エンタープライズ:ニュース 2003/10/30 18:38:00 更新


変貌する商都上海で日本オラクルがセミナー開催、中国事業開発部も本格始動

まるで別次元の世界に迷い込んだかのような国際商都上海。その摩天楼で日本オラクルが「中国ビジネスセミナー」を開催した。特別講演に招かれた松下電工の田中取締役は、売り上げを拡大したければIT投資を惜しむな、と助言する。

 前日、Oracle China Development Center開設を取材するために訪れた首都北京にも驚かされたが、国際商都上海の変貌ぶりには言葉もない。国内線での移動のため、上海虹橋(ホンガン)空港に着いたのだが、それがいっそう上海の変貌ぶりを際立たせた。高速道路でダウンタウンに向かうあたりではそれほどでもなかったのだが、市内を流れる黄浦江の下をトンネルでくぐると、忽然と別次元の世界が現れた。以前にここを訪れたのが1990年代半ばだったから、まるで浦島太郎なのだが、当時この浦東(プートン)と呼ばれる地域には何もなかった。

 日本オラクルが「中国ビジネスセミナー in 上海」を開催するグランドハイアットホテルは、地上85階建ての摩天楼。かつてはぽつんと建っていた印象のあるテレビ塔も、今や周囲を高層ビル群に囲まれてしまった。ニューヨーク・マンハッタン島の摩天楼をこれから作らんとしているかのようだ。最上階からテレビ塔を見下ろし、黄浦江を眺めると、その向こうに広がるかつての上海租界がかすむ。

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黄浦江の向こうに上海租界が広がる。万国博覧会が開催される2010年、この国際商都はどうなっているのか?


 10月30日朝、グランドハイアットのボールルームには、日本から120人、中国国内から300人のパートナーや顧客らが集まり、「中国ビジネスセミナー in 上海」が開催された。日本オラクル 中国事業開発部のお披露目が主な狙いだ。

 冒頭挨拶に立ったアジア太平洋地域を統括するデレク・ウイリアムズ執行副社長は、「中国には1500社の日本企業が進出し、米国企業に次ぐ42億ドルの投資を行っている。Oracleは、中国との掛け橋になり、日本の顧客の成功を支援したい」と話す。本社でOracleデータベースやE-Business Suiteを採用している日本企業の多くが、中国に展開するシステムの構築に関しても日本オラクルから同じ水準のサービスを望んでいることが背景にあるという。

 日本オラクルの新宅正明社長によれば、松下電器産業、松下電工、ソニー、あるいは自動車メーカーらが製造・販売のために中国へ進出しており、そうした動きが中国事業開発部の取り組みを加速させたという。

 午後、内外の記者を集めて行われた記者発表会で、松下電器産業と富士ゼロックスの事例が紹介された。

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記者会見に臨むウイリアムズ氏(左)と新宅氏


 日本で285の事業所にOracle E-Business Suite(EBS)を導入している松下電器産業は、2005年4月までに中国の工場や事業所、合計44カ所にEBSを展開する。しかも、上海にITリソースを集約し、それぞれの拠点はネットワークを経由したサービスとして利用するという新しい試みだ。本番稼動までの期間が1/3に短縮でき、導入コストも1/2に抑えられるという。稼動後も事業所ごとにITスタッフを配置する必要がない。既に2つの事業所で本番稼動が始まっているという。

 中国事業開発部を統括する沼田治ゼネラルマネジャーは、「センター化し、ASPとしてサービスを提供する形態が、今後1〜2年で中国では主流になるだろう」と話す。

 松下電器産業のプロジェクトでは、中国のパートナーであるHandのリソースをうまく活用した。中国事業開発部では、日本語とITのスキルを併せ持つ技術者を育成すべく、Oracle Master日本語版の技術者認定試験も上海で開始しているという。

 富士ゼロックスの事例も「日中合作プロジェクト」だ。SCM、製造、そして会計という幅広いEBSの適用事例だが、システムインテグレーションをNECが担当、中国事業開発部が日中企業間の連携を通じて現地リソースのフル活用を図ったことで、わずか8カ月という短期間で本番稼動まで漕ぎ着けた。

スピードに付いて行けるか

 2000年末から中国法人におけるSCMネットワークやERP導入に着手した松下電工からは、中国地域担当取締役の田中弘司氏がセミナーに招かれ、特別講演を行った。

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松下電工の田中取締役は中国法人の社長を務めている


 29カ所に拠点を展開し、500億円以上を売り上げる松下電工有限公司は、住宅建材をはじめとするさまざまな商品を複雑なチャネルを経由して販売している。1998年からは中国でも住宅の所有が認められ、自動車と並んで一大住宅ブームが訪れ、同社にとっては追い風となっている。

 田中氏は、「売り上げを拡大するには、製造、販売、および流通のネットワーク化が不可欠。投資を惜しめばリターンはない」と話した。SCMとCRMのネットワークが製販を一体化しているだけでなく、中国事業全体の求心力となっているという。今後は、販売サイドの代理店にまでネットワークを急ピッチで拡大し、在庫や生産管理の情報を共有したいと話す。

 「ここ中国にもウォルマートやカルフールといった外資系流通業の進出が著しい。われわれはサプライヤーは大手流通業者と接続できなければ、門前払いとなる日も近い。その日がいつか? それが中国では早い」と田中氏。伝統を重んじる反面、日本人はスピードについていけない、とその弱点を指摘する。

 「北京の自宅を1週間も留守にすれば、隣のビルが壊され、新しい通りが出来上がっている」(田中氏)

 日本のIT業界では、「開発リソースが豊富でコストも安い」といったイメージのある中国市場だが、セミナーの参加者らは日本語とITのスキルを併せ持つ技術者の確保が極めて難しいと口をそろえる。松下グループのように、たくましく事業を拡大する日本企業もあれば、つまづいてしまう企業も多いはずだ。

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