コラム
2004/05/11 10:34 更新

国内代表者に聞くオープンソースの今:
新版PHP5でオブジェクト機構を実現、日本PHPユーザ会 廣川 類氏コラム

Webアプリケーション向けのスクリプト言語として代表的なPHP。オープンソース界でCMSやBBS、blogにも利用されるなど幅広いサービスの根底となっている。

 Linuxチャンネル連載「国内代表者に聞くオープンソースの今」。ここでは、国内のPHP環境を整える役目を担う「PHPユーザ会」を中心に活動されている廣川 類氏にコラムを執筆いただいた。


 このコラムでは、Webスクリプト構築用スクリプト言語として広く普及しているPHPについて、国内コミュニティの活動内容を中心に紹介してみることにしよう。

PHPの発展

 PHP(PHP: Hypertext Preprocessor)は、主にWebアプリケーション構築に使用されているオープンソースのスクリプト言語だ。PHPの特徴は、各種データベースやWebサーバと容易に連携できるという優れた機能と、その機能を初心者でも容易に使えるという点で、本稿執筆時点で全世界の1500万ドメインを超えるWebサーバで稼動している(Netcraft調査結果)など、Webアプリケーション用スクリプト言語のスタンダードとなっている。

 PHPは1997年にリリースされたバージョン3(PHP3)で広く一般に知られるようになり、日本国内でもメーリングリストによる情報交換、日本語パッチの作成、マニュアルの翻訳といった活動が始まった。2000年に大幅に機能を向上したPHPバージョン4(PHP4)が公開され、より多くのユーザに使用されるようになった。

 PHPは主にWebアプリケーション構築用に用いられているが、PHP4.2以降コマンドライン版などが整備され、PerlやRubyなどの汎用のスクリプト言語と同様に様々な用途への使用が可能となっている。

ユーザ会の活動

 こうしたユーザーの広がりに伴い、オープンソースにおいて重要なコミュニティの健全な発展とユーザ相互の情報交換を目的として2000年4月に「日本PHPユーザ会」が設立された。ユーザ会の主な活動は以下のような項目ごとにワーキンググループを設けて行っている。

1. Webサイトによる情報発信

ユーザ会のWebサイトを運用、管理している。

2. メーリングリスト(ML)の整備と管理

扱う話題に応じて以下の4種類のMLを運営している。

a. 一般ユーザ向け:PHP-users

b. PHP本体の開発や国際化:PHP-dev

c. PHPに関するドキュメント整備:PHP-doc

d. PHPユーザ会の運営:phpug-admin

 これらのMLは、ユーザ会のWebサイトにおいて加入、脱退手続きが可能だ。また、MLの全文検索も可能だ。

3. ドキュメント整備

 開発において最新のドキュメントが整備されていることは重要だ。1000ページをゆうに越える「PHPマニュアル」の翻訳などが行われている。

4. イベント、セミナーの開催

 毎年夏の風物詩となりつつある「PHPカンファレンス」をはじめとするイベントなどを運用する。

5. PHPの国際化とマルチバイト化

 日本語を扱うために必要なマルチバイト文字対応機能をPHPにおいて整備するための活動を行っている。

6. PHPのテスト

 この活動はまだ始まったばかりだが、PHPのスケーラビリティを検証し、PHPが大規模サイトにも適用可能であることなどを示すことなどが目的である。

ユーザー会への参加

 本ユーザー会には、PHPに興味がある人なら誰でも参加することができる。

 日ごろ「PHPユーザ会の会員になるにはどうしたらよいですか?」と聞かれることがあるが、特に参加の手続きは必要ない。自分が思った時点で会員として参加いただけるとよいと考えている。したがって、「会員は何人程度いるのですか?」と聞かれると困ってしまう。このような質問には、MLの登録人数を回答してコミュニティの大きさの目安にしていただいている。ただし、当然ながら、MLに参加している人=ユーザ会の会員というわけではない。

 ユーザ会のMLやイベントには誰でも参加することができる。また、Webサイトの作成やドキュメントの整備などの運営側スタッフも随時募集している。

 ドキュメントの整備のような地味で時間がかかる重要な作業を継続的に行っていくことは難しいのであるが、幸いにして、PHP関連のドキュメントは有志の手により整備、配布されており、PHPコミュニティの貴重な財産となっている。

開発者のコミュニティとしてのユーザー会

 「日本PHPユーザ会」は、ユーザーのコミュニティであると同時に、PHP本体の開発にかかわる開発者のコミュニティとしての側面も有している。オープンソースの良いところは、ソフトウェアを使うだけでなく、その開発自体にも関われることである。多くの開発者が参加し、ユーザーからのフィードバックを速やかに反映することで、開発のスピードと高い品質を両立することができる。

 日本国内のユーザーにとっては、マルチバイト文字が正しく処理できることが重要だ。PHP自体は、シングルバイト文字圏の開発者により開発されたため、日本語を使うと一部の機能に問題が発生していたが、PHP4以降、マルチバイト文字対応機能が有志の手によりPHP本体に取り込まれ、日本語を問題なく扱えるようになっている。こうした開発者はPHP本体の開発者のコミュニティのメンバーとして活動している。 開発者として参加するには高度なプログラミングスキルや英語力が必要と思われがちだが、実際には様々なレベルのスキルを有する開発者がPHPの開発に関わっている。

 また、PHPのバグをフィードバッグすることなどで比較的容易に開発に貢献することも可能だ。こうしたフィードバックを容易にするために、バグ追跡システムなども整備されている。

ユーザー会の運営

 「PHPユーザ会」は、複数のボランティアスタッフにより運営されている。本特集「国内代表者に聞くオープンソースの今」の他のコラムを見ても分かる通り、各ユーザー会はさまざまなポリシーの元に運営されており、その運営方法自体もさまざまだ。「PHPユーザ会」は、「決まりごとはできるだけ設けない=必要なことは必要な時に決める」という、とても、ゆるやかな(ある人にとってはいい加減ととられるかもしれないが)方針のもとに運営されている。この方針は、運営自体に対する負担を軽減するために有効であると考えている。例えば、「PHPユーザ会」では会長を決めていない。各ワーキンググループ(活動)ごとに必要に応じて幹事をたてているが、いわゆる役職は設定していない。(もちろん、必要になったら誰かが立つことになりますが)このような運営については責任の所在が不明確になるのではないかという懸念もあったが、(少なくとも今のところ)うまく運用されている。

ユーザー会の今後

 ユーザー会の運営を含めてオープンソースに関わっていく上で、もっとも重要なことのひとつは、「モチベーションの維持」だと思う。そのために何が必要かというとなかなか難しいが、基本的にはPHPというすばらしいソフトウェアを個人が楽しんで関わっていく以外に無いのではと考えている。ユーザー会の運営スタッフについても多くの人にPHPが使われ、すばらしさが評価されることでモチベーションを維持することができる。

 そのような中でも、数年ぶりのメジャーバージョンアップにあたるPHPバージョン5(通称、PHP5)が今年夏までにリリースされる予定だ。PHP5では、PHP4の弱点だったオブジェクト機構をはじめ、XMLやWebサービスへの対応など大幅な機能強化が行われる。また、現行のPHP4に関して今後新機能の追加は行われないが、バグの修正などは継続的に行われる予定だ。

 Webアプリケーションが進化し続ける限り、PHP5以降もPHPは進化しつづけることだろう。そして、PHPの開発ポリシーである「使いやすさ」は今後ますます多くのユーザーに受け入れられることだろう。みなさんもPHPの楽しさを味わってみてはいかがだろうか?

Do you PHP ?

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関連リンク
▼日本PHPユーザ会
▼PHP公式サイト(英語)
▼Linuxチャンネル

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