOracleは、10gという「パッケージ」ソフトウェアによって真のグリッドへと大きく踏み出そうとしている。システムの複雑化と運用保守コストの増大という企業が抱えるデータセンターの悪循環をOracle 10gは断ち切れるのか。

 いよいよ「Oracle 10g」がベールを脱ぐ。

 1990年代の終わり、インターネットコンピューティングの隆盛を読んだOracleの総帥、ラリー・エリソンCEOは、自社のフラグシップ製品に「i」(スモールアイ)を冠した。Javaに代表されるインターネット標準を100%サポートする意味がそこには込められていた。

 しかし、「i」が流行したインターネットバブルはとうに消失している。依然として厳しい経済環境が続く中、企業はITに対する投資を例外なく見直している。1990年代終わりの過剰投資によって、さらに複雑に膨れ上がった企業のITシステムは、その運用や保守のためにIT予算の大半を食いつぶしてしまう。これでは革新的なIT技術に対する投資がいっそう細ってしまう。

 こうした悪循環を断ち切り、ITが次なるステージに進むために欠かせないのが、既存のコンピュータ資源の最大活用と運用管理の簡素化だろう。グリッドやオートノミックの技術やそれに支えられて実現されるだろうユーティリティーコンピューティングの構想をIBM、Hewlett-Packard、Sun Microsystemsらが相次いで掲げ、データセンターの効率的な運用手段を顧客らに提案し始めたのもそのためだ。

 データセンターのソフトウェアインフラを担うOracleも、こうした大合唱の仲間に加わるべく、Oracle 10gを「OracleWorld 2003 San Francisco」で発表する。「g」はズバリ「grid」の頭文字と考えるのが自然だ。

「パッケージ」製品でグリッド

 「i」から「g」への変更は、方向性の転換を意味するのか、あるいはさらなる進化を意味するのか……。それを探るためにも、先ずはOracle9iで実現された真のクラスタ機能、Oracle9i Real Application Clusters(RAC)を改めて考えてみよう。

 Oracle9i RACは、その起源が旧ディジタルイクイップメントのVAX Clusterにある。ミニコンで一時代を築いたVAXのクラスタソフトウェアを下敷きに拡張性と可用性を追求したのがRACだ。

 HP、Sun、IBMといったUNIXサーバベンダーは、Oracleからベースとなるクラスタソフトウェアの提供を受け、自社のハードウェアに依存する部分を開発し、クラスタソリューションを競って提供している。サーバを追加すれば、それだけ性能も可用性も高まる。しかも、アプリケーションに手を加える必要もない。Oracleは「真のクラスタ」と主張する。

 業界標準のIAサーバの場合はどうだろう。確かにDellのようなリーディングベンダーはあるものの、Linuxを利用したローコストなソリューションを追求したいOracleは自社でIAサーバ向けのクラスタソフトウェアを提供することに決めた。

 UNIXサーバベンダーらの高価なクラスタソリューションではなく、「パッケージ製品」のソフトウェアをLinuxが稼動する安価なIAサーバで走らせ、さらにパワーが欲しくなれば、台数を追加すればいい。その意味では、Oracle9i RACは既にコンピューティンググリッドは実現していたといえる。

 日本オラクルによれば、Oracle 10gでは「Automated Storage Management」を提供することによって、組み合わせ可能なコモディティ装置の範囲をストレージまで拡大するという。これによって、比較的安価なNAS(Network Attached Storage)製品でも、稼動中に必要に応じてディスクを追加することができるようになるはずだ。ハイエンドのUNIXサーバと高価なストレージ製品でなければ難しかったことが、コモディティ製品で実現できるようになるのだ。

 Oracle 10gを利用することで、企業はコモディティ化が進む業界標準のハードウェアリソースを必要に応じて購入し、そのリソースも各アプリケーションのピークに合わせて動的に再配分できるようになる。しかも、将来はUNIX、Linux、Windowsが混在するヘテロジニアスな環境においてもデータベースグリッドを構築できるようになるという。インフラ構築と運用にかかるコストを劇的に引き下げたいOracleは、10gによってパッケージソフトウェアによる真のグリッドへと大きく踏み出そうとしているのだ。

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[浅井英二,ITmedia]