ケーススタディ
2004/04/07 22:28 更新


商品情報標準化の取り組み

製造業・卸売業・小売業における商品情報の標準化を図ることで、サプライチェーンの効率向上とコスト削減を目指すGDS(Global Data Synchronization :商品情報同期化)への取り組みが進んでいる。本稿では、欧米の活動を中心に標準化の概要を示すとともに、日本における商品情報標準化の課題について考察する。

世界の流通業界における商品情報標準化の動き

 世界的規模での流通業のビジネス環境の変化にともない、販売業務や企業間取引の効率化に対する要求や期待が高まっている。これを受けて、流通に関する標準化を目指す各種団体のグローバル規模の活動が活発化しつつある。この標準化活動の特徴は、あくまでも民間企業や団体が中心となって推進していることである。この活動の中心となってきたのが、欧州の国際EAN協会と米国のUCC(米国標準化管理機構)である(2003年に合併してEAN/UCCとなり、2004年からGS1に名称変更)。GS1は、欧米の各種標準化推進団体、国際的業界団体との協力体制のもとに活動している。また、標準化仕様、推進ルールとそのプロセスの検討について各国の企業などからの幅広い意見をとり入れ、GSMP(国際標準マネジメントプロセス)が規定することとなっている。

 GSMP が提唱する標準化プロセスで、基本となるものは大きく以下の3点となっている。

(1)商品識別番号(GTIN:Global Trade Item Number)

商品に付番される商品識別番号。日本においてはJAN コードがこれに相当するが、この次世代形式と考えられている。

(2)拠点識別番号(GLN:Global Location Number)

各企業やその流通拠点を識別する番号。将来的には公共的な流通拠点(空港・海港・駅など)や小売店舗の陳列棚などにまで付番されると考えられている。

(3)GDS の推進

GTIN、GLNをキーとした商品情報の国際的な規模での共有化を図るものである。このGTIN、GLNの標準化およびGDSは、トレーサビリティー、RFID(無線による個体識別)、CPFR(Collaborative Planning.Forcasting and Replenishment:協働計画・需要予測・補充活動)などのSCM (サプライチェーン管理)効率向上の基盤として必要不可欠のものと位置付けられている。

GDSの概要とその効果

 GDSは、メーカーが商品情報を登録し開示するパブリケーション(公開)、小売業などがその情報を取り込むサブスクリプション(購読)、および商品情報検索のプロセスによって実現される。商品情報の登録・検索は以下のような仕組みとなっている。

(1)データプール

メーカーは自社商品情報を社外にある商品データベース(データプールと呼ぶ)に登録する。この際の登録項目についてはGSMPが規定している。

(2)レジストリ

世界中のデータプールと接続されたデータベースで、GSMPの規定では世界で唯一の存在である。いわゆるイエローページ的な役割をもっており、コア情報(10項目程度)を管理している。

 GDSの直接的な効果は、メーカーが商品情報を一度登録すれば自動的にニーズのある小売業にまで情報が同期化されることによるコスト削減がおもなものである。それに加えて、小売およびバイヤーにとっては、新商品を世界中から検索することが可能となるため、商品情報カバレッジに関わる機会損失の減少という効果が期待できる。

 またRFIDやCPFRなどによる間接効果(販売管理コスト削減)まで含めると、コスト削減効果は市場売上高の7%程度にまでなるとNRIでは試算している。

日本におけるGDSの普及のために

 日本でもGDSの研究、実証実験が本格的に始まっている。NRI(野村総合研究所)も、日本の主要なGDS研究、実証実験に参加し、GDSプロトタイプ構築や製・配・販の協業におけるGDSの有効性について調査・研究を重ねており、その一部はすでにソリューションとして実装しつつある。ただし、GDSの普及には以下のように課題も多い。

(1)メーカー〜卸売業〜小売業という日本独自の3層の流通構造のモデルは十分には考慮されていない。

(2)GDSでの同期化項目は、実際に日本国内でやり取りされている商品情報項目との隔たりが大きい。

(3)GDS自体、現状では各種のプロセス詳細まで決定されておらず、まだ流動的要素が多い。

 したがって、日本におけるGDSの推進・普及のためには、グローバルな標準化活動状況を把握するとともに、以下の点が重要となると考える。

(1)日本独自の商慣習を反映した日本型GDS プロセス構築のための研究。

(2)GSMPに対する日本独自要件のチェンジリクエストの提言活動。

(3)GDS導入支援のためのノウハウ蓄積。

(4)国内で標準化すべき項目の管理や各種意思決定を行うための、日本版GSMPというべき推進体制の確立。

 また、これらの活動は欧米と同様、GDSの受益者となる製・配・販の民間企業・団体が中心となって推進してゆくことが望ましい。

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▼OPINION:野村総合研究所

[大畠秀昭,野村総合研究所]

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