エンタープライズ:コラム 2003/09/23 14:33:00 更新


Gartner Column:第111回 やはりクオリティを中心に回る日本企業

品質管理は日本の製造業のお家芸だと言われてきた。一時は、過剰品質などと言われてコスト高の元凶と目されもしたが、やはり日本企業は品質とその拡大概念としてのクオリティといったところで競争力を維持しようとしている。

 語られ尽くしてきた事柄であるが、「品質」が日本の製造業の競争力の根源を形作ってきたと言えるようだ。「品質」に対する投資は、資源の利用率の向上を通じて原単価の低減を実現し、製造プロセス上の手戻りを減少させることで高い生産性をもたらし、販売店や最終顧客にとっては高い信頼性により管理やメンテナンスの手間を低減させてきた。つまり、品質への投資は内部外部の無駄なコストを徹底的に排除することに貢献することで作り手と使い手の双方に利益をもたらした。

 このように「スペックのとおり」を約束することでMade in Japanブランドは高い市場評価を築き上げてきたといわれているし、そういった品質を「造り込む」ために生産管理技法や組織形態を磨き上げてきたのが日本の製造業だと自画像を描く人もいるだろう。

 しかし、さすがにいつまでも同じ顔で通用するわけはなく、1990年代には迷いの多い10年を経験することになるのだが、その迷いを突き抜けるためのキーワードの一つとしてユーザー企業の一部から「品質/クオリティ」という言葉が聞こえ始めている。ただ、その内容は、再評価し始めた企業の戦略や性格の差を反映して微妙に異なる二つの方向性の下で語られているようだ。

 一つは「スペックのとおり」の延長線上にある、品質のさらなる追及である。そこでは、完成品、半完成品、モジュール、パーツの各段階で、品質の管理が行われることは当然として、それらを組み合わせたときの品質への影響を管理するための手法が検討され始めている。

 具体的なイメージとしては、完成品に問題が生じた場合、その原因となったパーツやモジュールを特定できるようになり、返品対象ロットを最小化することなどを挙げることができる。

 これにより回収に必要なコストが大幅に減らすことが可能となるわけだ。このようなシステムは、将来的にクオリティ・チェーン・マネジメントと呼ぶようなものに発展する可能性もある。ただし、ボトムラインで行われることは牛の来歴管理を行っているようなもので、精緻で大規模なITシステムになるものの、古典的問題の範囲にあると言ってもいいだろう。

 もう一つは、「品質を造り込む」ことの延長線上にあり、企業が提供する価値のサービス化の進展に対応したものだ。これまでも日本の製造業は、「品質を造り込む」ために、生産ラインを分割して管理するとか、セル生産方式を開発し導入するといった努力を行ってきていた。しかし、これらがモノを作るという範囲に留まっていたと言わざるを得ないだろう。

 企業が提供する価値の中身が、モノだけではなくアフターサービスや使われ方などを含めたサービスが含まれるようになってきている現在、「品質を造り込む」ためには、商品のデザインに従来以上に広範な部門の人たちを巻き込んでいく必要があるだろうし、そういった人たちから出てくるいろいろなアイデアをある文脈の下で選択し総合化することが求められている。

 企業が提供する価値=商品がこのように変化するにつれ、その品質は使われる場の文脈とか使い手の文脈にそって評価されるという側面が大きくなってくるはずだ(例えば、ユニバーサルデザインなどは、こういった世界に近いのかもしれない)。

 「品質を造り込む」ために必要なことは、例えば、BOMを中心とする組織内部の問題に加えて、品質とかクオリティとかという言葉で媒介される作り手と使い手の対話を豊かにすることも求められているのではないだろうか。

 「品質」に関するこの二つの視点は排他的な関係にはない。むしろ、前者が成立した上で後者が成立し得る関係だと考えるべきだろう。情報システム的にもこの事情は反映する。このコラムの用語を使えば、CIOや情報システム部門は、クオリティ・チェーン・マネジメント・システムの構想をまず検討してみるべきだと言える。

 そしてそのとき、システムが持つべき基本的属性として、デザインからアフターマーケットの管理まで製品と顧客のライフサイクル全般に渡るクオリティマネジメントの基盤を形成するものだということが意識されていれば、「品質を造り込む」ための基盤サービスを提供するシステムとして大きく誤ることはないだろう。

 ここで紹介したことは、最近、ユーザー企業の方々と意見を交換する中で、多く登場する主題の一つだ。相手はCIOと呼ばれる人であったり経営企画の人であったりするが、議論としてはまだ十分に練りきれておらず、試行錯誤的にさまざまな取り組みが始まった段階だという印象を持っている。もし、興味を持たれている読者がいれば、意見を交換する機会なども持てるかと考え、このコラムの主題としてみた。

[浅井龍男,ガートナージャパン]