エンタープライズ:ニュース 2003/12/08 13:07:00 更新


データマイニングの半導体プロセスへの適用事例と課題

 11月13日、14日の2日間、都内のホテルで開催されたエス・ピー・エス・エスの年次カンファレンス「SPSS OpenHouse 2003」。初日の事例セッションでオムロンのインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー、半導体・FPD ITシステム事業推進チームの小川実氏が同社の取り組みについて語った。

 11月13日、エス・ピー・エス・エスが都内のホテルで開催した年次カンファレンス「SPSS OpenHouse 2003」のにおいて、オムロンのインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー、半導体・FPD ITシステム事業推進チームの小川実氏が同社のデータマイニングを利用した半導体プロセスの研究成果について語った。

 オムロンは、センシングおよびコントロールをコア技術として、4つの事業を展開している。制御機器・FAシステム事業、電子部品事業、社会システム事業、および健康機器事業だ。血圧計やマッサージチェアなどの健康機器はお馴染みで、同社の知名度・ブランド価値も高い。ただ、今回同社がClementineを活用したのは半導体の製造プロセスという一般にはあまり知られていない分野においてである。

 半導体は、数百もの工程を経て作られる。そのうち、オムロンがデータマイニングを適用したのは、配線工程における膜形成プロセスだ。膜形成プロセスでは、真空中に放電ガスを放ち、高い電圧をかけてプラズマを発生させる。そして、アルゴン(Ar)イオンをターゲットに衝突させることで、ターゲットからターゲット原子をはじき出し、そのターゲット原子をウエハに堆積する。

 小川氏は、「プラズマは、オーロラのようでとてもきれいです。初めて見たときには感動しました」と話す。このように美しい工程というが、実際にはテクノロジーの粋が詰まっているプロセスでもある。そのプロセスを最も単純に説明すると、「Arイオンをターゲットにぶつけ、ターゲットから飛び出した原子をウエハに積もらせる」となるかもしれない。それでも難しいが。

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オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 小川 実氏


 さて、オムロンが課題としたのは、その膜厚(ウエハに積もる原子の厚さ)のばらつきだった。そこで、膜厚を成膜時間(処理する時間)で割ることで、適切な「成膜レート」(オームストロング/秒)を求める。これで、膜厚を常に最適に保ち、全行程で失敗作を極限まで減らせようと試みたのだ。

 そこで、小川氏はこの工程を構成するさまざまな機械にアナログインタフェースを接続。DC電源やヒーターの電力、Arガスの流量など、あらゆる実測データを情報コントローラと呼ばれるPCに集約した。そして、オペレータがメモする変化点A、B、Cをベースに、膜厚に影響する要因を整理しようとした。

 その結果、変化点Aの影響が非常に大きいことがわかったという。これは、オムロンのプロセス技術者にとって衝撃だった。膜厚を変化させる要因になっているとは全く考えていなかったからだ。これが、データマイニングの真骨頂と言える。一方で、製膜中の入力因子の平均値や、変化点Bからの加工値が膜厚に影響することもわかった。これらは既知の結果だったり、プロセス技術者の予想を裏付ける結果に終わった。

 「意味がないと感じるかもしれませんが、こうした結論が出ると、技術者は安心して仕事に打ち込めるようになるものです」と小川氏。

 オムロンでは、この実験によって、半導体プロセスのデータ解析に、データマイニング技術が活用できるめどをつけた。また、データマイニングによるモデル化や、いままで気づかなかったことの発見なども相次いだ。小川氏も、「さらに技術を磨けば、量産プロセスに適用する実用化も十分に可能」とする。

 ただし、そのためには2つの大きな課題があるという。プロセス条件データとリアルの検査データを1対1でヒモ付けるのために、IDを付与する特殊なテクニックが必要なことと、入力因子をいかに漏れなく集められるかだ。これらの困難を経験としてクリアしてきたオムロンは、このデータ解析をコンサルティングサービスとして外部提供することも考えている。

 小川氏は、「ROIが問われていますが、費用と効果の関係を適切に出せる分野ではありません。しかしながら、きちんとプロセスが確立されておらず、歩留まりの大きいラインもあります。そうしたところに向けて、サービスを提供していきたいのです」と語る。

 そもそも、ラインを組むときに、データを取得するという感覚はなかった。小川氏は、データを分析して再活用するという前提で装置を構成すれば十分にデータ活用できると考えており、このコンサルティングサービスでは、こうした細かな指導も行ってくれる見込みだ。

[ITmedia]