企業に高まる「BIを持たざるリスク」
ビジネスインテリジェンスという言葉が広く浸透した2003年。コグノスの田上一巳社長によれば、2004年は、BIを持たざるリスクが意識され始める。

 2003年は、ビジネスインテリジェンス(BI)という言葉が企業システムの中で確固たる地位を得た年と言っていい。不況を背景に、企業にはスリム化が求められた。さらに今後は、競争力を確立していかなくてはならない。そのために、企業は長年自社に蓄積してきた膨大なデータを活用しない手はない。あるいは、活用できなければ生き残れないという認識が一般的に広がってきている。

 BIベンダートップ、カナダのCongnosの日本法人で社長を務める田上一巳氏は「“ビジネスインテリジェンス推進部”といった肩書きを記す名刺を多く見かけるようになった」と話す。BIでデータを活用することが今後の企業にとって何を意味するのか、田上氏に、2003年を振り返り、2004年の展望を話してもらった。

ITmedia 2003年はどんな年でしたか?

田上 2003年は、OLAPのPowerPlayと並ぶ主力製品としてレポーティングツールのReportNetをリリースし、販売ライセンスが40%も増加しました。BIの認知度が高まったこと、顧客企業がTCOやROIに非常に敏感になってきていることが背景にありました。しかし、実は企業の要求に変化が起きていることにも気づいています。


「BIは企業システムの基盤として、なくてはならないものになる」と話す田上氏。

 例えば、いわゆる「PDC(Plan Do Check)」というビジネス手法が万能でないことがわかってきたのです。PDCには、外部要因などで引き起こされる不測の事態にすばやく対処できないという欠点があります。仮にPDCを「思考」と表現するならば、「反射神経」のような機能が企業に求められています。これに対応するのが、ガートナーの表現で言うリアルタイムエンタープライズ(RTE)であり、コグノスのReportNetなのです。さらに、全社的な視点で企業を管理していく手法として我々が提唱するCPM(Corporate Performance Management)を、RTEと絡めていくことで、より強力な企業情報インフラを構築することができます。

 例えば、企業の財務諸表をリアルタイムで管理する企業があったとします。たとえリアルタイムの数値でも、一見ROAやROIといった全体指標には何も問題が見えないケースは多くあります。しかし、実際には、指標を形成する各項目にドリルダウンすれば、もう数カ月も前から危険信号が点灯していたということがあるのです。これを、BIを活用することで、細かい数値に異常が発生した時にすぐ発見できれば、初期段階のトラブルを見つけた時点で「反射的に」対応できるのです。つまり、モニタリングの重要性が改めて認識されているということです。

ITmedia ユーザーのニーズには具体的にどのような変化がありましたか?

田上 もはや、効率アップのための情報システムはウケません。効率という面では、各企業が業務を研ぎ澄まし、無駄のないところまでスリム化しています。ただ現在は、かつて電卓が画期的でなくなったのと同じように、ユーザーは「一緒に考えてくれるシステム」を求めるようになっています。例えば、ペーパレスやバックログの解消をITが実現したと言っても、それだけでは顧客満足とイコールにはなりません。「パッとしないシステム」と呼ばれ、評価されないかもしれない。さらに言えば、数値が見えるだけでも限界がある。求めらるのはKPI(Key Performance Indicator)によって、たくさんの指標を組み合わせ、大量の事柄を確実に把握するという要求を満たしていくことなのです。

 その意味において、ユーザーがコグノスの製品を購入する動機が変わってきています。導入すれば競争力が上がってライバル企業に差をつけられるというだけではなく、BIを導入しなければ企業としてやっていけないといったように、購入しないリスクの方が意識されているのです。

ITmedia BIを導入した企業の情報システム部門の役割にはどのような変化がありますか?

田上 昔は、情報システム部門は、営業やマーケティング部門から依頼されたデータを作成したり、テクニカルなニーズに対応することが主な業務でした。しかし、BI導入で各担当者が必要なデータを自由に参照できるようになります。そのため、情報システム部門は、経営戦略部門と一緒に全社的な戦略をITの観点から提案するような業務を行うことが求められるようになっています。

ITmedia 2003年のコグノスとしての取り組みで印象に残っていることは?

田上 IBM、富士通、またNECなど、大手のシステムベンダーと協業する体制を構築できたことが大きかった。これにより、従来では考えられないような大規模な企業ユーザーに接触できるようになりました。システム構築の案件が多いため、プロフェッショナルサービスへのニーズも高まりました。一方で、製品を間接販売しているビジネスパートナーの多くが、自社システムとして製品を購入してくれたことは嬉しいことでした。

ITmedia BIベンダーとして、ライバル企業とどう差別化していきますか?

田上 ライバルとしては、これまでビジネスオブジェクツやSAPなどが挙げられてきました。しかし、本当のライバルおそらく、COBOLだと考えています。つまり、メインフレームを中心とするカスタムメイドのコンピュータです。商談において、「資金がないからコグノス製品を買えない」とする顧客の多くが、メインフレームには高い維持コストを支払っていることも多かった。電気代だけで月100万円もかけているという企業の話も聞きました。オープン化の推進については、同業他社と協力したいと考えているくらいです。ただ、拡張性などを考えて、オープンシステムへの移行を決断する企業は確実に増えています。

ITmedia 2004年はどんなことに取り組みますか?

田上 2004年は、顧客企業への提案により力を入れたい。業界および業種別へと、BIの範囲が広がっています。最初は部門BI、次にエンタープライズBI、そして、CPMへと展開していく。その上で重要なことは、やはりKPIによって指標経営を行うことの効果を伝えることだと考えています。

 1980年代半ば、スプレッドシートが登場したときには、各企業の「課長が決裁できる価格」が設定されました。その後、マイクロソフトのExcelに代表されるように、1人に1つの時代がやってきたことは言うまでもありません。BIも、部門担当者が利用するものから、社員全員が使うものへと移行する過渡期にあります。

 経済は2004年も引き続きそれほどよくならないでしょう。そんな中で、生き残りのためのIT投資が増えてくる。エンドユーザーがBIを購入せざるを得ないという時代がすぐそこにやってきています。

2004年、今年のお正月は?
正月は鬼怒川温泉で家族サービスしたという田上氏。釣り好きで知られる同氏は、本当はニュージーランドへ行きたかったと話す。そのほかの休日は、水に浮かぶフライを作るなど、釣りを満喫した。

2004年に求められる人材像とは?
新しいビジネスモデルを構築できる人材。経験よりも創造力のある人がほしい。私自身、経験に頼るようになったら終わりと思っている。最近は油っこいエンジニアがいない。本当のエンジニアはビジネスを知っている人。ビジネスの上で役に立つから技術なのだという認識を持っている人を求めている。

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[聞き手:怒賀新也,ITmedia]