エンタープライズ:ケーススタディ | 2003/12/12 20:29:00 更新 |
Case Study:Yahoo!BBの複雑化する課金体系をさばく新システム
Yahoo!BBを支える新しい課金システムがカットオーバーした。データとビジネスロジックを分けられるアイログのJRulesベースのシステムにより、より柔軟なシステム対応が可能になり、同事業の今後の戦略にもプラスに働くかもしれない。
初期費用の無料キャンペーンや街頭でのモデムの配布など、激化するADSLのサービス競争の中心として、ソフトバンクの動向には常に注目が集まっている。
2001年夏のサービス開始初期は、サポート面の不安に批判が集中した。だが全般的には、低価格攻勢により他社のサービス価格を引き下げたことを含め、インフラとしてのインターネット環境を日本の多くのユーザーに提供するきっかけになったことを評価する声も多い。
また、あおぞら銀行株を1011億円で売却し、さらに、12日には、社債と公募増資により新たに2300億円を調達することが報じられた。これらの資金は、財務面の強化に当てるもの以外は基本的にブロードバンド事業に集中的に投資するという。リスクヘッジをしない「明確な」経営戦略を打ち出した結果として、成功を勝ち取ることができるかどうかについては、経営戦略モデルのケーススタディとしてもさまざまな分野の人々が同社を見守っている。
新課金システムの導入
そのブロードバンド事業も、成功の鍵は、サービス運用を支えるITの質の高さにかかっている。現在は370万人に達したユーザーには、ADSLの接続速度や、サービス内容などによって、さまざまな種類の課金パターンがある。また、非常に早いスピードで各種キャンペーンを実施しているため、その都度、正しい課金を行うための新たなシステム対応が求められる。
同社は、11月25日に、Yahoo!BBの新しい課金システムを、フランスのアプリケーションベンダーであるアイログの「ILOG JRules」ベースで開発し、本番稼動したことを明らかにしている。これについて、ソフトバンクBBでシステム部長を務める山本昭夫氏と、アイログでマーケティング&アライアンスマネジャーを務めるジョエル・ゲイ氏に話を聞いた。
ソフトバンクBBの山本氏とアイログのジョエル・ゲイ氏
スピード経営を目指して
「Yahoo!BBの加入者が200万人を超えたころから新システム導入を考え始めた」と話す山本氏。加入者だけでなく、キャンペーンも増加したため、追加で発生するシステム開発量が増大したという。
従来のシステムでは、キャンペーン内容などを含むビジネスロジックとデータがストアドプロシージャ化されて一緒に埋め込まれていた。そのため、ネイティブコードによる処理速度が早いというメリットはあったものの、業務面での仕様変更をするためにソースコードを都度書き直さなくてはならなかったという。
これでは、「スピードの早い会社」としてビジネスを展開する上でのボトルネックにもなりかねない。そこで、同グループのシステムインテグレータであるイーシーアーキテクトから、「業務ロジックを外出しにして、システムと分離できるエンジンがある」と聞き、導入を決定したのがアイログのJRulesだった。
ボーダフォンなど課金システムとして導入
アイログのジョエル氏はJRulesについて、「ボーダフォン、フランステレコム、テレフォニカ(スペイン)など、通信や金融、製造業の各企業に導入されている」と話す。
JRulesは、ルールエンジンとして機能する「人工知能」とも説明できるという。Yahoo!BBの導入事例でも分かるように、データとルールを分離して機能させることができるため、ビジネスルールに変更が加わったとしても、アプリケーションをあまり変更せずにシステム対応できる。そのため、運用する上で柔軟性に富み、さらに、アプリケーションの追加開発費用を抑えられるために、ROIの向上にも寄与するという。
パフォーマンスは?
Yahoo!BBでは、課金情報についてデータを日次の夜間バッチを実行することで管理している。夜間バッチは、以前のシステムでは8時間、現在は11時間30分かかるという。山本氏は、JRulesベースの新システムがJavaベースの3層構造であったため、パフォーマンスの悪化を懸念していたが、テスト環境でソフトウェア実現時間として11時間30分という所要時間には、本番環境ではハードウェア負荷分散を行うこともあり、「特に問題はない」と考えているという。
「通常、Javaのネイティブコードを投入すると面倒なコンパイルが必要になったりするが、新システムは業務ロジックを別で持っているため、システムをいじらなくていい点は気に入っている」(山本氏)
また、新システムを開発する上で行ったことについて、以前に正規化し過ぎてかえってパフォーマンスが劣化したデータベースの設計を見直したことを挙げている。
今後、Yahoo!BBが新たな事業戦略を打ち出す場合に、JRulesベースの新システムの対応の早さが成功の鍵を握るかもしれない。
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[怒賀新也,ITmedia]
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