エンタープライズ:ニュース 2003/10/31 03:59:00 更新


小林 和真氏が語るネットワーク構築のトレンド

「NETWORKERS 2003」の2日目となる10月30日、倉敷芸術科学大学教授の小林氏が担当したセッションは、近い将来のネットワーク構築の方向性を示唆するものとなった。

 シスコシステムズが開催しているプライベート技術カンファレンス「NETWORKERS 2003」の2日目となる10月30日、最新ネットワーク構築のトレンドに関するセッションが行われた。スピーカーは、倉敷芸術科学大学産業科学技術学部コンピュータ情報学科で教授を務める小林 和真氏。IPv6への造詣が深いことでも知られている同氏ならではの話がユーモアを交えながら述べられた。

小林氏

倉敷芸術科学大学教授の小林 和真氏


 セッションの冒頭、同氏が今回のセッションのために考えたという「次世代情報ネットワークで注目されるキーワード」が示された。ここには、ユビキタス・ネットワークや情報家電といったやや抽象的なキーワードのほかに、無線タグ(RF-ID、Auto-ID)やIPv4/IPv6デュアルスタック、光ルーティングなども挙げられていた。

 特に無線タグについては、

「無線ICタグは呼び方によって管轄が違う。たとえばRF-ID(Radio Frequency IDentification)は総務省で、ICタグは通産省といった具合に。無線タグに対するベンダーの取り組みを紹介する文などでどちらの文字が使われているかで、どこから補助金を受けているかが分かる」

と語り、来場者から笑いが起こるシーンがあったが、RF-IDについてはその利用価値を認め、学内でも生徒向けに何らかの利用方法を模索したいと述べていた。

 また同氏は光ルーティングの必要性を説く。「現在の機器のインタフェースでは40Gbpsあたりが限界となる。これは電線に電気を通すという方法の限界であるともいえる。電気に変換することなく、光のままでルーティングする技術が、大手キャリアなどで2、3年後から採用されてくるのではないか」と予想している。

大学は2、3年先のネットワーク環境を試す場

 同氏が教鞭を振るう倉敷芸術科学大学のネットワーク環境に話が及ぶと、「大学というのは2、3年先のネットワーク環境を試す場」と話す。同大学では、先進的な試みがいくつか成されている。たとえば、全クライアントに対するグローバルIPの付与や、Winnyにおけるウィルス感染率の調査などである。

 このうち話がIPv6に及ぶと、「IPv4/IPv6のデュアルスタックは単純に考えても設定が2倍の量になるので、愛がないと難しい」としている。しかし、「5年後にIPv6の環境になっていないということはもはや考えられない」と力説する。市町村レベルになると、最低でも6年、長ければ9年は使用することもあるとし、先を見据えた機器選定をするのであれば、もはやIPv6に未対応の機器は選択肢に入らないと強調する。

 同大学ではこれまでExtreme Networks社のSummitシリーズを導入していたが、保守料込みのリース契約を行い、その期間中にも関わらず、その保守の打ち切りがとなった製品があったという。2004年2月に行われる学内ネットワークの前面更新時には、こうした製品を学内ネットワークから一掃していくほか、RF-IDの試験導入、IPv4/IPv6のデュアルスタックにも対応させていくとしている。

 このほか、興味深い話として、現在のQoSの問題点を次のように指摘していた。

「特定の事業者がQoSを保障できても、インターネットというのはエンドツーエンドで成されるものなので、帯域保障は実現困難。技術的な課題が解決できても、事業者間の利害で相互利用は困難なものになるだろう」(小林氏)

 そして次世代のネットワークに関して、「十分な帯域が確保されていれば、下手なQoSはかえって逆効果。しないほうがいい」と述べている。とはいえ、QoSが明確に差別化できるものになるのなら、ユーザーにコストの負担を要求できるような市場性もあると予測している。

岡山情報ハイウェイでCisco製品を導入間近?

 岡山県内では岡山情報ハイウェイとNTTの地域IP網の相互接続が進んでおり、すでに県内の全県立高校、全市町村の光接続が完了するなど、国内最大級の地域IX(OKIX)が形成されている。

 岡山情報ハイウェイの地域IXと地域IP網の網終端装置を光ファイバで接続することで、高速な通信が可能となる。この部分の機器は現在指名競争入札待ちの状態だが、Cisco製品となる気配が濃厚だという。その理由としては、「Cisco Discovery Protocol(CDP)が理解できて、かつ、10Gbpsクラスのネットワークに対応できるのはCiscoしかないから」だという。

 なお、岡山情報ハイウェイの今後の予定としては、基幹網を10GbEに増速するほか、既存のATM網を継続利用しつつのEthernet VLAN導入、OKIX接続ISPのIPv6サービスへの対応などが予定されているという。このうち、OKIX接続ISPのIPv6サービスへの対応については、「ISPにIPv6化を要求することになるので、これを発表した時は、ビジネスチャンスと捉えるもの、危機感で青ざめるものと反応はそれぞれ」としている。

 全体としてはCisco製品の優位性などを示す部分は少なかったとはいえ、小林氏の飾らない口調で次世代ネットワークのひとつの方向性が語られ、最後は大きな拍手の中、壇上を後にした。

関連リンク
▼NETWORKERS 2003
▼シスコシステムズ
▼倉敷芸術科学大学
▼NETWORKERS 2003レポート

[西尾泰三,ITmedia]