IDG インタビュー
2004/05/11 12:54 更新

Interview:
SAPのカガーマンCEO、欧州経済回復の遅れを示唆

1年前、共同創業者のプラットナー氏からCEOの座を引き継いだカガーマン氏は同社の建て直しに成功している。Dellとの提携や欧州経済、欧州への事業投資について話を聞いた。

 ハッソー・プラットナー氏が創業者兼共同CEOの座を退いた後、へニング・カガーマン氏がSAPのリーダーという大役を引き継いでから1年以上が経過した。カガーマン氏によって同社は2003年の厳しい事業環境から抜け出し、先ごろ発表した最新四半期では、米国市場におけるERPソフトウェア売り上げの好調にも支えられて堅実な結果を収めることができた。

 カガーマン氏は4月26日、Dellの会長兼CEO、マイケル・デル氏とともに、ニューヨークのナスダックで両社の提携拡大を強調した。カガーマン氏とデル氏は、エンタープライズコンピューティングの「スケールアウト」戦略を支持している。これは、この10年間データセンターの主流だった大規模なSMP(対称型マルチプロセッサ)の代わりに、高性能かつ低コストの2ウェイや4ウェイサーバを用いるものだ。

 ニューヨーク滞在中、カガーマン氏はIDG News Serviceに対し、DellとSAPの提携拡大、欧州経済全体の回復過程、EU(欧州連合)拡大などのテーマに関して、独ソフトウェアベンダーの立場から見解を示した。

IDGNS 本日の(提携)発表は、SAPにとって何を意味するのでしょう?

カガーマン これまでの提携関係で達成したことをさらに強調するものです。時には、これまでの経過を示すことも重要です。

 私にとっては、(スケールアウト)戦略がちゃんと機能するということを示す証拠以上のものです。顧客が実際に利用しており、移行の結果としてのTCO削減を実証し、顧客が想像しなかったような環境でも動くことを実証できたのです。

 これが、今回の提携です。市場に対して、これは単なるアイデアではなく、実際に機能することを示すためです。これは、ユーザーにスケールアウトを選択させるというわれわれの戦略が正しいことを確認するもので、TCO削減という効果があることを確認するものです。通常これが、提携関係が機能すべき姿なのです。

IDGNS ハードウェアのパートナーとしてDellに注目しているのは、Dellがアプリケーション事業をやっていないからですか?

カガーマン 違います。そうではなく、Dellにとってこの分野はフォーカス分野の一つであることから、彼らの動きが非常に速いためです。われわれは他社とも話をしています。しかし、彼(マイケル・デル氏)はこの分野にとてもフォーカスしているので、この発表をとても早い時期に行うことができたのです。

 他社と同じようなことをしないという意味ではありません。

米国に牽引されて欧州も回復

IDGNS 欧州の技術市場の現状を教えてください。

カガーマン 基本的には、欧州の景気回復が遅れているというのは真実で、疑う余地がありません。SAPとSAPの業績を見てみると、歪みがあることが分かるでしょう。米国のソフトウェア売上高は65%の成長を、逆に欧州では2〜3%の減少を予想しています。これは、あまりにも大きな不一致といえます。

 欧州に比べると米国企業は投資に対してかなりオープンです。米国企業は熱心で、これは驚きではありません。われわれは、今年の初めにこうなることを示唆していました。欧州は2四半期遅れだと思っています。今年は欧州でのライセンスが成長すると期待しています。でも、米国がその成長を明らかに牽引することになるでしょう。

IDGNS 歴史を振り返ってみれば、そうなるでしょう。

カガーマン 今回が初めてではありません。米国が上向き、その後、投資コミュニティーのだれもが、今度は欧州が追いつかなければならないと言っていたことを憶えています。結局、欧州は追いつけませんでした。

 われわれSAPの欧州での事業は非常に安定していましたが、欧州は追いつくことができませんでした。現在、だれもが待っている状態で、米国経済が再び持ち返しつつあります。米国の人たちは楽観的でした。そして欧州が後を追います。残念なことではありますが、これが回復のパターンになっているようです。

東欧の安価な労働力が強みに

IDGNS EUが結成されてから(統一通貨を用いるようになり)、今回は変わってくると思いますか?

カガーマン そうですね。多少、同質的になりましたが、それでも各国により環境は異なります。私は今でも、欧州を30程度の国の集まりだと見ています。順調な国とそうではない国があります。

 欧州を完全に1つのエンティティーとして見なすまで、あと10〜20年かかるでしょう。欧州は、自分たちに投資して、まず物事を起こさなければなりません。これが私の理論です。

 ドイツでいえることは、10年間ものあいだ、統一のための大規模な取り組みが行われてきたということです。これは欧州が今でも経済面で苦しんでいる理由の一つです。ドイツが抱えている課題を見ると、私が思うにその一部は、2つの国(東ドイツと西ドイツ)を統一するために、大規模な投資と努力が行われたためだと思います。

 今の欧州を見ると、とても低いレベルの国が8〜10カ国あります(編集部注:5月1日、さらに10カ国がEUに加わった)。しかし、これらの国々では、10年前と比較すると状況は好転しています。ハンガリーのような国に行くと、1990年代よりは事態は良くなっていることが分かります。

 それでも、(それらの国々における)給与レベルはドイツの20〜25%です。これは大きな不一致です。平均的なドイツ人労働者の20%で働く労働者が流れ込むことでしょう。

 欧州を大きな一つのエンティティーと言うことはできません。時間がたてば、近づくでしょうが、まだその段階に達していません。

IDGNS 安い労働力を自国内に供給できるということは、ドイツにとってチャンスとなると見ていますか?

カガーマン 私は、これを強みと考えています。SAPは米国企業と同じように、中国に投資しましたし、今後も継続します。でも、東欧はわれわれにとって特別な場所です。東欧は地理的に近く、文化が同じです。東欧における投資を増やして同じ割合まで引き上げる必要があるでしょう。今後、ブルガリアなど東欧に対してもっと投資することになるでしょう。

 現時点でEU内のコストの安い地域に投資することは、SAPにとってチャンスとなる可能性があります。通貨が同じなので、リスクは低いでしょう。インドには同じスタンスで投資できません。リスクが高すぎます。次の重要地域は、東欧といえるでしょう。

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