ERPの強みをあらゆる企業に伝えていく
中堅企業市場の立ち上がり、オープン化、既存ユーザーのシステム拡張など、さまざまな視点が考えられるERP市場についてSAPジャパンの藤井社長に聞いた。

 企業の基幹システムとして、ERPは基本的な選択肢として認識されるようになった。その中で、特に大企業向け市場で大きな存在感を見せるのがSAPだ。日本でも、製薬をはじめ、業界スタンダードとしてのSAPに価値を見出し、導入に踏み切る企業も多い。2003年は日本に限らず、大企業市場に成熟化の兆しが見え始めたことを背景に、ベンダー各社は中堅規模のERP市場を強く意識するようになった。

 そうした市場の変化を敏感に察し、米PeopleSoftによる米J.D.Edwardsの買収、さらに米OracleによるPeopleSoftの買収騒ぎ、SSA GlobalとBaanの統合といった動きをはじめ、アプリケーション業界全体に激しい再編の波が訪れた年だった。業界トップとして、SAPはERPの今後についてどう認識しているのか。SAPジャパンの代表取締役社長、藤井清孝氏に話を聞いた。

ITmedia 2003年を総括してください。

藤井 2003年は、IT投資が多少回復したものの、依然として厳しい状況は変わらないと言わざるをえない年でした。大企業の業績は堅調ですが、中堅企業のビジネスはまだ明るさを取り戻していません。大企業では、製薬のようにほぼすべての企業がSAPを利用している業界もあります。ただ、製造業をはじめ、会計などの機能を部分導入しているユーザーも多いため、そうした企業にほかのモジュールを含めてSAP製品をもっと使ってほしい。中堅企業向け市場では、低価格帯で他社と競合するケースが見られました。


IT投資が多少回復したものの、依然として厳しい状況は変わらないと言わざるをえない年でした

 具体的な製品として好調だったのは、コールセンターです。コールセンター業務をアウトソースしていた企業が、自社システムとしてインソースを検討するようになっており、コールセンターの第二の波が来ていると考えています。これまでは「サービスの窓口」でしたが、今後コールセンターは、顧客とのつきあい全体を把握する重要なツールになります。注文履歴、在庫状態など、企業の基幹システムが持つデータと連携していなくては、顧客に十分なサービスを提供できないのです。

ITmedia 海外ではOracleやPeopleSoftなど、ERPベンダー周辺に動きがありました。

藤井 SAP自身にとって、特に影響はありませんでした。ただ、米国では、トラブルを回避する動きがユーザーに見られたのか、シェアが上昇しました。

ITmedia SAPの施策で大きかったものとして、NetWeaverの発表がありました。そのほか、ユーザー動向を見る上でどんなことが印象に残ったでしょうか?

藤井 NetWeaverは、プラットフォームやOSに依存しないシステムを構築していくためのコンセプト。オープン化というSAPが掲げるテーマを示す重要な取り組みでした。ユーザーとしては、国立大学の独立法人化の動きにより、10数件のSAP導入プロジェクトが立ち上がりました。公共企業や、電力の自由化にともない電力会社のユーザーも獲得に成功しています。全体として、大企業市場では競合することが少なかった。他社との争いが予想される小規模企業向けには、「SAP Business One」という製品をリリースしています。

ITmedia ERP市場の今後の動きはどうなるでしょうか。

藤井 大企業を中心に、既にERP導入が終わった会社が、次に進む選択として、ポータルやPLM(Product Lifecycle Management)があると思います。家庭用の電気機器に例えると、テレビやDVD、ステレオなど、デバイスごとにリモコンが部屋に転がっていて煩わしく感じる人も多いでしょう。現在は、それらをパソコンで管理し、1つのリモコンで統合的に操作できるような技術が求められています。それと同様に、企業の従業員も、単なるGUIとしてではなく、個人の業務をベースにしたポータルを導入することで、既存システムが持つ可能性を引き出すことができるのです。

ITmedia ERPを語るときに、人事、会計、販売、さらにSCM、CRMといった機能が考えられますが、これらをすべて1つのベンダーで提供するSAPなどに対して、専業ベンダーが提供する個別の機能を選択して構築するベストオブブリード型もあります。

藤井 間違いなく、我々のような「ベストオブスイート」型が勝ち残ります。システム間統合にかかるコストの大きさが意識されているからです。専業メーカーやニッチプレーヤーは今後、ほかの企業を統合するか、または自分たちが統合されるといった戦略を取らなければ、生き残りが難しい。現在は、ビジネスは回復しているものの、株価はまだそれを反映していない状況です。企業を買収するにはいい状況と言えます。

ITmedia 2004年はどんな年になるでしょうか?

藤井 2004年は中堅市場により力を入れていきます。大企業での導入で得たノウハウをすばやく、低コストで展開していきたい。そのために、代理店との関係も深めていきます。大企業市場では、NetWeaverにより、これまでの投資をいかに活用するかをテーマにします。業種では、金融機関の勘定系や政府系企業、グローバル企業への導入を進めて、日本の競争力を上げることに貢献したい。また、メインフレームのリプレースも積極的に提案します。メインフレームは今後、メンテナンスを担当する人材の高齢化という問題が出てくることが予想され、さらに作業が属人化してしまうからです。

 また、日本を強くするのは中堅企業という認識の下、「あらゆる企業にSAPを導入する」ことが抱負です。ポイントになる機能にはビジネスインテリジェンスも挙げられます。注力する業界は、これまでのハイテク、自動車、化学などに加え、今後は消費財、製鉄、窯業などです。

ITmedia SAPの強みとして思い浮かぶことは、システムインテグレータなどが自主的に、SAPジャパンの社員がいない状況で、SAPの製品の導入を指導するセミナーが開催されることです。つまり、製品が一人立ちしているイメージがあります。

藤井 確かに、SAPを中心とするいいエコシステムが構築されています。SAPとパートナーとの関係は、SAP全体でも日本が最もいい状態です。SAPに関係するコンサルタントの数も非常に多い。パートナーとの関係は常に重視しています。

ITmedia 社員にはどんなことを伝えますか?

藤井 2004年をイメージで例えるなら、「赤い夜明け」といったところです。薄日が差していることは間違いない。社員には、「ソフトウェア業界をもう一度、高度成長路線に戻そう」とメッセージを送ります。

2004年、今年のお正月は?
2004年の正月は東京にいるという藤井氏。日本以外のボードメンバーも担当している同氏は、欧州への出張なども多く、0泊2日といった強行スケジュールも多かったという。「お正月は子どもと富士山周辺のスキー場に出かける」と話している。

2004年に求められる人材像とは?
“ITの人”でなくても、業務に詳しい人、比較的若い人を中途採用していきたい。

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[聞き手:怒賀新也,ITmedia]