ニュース
2004/02/26 04:31:00 更新


さまざまな技術で彩られた未来型小売業はすぐそこまで。でも本当に大事なのは?

 日本IBMが開催中の「IBM FORUM 2004」。初日となる25日に行われた多くのセッションのうち、流通関係のセッションから、未来型小売業の姿を考えてみよう。

 日本IBMが「オンデマンド時代のビジネス変革」をテーマに開催中の「IBM FORUM 2004」。初日となる25日に行われた多くのセッションのうち、流通関係のセッションの1つ、「ここまで来た! 小売業における未来店舗“ストア・オブ・ザ・フューチャー”」では、小売業の目指すべき未来型小売業の姿が紹介された。スピーカーは、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス、流通事業本部 パートナーの下村 宏氏。

下村氏

未来型小売業の姿を紹介する下村氏

 同氏は最初の10分ほど、CGを使ったデモ映像で、さまざまなテクノロジーを採用した未来型店舗の紹介を行った。例えば、買い物に来た客のカートには、「パーソナルショッピングアシスタンス」と呼ばれる、小型のタブレットPCのようなものが搭載されている。ウェルカムメッセージの表示といったレベルから、お勧め商品の表示、カート内の商品の合計価格のリアルタイム表示、店舗内のナビゲーションなども行える。

 店舗を見渡すと、特定商品のプロモーションを行うデジタルディスプレイや、生鮮品などの情報やレシピのプリントアウトができるキオスクターミナルがあちこちに配置されている。

 製品はRFIDで単品レベルの管理が成され、在庫管理の精度の向上に役立つだけでなく、間違った場所におかれた場合でも即座に従業員が知ることができる。

 支払い手段もスマートだ。レジではカート内商品のデータを検証するだけの作業で、あとはせいぜいレシートをもらうくらいだ。レジでイライラしつつ待つこともない。

 先に未来型店舗としたが、これらは「いつかこうなる」の夢物語ではない。これらの技術は、基本的にはドイツのメトロ社が展開しているフューチャーストアですでに採用されているものなのだ。

 さらに未来には、家庭の冷蔵庫がネットにつながることで、その中にある食材の不足情報などともリンクさせることが例として示された。

未来型小売業の競争優位上のポイントは大きく3点

 下村氏によると、未来型小売業の競争優位上のポイントは大きく3点に分けられる。「顧客満足度の向上」、「店舗マネジメント力の強化」、「取引先とのシームレスな連携」である。

 冒頭で紹介したメトロ社の例は、いわば店内販促における顧客満足度向上のための施策であるといえる。事実、メトロ社のストアに来店する消費者に声を聞くと、高い評価を受けているようだ。特に、キオスクターミナルが行う「ワインコンサルティング」は好評だ。

 とはいえ、下村氏によると、こうした目に見える部分だけではなく、そのバックエンドの仕組みとして、顧客情報を分析することで、施策の方向性を定めるためのカスタマーアナリティクス(CA)を構築することが有効であるという。つまり、店内の販促だけでなく、来店促進の仕組みも含めて考えることが重要なのだ。

 店舗マネジメント力の強化については、従業員の業務に合わせて、どこからでも必要な情報にアクセスできる環境を構築する「オンデマンド・ワークプレイス」が紹介された。これは、各ロールに応じたポータルを構築することで、業務効率や生産性の向上といった効果を期待するものだといえる。

 もちろん、各ロール別のポータルが望ましいのは言うまでもないが、このうち、店舗管理者(店長や管理スタッフ)に焦点を当てたポータル構築が特に重要なテーマであるという。これらのロールに求められる管理目標には、売上の最大化と経費のコントロールという2つが挙げられるが、そのため必要なアクションとしては、次の4つが挙げられる。

  • 店舗従業員の作業品質の維持
  • 消費者の来店動向や、入荷や在庫状況等に合わせた従業員の作業スケジュール管理
  • 十分な品揃え、欠品防止対策
  • より訴求力の高い店頭陳列に関する作業の優先順位付けと実行管理

 しかし下村氏は、店舗管理者の多くは目先の仕事に忙殺され、これらの仕事に十分に当たれていない現状があるとし、店舗管理者が本当の仕事をするために、こうしたオンデマンド・ワークプレイスが必要であると話す。

 この部分に関して、IBMは、すでに欧米で多くの事例を持ち、オンデマンド・ワークプレイスを実現するためのノウハウ提供、コンサルティングサービスからシステム基盤(ハード・ソフト)、構築サービス、運用に至るまでトータルで提供できることを強みとしている。

 また、調達コストの削減や魅力ある商品・サービス作りにつなげる取引先とのパートナーシップも重要である。しかし、海外先進小売業における取り組み状況を見ても、コマースに直接関係する受発注以外の部分についてはまだまだといった様子である。コミュニケーション、コマース、コラボレーションの各カテゴリで高いパートナーシップを構築しているのがウォルマートであり、そこに成功の秘訣があるのではと同氏は指摘する。

IT云々の前に考えるべきは?

 小売業におけるトレンドとしては、多様化の進行や、消費者の購買行動・消費動向の変化のほか、大規模小売業による業務拡大、そしてそれに伴う中規模企業の存続の危機などを挙げ、IT技術の活用を成功のカギとして挙げる。

 しかし、同氏が強調するのは、「これがトレンドだから導入したほうがいいですよ」的なIT技術の活用法ではない。むしろ、消費者へどのような価値が提供できるか、そうした明確かつ独自のビジョンを持った上で、方向性とロードマップを定義し、それとリンクしたIT技術を活用することが、競争が激化する中での成功方程式だとしているのだ。

関連記事
▼IBM FORUM 2004開幕、センス&レスポンスへ変革を――オンデマンドビジネスを説く大歳社長
▼オープン標準で企業に即応力をもたらすIBMのe-ビジネス・オンデマンド構想

関連リンク
▼IBMフォーラム 2004

[西尾泰三,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.