インタビュー
2004/04/27 12:25 更新


マイクロソフトの高沢氏、「これからの64ビット環境をパートナーと構築していきたい」

マイクロソフトWindowsサーバ製品部部長の高沢冬樹氏がITmediaのインタビューに応え、64ビットソフトウェアにより、新しい付加価値を提供していくと意欲を話した。

 マイクロソフトWindowsサーバ製品部部長の高沢冬樹氏がITmediaのインタビューに応え、「これからの新しい64ビットの世界を、みんなで一緒に切りひらいて行きたい」と話した。バックエンドだけでなく、アプリケーションサーバやクライアントまで、64ビットソフトウェアにより、新しい付加価値を提供していくと意欲を話している。

64ビットの可能性はバックエンドだけではない

 第4四半期に出荷予定の新しい64ビットWindowsでは、AMD64のサポートによって安価な32ビットのIAサーバと同レベルの価格帯から、64ビットの命令セットを活用できる。しかし、「64ビット」と言っても、これまではDBMSが数値解析などのアプリケーションでしか使われてこなかった。

ITmedia マイクロソフトが期待するソフトウェアの「64ビット化」とはどんな意味を持ちますか?

高沢 64ビットと言っても、従来になかったものではありません。マイクロソフトがWindowsでのサポートに取り組む以前から、UNIX系プラットフォームでは64ビット環境が存在してきました。64ビット市場は、32ビットの限界を超える必要がある分野でニーズがあります。もちろん、我々も既存の64ビット市場に挑戦していきますが、それだけでは大きな市場にはなり得ません。もっと広範な分野での活用が必要でしょう。企業サーバプラットフォームにおける64ビットの可能性をさらに広げたいと考えています。

 社内外のネットワーク帯域が広がり、ワイヤレス技術の発展によって接続性も高まってきています。コンピュータに搭載されるメモリも、以前よりも高速かつ安価になってきています。そうした中で、64ビットの可能性、プラットフォームのパフォーマンスを引き出していく。それはプラットフォームOSを提供しているソフトウェアベンダーとしての使命でもあります。

ITmedia 具体的にはどのような分野での活用が考えられますか?

高沢 コンピュータが扱うデータは、その性質が大きく変化してきました。従来は、テキストや数値など、入出力単位が小さいトランザクション処理が中心でした。しかし、今後は連続的に送り込むストリームデータや、高精細映像などの巨大なオブジェクトデータなど、従来よりも大きなデータをトランザクション処理するようになります。

 たとえば、マイクロソフトは以前から、テラサーバという衛星写真にアクセスするためのデータベースの構築に協力してきましたが、近年は宇宙空間の映像データベース構築にも取り組んでいます。星図だけでなく、それぞれの星や星団、星雲などの観測データもデータベース化し、分析作業まで行えるサービスです。

 こうしたテラバイトクラスのデータベースのバックエンドには、もちろん64ビットが適しています。データベースサイズが大きいため、64ビット対応のDBMSが有効でしょう。また扱うデータの単位が大きくなるため、クライアント側にも高度な処理能力が必要になります。クライアントレベルまで64ビットの処理能力があれば、より高度な分析処理を手元で行うことが可能になります。

 とはいえ、現行のシステムを運用することに追われている管理者や、現在のソフトウェア環境を100%使いこなせていないユーザーは、64ビットの必要性を感じているとは思えない。単に巨大データベースが高速に扱えれば良いだけならば、サーバ側が64ビットになればいいように思えます。

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Windowsサーバ製品部部長の高沢冬樹氏


既存のパラダイムの中で64ビットアプリケーションを考えるな

 仕事や日常生活を営む中で、われわれはさまざまな行動を取り、その結果も多彩です。これらの情報を可能な限りデジタイズし、すべてをデータベース化して処理するには64ビットのパワーが必要不可欠です。今から取り組んでおかなければ、トレンドに乗り遅れてしまうでしょう。

 われわれの64ビット製品に関して言えば、短期的には従来から64ビットの優位性が主張されているSQL Serverなどが重要ですが、もっと長いタイムフレームでは開発環境やOSが64ビットへと変わっていき、それによってアプリケーションの64ビット化が進んでいきます。

 たとえば、レポーティングサービスなど情報サービスの機能強化、言い換えればデータを活用する部分に関しても、今後は64ビット化が有効な分野になります。サーバ側だけでなく、クライアント側も64ビット化されることで、64ビットのバックエンドが管理する膨大な情報をクライアント側で分析、活用可能になるわけです。

 64ビット技術を活かした、クライアントレベルでの情報分析やビジュアル処理は、従来のトランザクションシステムの延長線上ではありません。今年はそうした新しい64ビット活用が行われる最初の年になります。サーバだけの64ビット化では、次の世代への扉を開くことはできません。


 ブロードバンドの普及により、急速にインターネット上を通るトランザクションが増加し、それを支える通信インフラやサーバは、通常の進化では追いつけないほどの負荷に襲われると言われてきた。しかし、実際にはトラフィックピークが瞬間的にシステムに負荷をかけるものの、絶対量としてのデータはそれほど増えていないようにも思える。


高沢 従来のトランザクションシステムは、せいぜい人間が入力可能なレベルでしかデータが発生しなかった。あらかじめ、トランザクション量は予想できます。Webはこれが大きくなったものと考えられるでしょう。しかし、インターネットの帯域に限りがありますし、さらに人間の数によっても制限が加わります。ですから、従来のパラダイムで考えれば、クライアントの64ビット化による恩恵は少ないかもしれません。

 しかし、RFID(発信機モジュールを内蔵したICタグ)で物流が管理される時代になってくると、人間ではなく「モノの動き」がトランザクションを作り出すようになります。そのトランザクションは、人間の入力量の限界やインターネットトラフィックによって制限されず、膨大な量へと膨れあがるでしょう。WebトラフィックとRFIDトラフィックが同時発生する世界に対応するには、現在のエンタープライズシステムとは全く異なった発想が必要になってきます。

ITmedia その場合、システム側のレイヤを増やしたり、バックエンドサーバの強化などで乗り切ることはできないでしょうか?

高沢 RFIDが本格的に使われるようになると、Webトラフィックのように短時間のピークトラフィックが生まれるのではなく、定常的に膨大なデータ量、トランザクションが流れることになります。おそらく、フロントエンドに近い位置にあるコンピュータにも、高度なインテリジェンスが求められるようになるでしょう。フロントエンドをひたすらに強化してトランザクション増大に対応しても、ネットワーク帯域や集中処理を行うバックエンドの能力に限界が訪れるからです。

 そこでシステムのフロントエンドやクライアントなど、トランザクションやデータが発生する地点で、ある程度インテリジェンスな処理を行い、バックエンドに到達するまでの間にビジネスロジックのサブセットが運用されるようになると思います。そうすることで、バックエンドに集まるトランザクションは整理され、過度の処理集中による問題を避けることが可能です。

集中と分散、トレンドは繰り返す

 こうした考えは、いわば.NETコンセプトを多層化したもののようにも見える。

高沢 歴史を振り返ると、処理をどの段階で行うのか、集中と分散は交互にトレンドが移り変わってきました。近年は管理性などの問題からバックエンドへの集中が進みましたが、今後は分散の方向に向かうでしょう。フロントエンドで受けたトランザクションを、ビジネスロジックの各レイヤーで順に絞り込んでいくインテリジェンスが求められるわけです。途中の段階で、いかに効率よくサマライズするかが鍵になります。高度なサマライズを行うため、強力なコンピューティングパワーと64ビットが必要になるでしょう。

ITmedia ビジネスロジックの分散と各ティアごとのインテリジェンスが向上すると、これまでの開発手法とは別の発想やツールが必要になるのではないでしょうか?

高沢 現場での開発自体はそれほど変わらないでしょう。しかし、データのアーキテクチャやフロー、処理単位には変化が求められるようになると思います。発想の転換さえ行えれば、今後の時代にも対応は可能です。

 「情報」は、社内のいたるところを巡らなければ価値がありません。可能な限りローコストにそれを可能にするにはどうするのか?我々は、そのための普遍的な技術を作り上げて提供することを目標にしています。

ITmedia バックエンドの64ビット化が有効ということは分かりました。では、クライアントレベルでの64ビットコンピューティングは、どのような形でエンタープライズコンピューティングに影響を与えるでしょうか?

高沢 われわれが開発している次世代のWindows(Longhorn)が想定しているPC環境は、64ビットマルチコアのプロセッサに、テラバイトクラスのストレージです。また、LonghornにはWinFSというSQLデータベースを基礎にしたオブジェクト指向のファイルシステムが標準搭載されます。Longhorn世代ではWinFSの中でさまざまな情報が蓄積されるようになります。その中から、いかにして有益な情報をリアルタイムに取り出すか。クライアントの64ビット化は大容量データウェアハウスを個人が活用する時代を作り出すでしょう。

ITmedia マイクロソフトとして、AMD64をこのように強くプッシュするようになった背景は何ですか? 特定のプロセッサアーキテクチャに対して、これほど強くコミットした理由について教えてください。

高沢 話は単純です。従来のバックエンドのみの64ビット化ではなく、全方位的に64ビットのパワーを活かせる環境を作るために、AMD64は非常に良いソリューションでした。良いものには対応していくというシンプルな考え方です。OSやアプリケーション側も比較的容易に対応でき、ビジネスの可能性もある。ならば力をいれるべきでしょう。

 64ビットコンピューティングの普及は、我々の戦略でもあります。市場開拓をAMDとともに行い、業界を盛り上げたいと思います。

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[本田雅一,ITmedia]

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