エンタープライズ:インタビュー 2003/10/23 22:14:00 更新


Interview:ミドルウェアに照準を合わせるIBMのミルズ氏

136億ドル規模に達するIBMのソフトウェアビジネスの、実に8割を稼ぎ出しているのがミドルウェアだ。同社の上級副社長兼グループエグゼクティブ、スティーブ・ミルズ氏に、IBMのソフトウェア戦略について話を聞いた。(IDG)

 IBMの上級副社長兼グループエグゼクティブ、スティーブ・ミルズ氏は、同社の年商136億ドルのソフトウェアビジネスを統括する。そのうちの110億ドルを稼ぎ出しているのがミドルウェアだ。Computerworldの編集部のスタッフは、IBMのソフトウェア戦略についてミルズ氏に話を聞いた。本インタビューは2部構成となっており、今回はそのパート1を掲載する。

――IBMのソフトウェア事業への投資でミドルウェアの占める比率が極めて高いのはなぜですか。

ミルズ ミドルウェアは儲かるビジネスだからです。われわれは株主を満足させなければならないのです。ミドルウェアは顧客にとって重要なソフトウェアです。トランザクション、データ管理、開発ツール、システム管理、セキュリティ、コラボレーションといった機能を顧客は必要としているのです。

 メインフレームではMVS、iSeriesプラットフォーム用にはOS/400への投資を続けるつもりです。これらはハードウェアプラットフォームをサポートするための投資です。OSは重要なのです。しかし当社の投資の大半はミドルウェアに向けられています。ミドルウェアは成長の原動力です。

――レガシーシステムからユーザーを移行させるのではなく、これらのシステムを存続させるためにミドルウェアを利用しているのですか

ミルズ その答えはイエスでもあり、ノーでもあります。レガシーシステムをいつかリプレースするのかと聞かれれば、「いずれそうするつもりだ」というのがその答えです。どんな企業にとっても、既存のシステムを入れ替えるにはどれくらいコストがかかるのか、そしてその必要性はあるのか、ということが問題になります。レガシーを維持する必要はあります。この文脈においては、レガシーというのは悪い言葉ではありません。それは1つの現実なのです。

――Hewlett-Packard(HP)は、プロプライエタリなe3000からユーザーを移行させようとしています。IBMはどの時点でiSeries(旧AS/400)のユーザーに移行を促すつもりですか。

ミルズ 恐らく私が生きている間は、そのようなことはないでしょう。その質問は、「メインフレームは恐竜である」、つまり古いものは良くないという考え方に基づくものです。しかしOS/400 iSeriesシステムよりも信頼性と安定性に優れた稼動環境はほかに存在しません。また、この1年間、iSeries環境の導入実績は2桁という大幅な伸びを示しています。これは市場で伸びているプラットフォームなのです。移行する必要がどこにあるのでしょうか。

――それは既存のiSeriesユーザーの話ですね。新規のユーザーもいるのですか。

ミルズ 新規のユーザーもいます。iSeriesの導入を決める新規の企業顧客もあれば、一度離れた後で戻ってくる企業もあります。

 これはIBMにとって非常に強力なビジネスであり、今後も成長を続けるでしょう。全世界が1つの方向に向かっている、などというのはIT業界の幻想の1つであり、それを推進しているのは顧客ではなくベンダーです。ベンダーは、みんなが1つの方向に向かっている、と断言したがるものです。市場ははるかに多様であり、ベンダーが主張するのとは大きく異なる状況の中で決定がなされるのです。

 企業にとっての課題は、取り払うことではなく連携させることなのです。IT支出全体の中でも、既存の環境を連携させるための支出が突出しています。企業のIT支出の80%は、新規購入ではなく、既存のシステムに関連した支出なのです。

――IBMのOSビジネス全般、ならびにAIXビジネスをどう位置付けていますか。

ミルズ 当社にとってOSビジネスは数十億ドル規模のビジネスであり、この数年間は基本的に安定したビジネスとなっています。われわれは現在、pSeriesでLinuxをサポートしています。今後、Linuxを搭載したpSeriesを選択する顧客が増えると予想しています。

 しかしUNIX OSで儲けた企業はありません。UNIXはこれまでずっと、ハードウェアプラットフォームを陰で支えてきました。われわれがRISCハードウェアビジネスに参入したとき、OSが必要でした。文字通り一から開発するというやり方もあったかもしれませんが、1980年代にはどの企業もそうしていたように、われわれもUNIX System Vのカーネルに修正を加えるという方法を採用したのです。

 2000年代(2001〜2010年)、市場は明らかにLinuxの方に向かっています。Linuxはさまざまな種類のチップセット上で動作するようになるでしょう。もちろん、Powerプロセッサ上でも問題なく動作します。今後、Power上でAIXを動作させるよりも、Power上でLinuxを動作させる顧客がますます増えるでしょう。AIXはこれまでずっと、黒子の役割を果たしてきました。UNIX市場で収益をもたらしてきたのは、ハードウェア、UNIX上で動作するミドルウェア、そしてUNIX上で動作するアプリケーションおよびサーバです。UNIX OSが収益をもたらしてきたのではありません。

――つまり投資先をAIXからLinuxへシフトするだけ、というわけですか。

ミルズ われわれは現在、AIXとLinuxの両方に投資しています。私が生きている間は、AIXへの投資を続けることになるでしょう。将来、Linuxの成熟度が高まり、PowerベースのLinux上で動作するアプリケーションが増えるのに伴い、Power上で動作するAIXよりもPower上で動作するLinuxを選択するユーザーが増えると考えています。これは利用形態の論理的発展であり、われわれにとっては何の問題もありません。いずれ、AIXへの投資を削減すべき転換点が訪れるでしょう。

――SCO Groupの対IBM訴訟にどの程度注目しているのですか。

ミルズ もちろん、IBM社内の各分野の人々が注目しています。こういった問題には、ビジネスに対処するのと同じように対処する必要があります。しかしSCOがこの問題を持ち出したからといって、市場でのわれわれの活動がストップすることはありません。われわれはLinuxを重要な投資対象としており、この方針は全く変わりません。Linuxを販売・推進するという方針にも変わりはありません。

――この問題でSCOの人間と個人的に話をしたことがありますか。

ミルズ ありません。

――今後、そういった機会があると思いますか。

ミルズ 彼らは、話し合う前にわれわれを告訴しました。「IBMさん、この問題を一緒に解決しませんか」と問題を提起することなしに、いきなり提訴したのです。彼らは、業務担当者から弁護士に主導権を引き渡したのです。もしあなたが私を告訴したいのであれば、私の弁護士を相手にしなければなりません。しかし、もしあなたがビジネス問題について話し合いたいのであれば、問題解決に向けて協力できるでしょう。IBMのやっていることが問題であり、それを是正してもらいたいというのであれば、まずわれわれのところに来て問題を示し、それを是正するよう求めるのが筋ではないでしょうか。

 われわれは、SCOから取ったと言われるコードを見たことがありません。そのコードを見るには、ユタ州まで巡礼の旅をしなければなりません。きっと厳重に警備されているのでしょう。彼らがどうやって調べたのか分かりませんが、われわれは関与していません。すべては裁判所に提出される証拠で明らかになるでしょう。

――IBMの「オンデマンド」構想は多くのユーザーにとって、Sun Microsystems、HP、Oracleなどの企業が宣伝しているアダプティブ/ユーティリティコンピューティングモデルと同じものであるように見えます。ある意味では、みんな同じようなことを言っているのではありませんか。

ミルズ 決してそんなことはありません。昨年10月、われわれは非常に明確にオンデマンドの定義を示しました。端から端までプロセスが統合されたビジネス、つまりビジネスプロセスの統合、それがオンデマンドです。

 一方、ユーザーがよく話題にするデータセンターの効率化という問題があります。しかしオンデマンドはデータセンターの効率化として定義されるわけではありません。SunとHPが打ち出しているのはデータセンターの効率化を目指した構想です。Oracleの構想は今ひとつよく分かりません。われわれが推進しているのは「ビジネスプロセスの統合」構想です。

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