コラム
2004/04/15 00:05 更新

国内代表者に聞くオープンソースの今:
開発者団体を貫くDebian JP Project、武藤健志氏コラム

初心者には近寄りがたいイメージなLinuxディストリビューションの1つ、Debian GNU/Linux。しかし、着実にユーザー数を増やすその根底の1つには、パッケージマネージャaptの魅力がある。

Linuxチャンネル連載「国内代表者に聞くオープンソースの今」。ここでは、Linuxディストリビューションの1つ、Debian GNU/Linuxの国内プロジェクト「Debian JP Project」で活躍されている武藤健志氏にコラムを執筆いただいた。


 オープンソースやフリーソフトウェアの話題あるところどこにでも口を出すことでほうぼうから煙たがられている日本のDebian開発者たちだが、その所属するDebian JP Projectについてはそれほど知られているとは言いがたい(もちろん彼らの発言とDebian JP Projectとが直接には関係ないことも多いのだが)。このコラムでは、Debian JP Project(以降Debian JP)について紹介してみることにしよう。

開発者の会としてのDebian JP

 Debian JPの日本での正式団体名は「Debian開発者の会」だ。世界規模の開発者団体であるDebian Projectを「本家」と見立て(別に契りを交わしたわけでもないが)、共同してさまざまな活動を行っている。Debian Projectの目的は、完全なフリーソフトウェアだけで構成されたOS「Debian」の開発と整備にある。Debian JP Projectの活動目的もこれに従って、Debianの改良や普及の促進のための活動が中心だ。Debian JPの公式なメンバーは80名程度だが、それを上回る規模のさまざまな人々が、開発やドキュメント整備等に参加している。

 当初から「ユーザー会」という位置付けにしなかったのは、Debianの理念を引き継いだ、開発者の団体にしたいという創始者たちの希望によるものだ。現在もこのスタンスが生き続けており、ユーザーを単なる「お客」ではなく、開発の仲間に誘っていくという文化がある。

パッケージ開発・メンテナンス集団としてのDebian JP

 現在、Debian JPの開発、メンテナンスメンバーの多くは、Debian Projectのメンバーとほぼ重複しており、作業の大半はDebian Projectに場所を移している。

 Debian Projectに参加し始めた当初こそ奇異の目で見られたとはいえ、現在ではDebian JPに所属する日本語圏のメンバーがDebianの重要なソフトウェアパッケージの命運を握っていることも少なくない。Debian ProjectおよびDebian JPのメンバーの多くは、ソフトウェアパッケージの単なるメンテナンスに限らず、オリジナルの作者と非常に緊密な関係を築いていたり、あるいはオリジナルの開発メンバーの1人であったりということがよくある。たとえば、鵜飼氏(w3mやhotplugなど)、後藤氏(glibc)、やまだ氏(Ruby)などは、Debianに限らずとも優れた開発者として著名だ。

国際化集団としてのDebian JP

 ほかの多くの日本のソフトウェア団体がそうであるように、われわれも日本語圏に向けたドキュメントの作成や翻訳に多くの力を注いでいる。

 Debian Projectの公用語は英語だが、世界中の人々が集まっていることから国際化の重要性も理解されている。ただ、欧米圏では日本語等の言語についての知識が必ずしも高いとはいえないため、十分な説明が必要であることに変わりはない。久保田氏は、日本語を含めた国際化の重要性について機会あらば詳細に説明を行ない、理解を広めるべく奮闘している。

 翻訳の分野では、Debianウィークリーニュース(今井氏ら)、セキュリティ勧告(かねこ氏)、パッケージ説明文(つのだ氏ら)、パッケージの各種メッセージ(山根氏ら)、Debian ProjectのWebページ(杉山氏ら)とさまざまな人々がDebian JPを基盤として活動している。諸氏の活動により、英語とまったく異なる言語圏でありながら、Debianの各種ドキュメントの日本語翻訳の達成率は目ざましく向上している。

ユーザー支援としてのDebian JP

 ユーザーは単なる「お客」ではないと前述したが、だからといって初心者を軽んじているわけではもちろんない。たとえばDebian JPのユーザーメーリングリストでは、喜瀬氏や鍋太郎氏ら、経験豊かな人々が、将来のわれわれの仲間と期待するさまざまな層のユーザーを支援している。かつてほかのLinuxディストリビューションを使っていたユーザーがDebianに興味を持って参加するというケースも増えてきているようだ。

 また、ユーザー支援はこれに限らず、ユーザー(そしてわれわれ)が安心して使えるような基盤、すなわちそのソフトウェアが完全に自由に利用できるか、修正できるか、再配布できるかといった点の検討も含まれるだろう(ここで言う「ユーザー」は単なる利用者だけでなく、配布者も含まれている)。冒頭の話題に戻るが、オープンソースやフリーソフトウェアの話題にわれわれが敏感で、ときに過剰ともとられるほどに議論を試みるのは、このような点と密接に関わってくるからだ(実のところ、オープンソースソフトウェアとしての条件を定義した「オープンソースの定義」は、Debian Projectの定めた「Debianフリーソフトウェアガイドライン」の文をわずかに修正したものに過ぎない)。

筆者のDebianに関する活動

 筆者がDebian JPおよびDebian Projectでどのような活動をしているかも簡単に紹介しておこう。

 現在筆者は、次世代印刷システムのCUPSのパッケージを中心にメンテナンスしており、オリジナルの作者たちと協調して修正と改良にあたっている。CUPSをKDEやGNOMEといったデスクトップ環境とも密接に関わるものであり、これまでの「Linuxは印刷が…」という悪評を覆すものになることを期待している(現時点ではまだ細かなものから大きなものまで不具合が多すぎるのだが)。印刷システムについては、必要とあらばFree Standards GroupやOpen Printingなどの他団体との協働も考えている。

 もう1つの大きな活動としては、インストーラの開発とメッセージ翻訳がある。次期リリースバージョンでは日本語を含めて完全に国際化されたインストーラをユーザーに提供できるようにする予定だ。

今後の展開

 今後のDebian ProjectおよびDebian JPの予定についてだが、時期の確実な話と不確実な話がある。

 確実な話は、選挙が近いということだ。Debian JPもDebian Projectも民主的な運営になるよう心がけており、団体の方針を示すリーダーは1年任期で、立候補者の中からメンバー全員の投票によって決定される。Debian Projectのほうでは前職のMartin Michlmayrらが出馬し、間もなく投票に入ることになる。Debian JPも今月には立候補者を募り、投票にはかる予定だ(そして筆者も1年の任期を終え、次のリーダーにバトンを託すこととなる)。

注: 開票の結果、Debian ProjectのリーダーはMartin Michlmayr氏が再選され、Debian JPのリーダーは荒木靖宏氏が選任された。

 不確実な話は、われわれのディストリビューションDebian GNU/Linuxの次期リリース版、コードネーム「Sarge」をできるだけ早くリリースするということだ。課題は山積みではあるが、インストーラの改良は急ピッチで進んでおり、4月中にはインストーラがほぼ完成するのではないかと予想している。Debian JPとしては、できるだけ早くリリースできるよう、パッケージの不具合を修正したり、ドキュメントの整備をしたりといったことが活動の中心となるだろう。Sargeのリリースを楽しみにお待ちいただきたい。お待ちいただけない方はリリースを早めることができるようわれわれといっしょにさっそく活動しよう。

 Happy Hacking。

[武藤健志,ITmedia]

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